第百六十一話:証明
取り敢えず、僕は其の魔素をコ̊ウと名付けた。此れはエカルパル文字の名称から拝借した。
魔素は熱属性、冷属性、雷属性、風属性、地属性、ゲード属性、ダーベイ属性に反応する魔素に対応して、イゥ̻゛、エキ゚ャ、ウㇻ̇ラ、オヹ̇ール̇、アク̊ーㇳ゛、アェレ̈ー、オェニュー、と名付けられて居る。A、B、C、D、みたいな。音が其の儘そっくり対応はしないが。
僕等は村に戻って来た。そして、村長の家のドアを叩く。
ガチャ、と云う音と共に扉が開けられると、其処から寝惚けた様な顔の村長が出て来た。
焦点の合わない目だ。
彼はごしごしと目を擦ると、間延びした様な声で話し掛けて来た。
「……ん、なあに?」
「村長……?」
余りのお惚け具合に、僕は少し首を傾げる。
頭の毛が乱れて居るから、昼寝でもして居たのだろうか。
「ふわああああ……別に、良いじゃない……。」
彼は大きく欠伸をすると、半目で僕を恨めしげに見て来た。
ああ、やはり昼寝をして居たのか。なら、
「……んで、何よ?」
彼から態々話し掛けて来てくれたので、僕はにっこりと頬笑んで交渉を持ち掛ける。
「一寸村の人を何人か集めて一斉に黒化させて良いですか?」
「……ええ、良いよ。」
彼は半目開きで、そして何も考えて無さそうな顔でうんと頷く。
「って、えっ?」
目を大きく見開いた彼は僕の目をじっと見詰める。驚いた様な表情をして居る。
あ、マズい。さっさとズラかろう。
「あ、有り難う御座います‼︎ なら、今から村の人を集めて来ますね。」
僕は大きくお辞儀をしてさっさと其の場を後にした。何か「一寸待ちなさい」とか言う声が聞こえるが、僕は気にもしない。早足で広場に向かった。
広場に向かって居る最中、何かを思い出したみたいにヷルトが話し掛けて来た。
「……おい、那れ大丈夫なのか?」
何処と無く心配そうな、其んな表情で彼は尋ねて来る。其の疑問に付いては一つしかない。
「いいや、大丈夫じゃないね。」
僕はキッパリと言った。大丈夫では無いに決まって居る。那の頑固者の村長だ。
「おい。」
「けど、此うでもしないと許可は絶対に取れないもの。
村長、絶対に許してくれないと思うよ。」
口を尖らせて言った。那の人、自分からやってくれとは言う癖に、真相に迫ろうとすると途端に止めに入ろうとするから困る。
すると、彼は陰りの有る顔を見せる。
「やっぱり、那れか? 信仰的な意味で。」
「うん。」
僕は軽く頷いた。村長は結構那あ見えて先祖代々継承されて来た物を大事にする方だ。
「だから、多分駄目。」
そして首を横に振る。
「……けど、お前の話を聞く限り、村長側から受け容れたみたいに聞こえるじゃないか。」
「うん。確かにね。」
ヷルトが納得の行かない様な顔をして其んな疑念を吐く。
……其うなのだ。そう。其んな筈の村長なら、きっともう僕を追い出して居るに違いないのだ。
「僕がね、花の研究をしたい、って言ったら、村長側から」
「『じゃあ、一つ頼みが有る』」
少し声を低くして、彼の声を真似る。
「って言われてさ。」
彼を見ると、彼はほんのりと笑って居る。
「そしたら、其れが此れだったのよね。」
「此処で研究対象が二つに増える何て思いもしなかったよ。」
僕は「はっはっは」と言い眉を曲げる。何となく、微妙に笑い切れてない気がする。
「へえ、けど、其うしたら何でお前を容れたんだろうな?」
彼は首に手を当てて居る。彼にとっては疑問が深まった様にしか思えないのだろうか。
右上を見て考え込む。僕も何故、と云う事迄は分かって居ない。如何してだっただろうか。
「さあ……けど、村長は村長で切羽詰まってたんじゃないかな。」
呟く様に、霧が消える様にぽつりと言った。
最初に会った時、彼は何処と無く焦って居る様な表情をして居た。
何か途轍も無い問題を抱えて居るかの様に。
「分からないけどさ。でも、此の現状を見て居ると、其うとしか思えないんだよね。」
顔を上げて、ヷルトの方を見た。彼は前を向いて腕を組んで居る。
「……ぶっちゃけ僕で良いのか、って云う疑念は有るけどさ。」
自信を親指で指して、僕は笑った。自虐的に。
いや、笑えて居ない。微妙に引き攣った表情をして居るのが自分でも分かる。
僕依り凄い魔導師なぞ他に、其れはもう有象無象の如く居る。だから、僕が研究する依りも他の人にさせた方が良いのじゃないと思う。
「良いんじゃないか?」
其んな僕を見てか、彼は微笑んで居った。肩に手が置かれる。
服の上からでも仄かに暖かい。
「其うかね。」
広場にはバテて寝っ転がって居る銀狼達が居る。
彼等はヘトヘトに成って居るのか唸り声にも成らない様な気の抜けた声を発して居る。
僕は彼等の様子を事細かく詳細に書いて居る。彼等が何んな風に魔法を発動させて、何の様に変身するかを記録して居る。うん、良いデータが取れた。
村長に怒られないか心配だったが、今の所後ろで只腕を組み僕等を監視して居るだけだからきっと大丈夫だろう。
「あ、計測の方、如何?」
「ほら、見てみろ。」
彼は何故か笑みを浮かべて居る。普通に見れば少し笑った程度の薄い笑みだ。
僕は彼が持って居る機器を覗き込む様に見る。
石は真っ黒に、測定器は紅々と光って居た。
此れで分かった。総ての線が繋がった。
「……やっぱりね。ありがと。」
僕は其れを強く握り締めた。
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