第百五十七話:仮説※
一月二十五日、不足して居た情報を修正しました。
僕は又、銀狼の村に来て居る。今回は例の花の研究では無い。
今回は銀狼達の事を研究しに来て居る。勿論、例の花の事に付いては未だ未だ気になる事は有る。
が、其れに付いては割りかし資料が取れた。次の学会で発表出来る位には。
だから、今やるべきでは無い。
すると、次に気になるのはやはり彼等の事。
村に帰って如何にか彼等の不思議を解き明かそうと思ったものの、自己解決は出来無かった。
やっぱり、彼等に訊くのが一番だ。人体実験は……難しい。彼等の意思も有るのだし。
もっとデータは取れない事は無いだろうが、彼等は嫌がるに決まって居るだろう。
其んな、変身能力は見せびらかす物でも無いからな。信仰的に。
僕は立ち上がった。すると、後ろからヷルトがとんとんと肩を叩いて来る。
「如何した? 顔が暗いぞ。」
僕の顔をまじまじと見ると、彼は其う言った。
「……え、其う?」
僕は彼の顔を見返す。彼は、何時もの調子で僕を見て居る。
全く自覚して無かった。其処迄暗いだろうか。
「やっぱり引き摺ってるんじゃないか?」
「……其うかもね。又死のうとしてたら嫌だもん。」
僕は頷いた。彼に、自分でも分かって無かった本音を当てられたかも知れない。
彼には死んで欲しく無い。転生……那れは亡くなって無いだろうから転生と呼んで良いか分からないが、彼の転生は殆ど手違いに思える。僕みたいに咎も持って無いのだから、胸を張って生きて行ける。
だから其んな事をする必要など微塵も無いのだ。
因みに今回バクダは来て居ない。何やらやる事が有るだ何だのと云って何処かへ行ってしまった。
其の『やる事』、が自殺だったら嫌だ。此の予感は的中しないで欲しい。
何時もの僕の妄想だと信じよう。
其う思うと、少しは気分が霽れて来た。其うだな、僕は研究に勤しもうか。
僕は彼を見上げて言った。
「ん、やろ?」
「お前は其の顔の方が良いぞ。」
彼はまるで子猫を触るみたいに僕の頭をわしゃわしゃとして来る。
止めてくれ。けれど、少し嬉しかったのも事実だ。
* * *
僕はナバル君の家にやって来て居る。扉をトントン、と叩くと中からつやつやとした銀の毛皮を持った母親が出て来た。何やら深刻そうな顔をして居る。
……此処で奇妙なのが、両親は只の普通の銀狼、と云う点だ。彼等も黒い訳では無いのだ。彼の言って居た通り。
つまり、言い方は悪いが彼は突然変異、と云う事に為るだろう。生物学的に云えば。進化かも知れない。
本来持つべき変身能力を失った銀狼。いや、黒狼、だろうか。
兎にも角にも、やはり彼は異常なのだ。
「あ、先生‼︎ 息子が大変なんです‼︎」
「えぇっ⁉︎」
驚いた。吃驚した。何だ? 息子が大変? 又何か有ったのか。折角良く成ったのに。
「分かりました、見せて下さい。」
僕は頭を下げて中に入って行く。
有る程度見せて貰ったが、魔力漏洩とか其う云う類の物では無さそうだ。
魔素を測る道具がびくともしない。魔力も特に変化が無い。
僕は医学知識が無いから其う判断して良いか分からないが……。
「あー……此れ、只の風邪みたいですね。熱も有るでしょうし……。」
僕は彼の額に手を当てて居る。しっかりと熱が有る。
母を見る。すると、彼女は目をギョッとさせて居る。
「なら、薬草を飲ませれば良いんですか?」
「……いえ、普通に、普通の食事を摂らせて下さい。栄養を摂って、規則正しい生活をさせて下さい。
治癒魔法で治らないなら、彼の治癒力に頼るしかないと思います。」
此の世界に飲み薬何て云う便利な物が有る筈無い。僕は首を振って答えた。
そもそも、治癒魔法で治らないのだから薬草を飲ませたとて治る訳、無さそうだ。
「逆に言えば、多分しっかり栄養を摂って規則正しい生活を続けさせて居たら、次第に良く成ると思います。」
僕は其れだけ言うと立ち上がった。
とは云えども、風邪は此の世界ではもしかしたら一番厄介な病気かも知れない。
恢復魔法の他に、属性を同じくする治癒魔法と云う魔法が有ったりする。
基本的に恢復魔法は傷を修復するだけに比べ、治癒魔法は病原体を根絶したり、ウイルスを弱体化させたり……体内に入って来た異物をやっつける事が出来る。此れが恢復魔法と治癒魔法の違いだ。
逆に言えば治癒魔法で恢復魔法の様な事は出来ないのだ。
後は宗教絡みの面倒臭い実情は有るが、置いておこう。
じゃあ、何故風邪は一番厄介な病気と言ったのか。答えは簡単、治癒魔法で治せない事が殆どだからだ。今回も。
けれど一般人は其の違いは疎か治癒魔法で風邪は治せない事は知らない。
だから治せないと知ると医者にいんちき医師だの藪医者だのと言うケースは少なくない。
何の世界でも医者は大変そうだ。
* * *
僕等は外に出て居る。そして、目の前にはヷルトが居る。
「あぁ、何してるんだ?」
僕はノートから目線を逸らす。
彼の方を見ると、彼の膝の上にはマリルが居る。彼は彼女を撫でて居る。
マリルはマリルで「きゅるきゅるきゅる」と甘えた様な声を出す。子供だからか、其れとも彼女が異常なのか、もう立派な獣人と化して居るではないか。
「ん、一寸見てよ、此れ。」
僕は彼にノートを渡す。彼は其れを受け取ると不可思議な物を見るかの如くジロジロと眺めて居る。
マリルは彼のノートを覗き込む様に見て居るが、首を傾げて居る。
「此れ、此の村の人の魔力量を測定したものね。細かい数値迄は今現在測れないんだけどさ。」
「上から、カインドロフ・メルダ・テルズメット、カインドロフ・エル・ガリルナード、カインドロフ・ベロード、エルメート・ヴェージュド、エルメート・ランドフ、エルメート・ナバル……」
上から箇条書きで名前と、そして隣には『色』が二種類、書かれて居る。
右は緑色、隣は濃い青色を示して居る。中には水色を示して居たりするが、此れは個人差、と云う物だから気にする物では無い。
「で、此等を見て気付く事、ない?」
「あぁ、右が黄色で、左が濃い青色、だな。」
ヷルトは僕を見て言った。
「そう、右は変身前の、左は変身後の、物ね。
つまり、変身すると魔力量が上がって居る事が分かるの。」
「で、此れが僕の魔力量を示した物。」
僕は別のノートを出した。実は、十五歳〜十八歳迄、つまりは那の村に行く迄、魔力量を毎日測って居た事が有る。殆どが濃い青色を指して居る。
「青色、でしょ? 其れも彼等と同じ様な濃い青色なの。」
「一寸良い? 右手出して。」
僕は魔法陣から水晶の付いた見た目からして奇妙な道具を取り出す。
腕輪の様な其れを彼の右手に巻くと、其の水晶は濃い青色に光り始めた。
僕依りか濃い青色に成って居るだろうか。
「……うんうん、やっぱり青色に為るよね。」
僕は腕輪を外しながら感謝を述べる。
「って事は、多分僕と君の魔力量は同じ位。まぁ、此れは紅目だから予想はしてたんだけど……。」
其れを了おうとちらっとマリルを見ると、彼女は此の道具をキラキラと眼を輝かせながら見て居た。
折角だし、彼女の魔力量も測って置くか。
「……やる?」
「うん‼︎」
と大きく頷くので、僕は彼女の腕に其れを巻き付けてみる。
すると、其れは直ぐ様発光し始めた。
「……うん、ありがと。」
やはり、魔力量は子供としては普通の黄色を示して居る。
赤でも無いのなら、多過ぎる訳でも少な過ぎる訳でも無い様だ。
僕は唇を噛んだ。
其んな様子をヷルトは首に手を当てながら見て居る。
そして口を開いた。
「……つまり、如何云う事だ?」
ヷルトは此れが何を指すか分かって無いみたいだ。
なら、言ってやろう。簡単に、簡潔に。
「もしかして、紅目と彼等の変身能力って、一緒じゃないかと思ってね。」
すいません、嘘吐きました。少し、じゃないですね。諸に関係が有りますね。
* * *
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