第百五十三話:樽俎
更新かなり空いてしまってすいません。此れからは毎日投稿を再開して行きますので宜しくお願いします。
僕はアルさんの家に来て居る。理由は樽俎を開く為だ。
本当は教会か何かでも借りたかったのだが、やはり獣人に差別的な教会と云うのは強ち間違いでも無い様で、教団員が僕の姿を見るなりダーベイ属性の魔法で追いやられてしまった。
其んな此んなで彼に頼み込んで樽俎の準備をして居る訳だ。
彼の家は広い。結構広い。僕の家何か比に為らない位には広い。
此の村の人の人口は如何だったっけか。分からないが、もしかしたら皆入ってしまうかも知れないな。
料理等はヷルトとアルさんとハガルさんがやってくれるみたいだから、僕は彼女と共に宴が有る事を伝えに行こう。
「ヱトロさーん、行きましょう?」
「え、あっ、ちょっと待って!」
彼女は革靴の紐を硬く締めて居る。
* * *
「後は何処の家回ってないっけ?」
「一つ位かな? 掲示板にももう書いてますよね?」
すると、彼女はこくんと頷く。
さて、僕等は各々の家を回って居る。
殆どの家を回ったのだが、大体の反応は「お、おう……」とか言いながらも僕等の話を興味深そうに聞いて居た。やっぱり、皆好き何だな。此処は娯楽何かも無いだろうから、宴位しかないのか。
そして最後の家、僕が行くのを躊躇って居た家だ。
そう、例の家。マリルの家だ。あぁ、此処、本当に来たく無かった。
でも彼女は其れでも一応行かなければ行けないと言うので仕方無く来て居るのだ。
彼の家の前に来た僕だけれども、何かおどろおどろしい雰囲気を感じて怖気付いてしまう。
後ろの彼女を見ると、行け行け大丈夫だとでも言うのだろうか。眴せをして握った両手を僕に見せて居る。
はぁ、と大きく溜め息を吐いた。でも、やるしかないか。
僕は幾らか地面を眺めて居たが、覚悟を決め、扉を拳でドンドン、と強く叩いた。
ガチャ、と扉が開かれる。扉から彼が顔を覗かせる。何故か彼の顔は窶れて居る様に見えた。
「あ、こんにちは……久々ですね。」
僕は成るべく愛想が良い様に笑顔を作る。彼は僕の様子を見て何か暴言でも吐いて来るかと思ったら、ゆっくりと扉を開けて来た。
よくよく見ると、瞼の下に隈を作って居るみたいだった。
彼は殆ど寝て無いのだろうか?
「……コルテム神の事じゃなきゃ別に良い……ほら……悪魔が居ると運気が下がるんだ……あっち行けって…………。」
彼は扉をゆっくりと閉めようとした。
僕は少し見詰めて居たが、少し焦りながら無理矢理抉じ開けた。
「あの、今日の十三時位から、樽俎をやるんです。
今日は国立記念日でしょう? だから皆で国の誕生を祝う宴でも行おうと思いまして。
アルさんの家でやります。どうか来てくれませんか?」
僕は扉から覗き込み、そう言って彼に手製のチラシの様な物を渡す。
彼は其れを受け取ると、其の儘家に入ってしまった。パタンと扉が閉められ、風はひゅうひゅうと哭いて居る。
僕は後ろに目線を移す。彼女は彼女で首を傾げ、眉を顰め、如何したら良いか分からないみたいだった。
少し待っていると、急にガチャっと扉が開かれた。
「なになにー! なんかやるのー⁉︎ 行くー‼︎」
中からはマリルが出て来た。そして、僕に抱き付く。僕は其れを抱き上げると、彼女はキャッキャとはしゃいで居るみたいだ。
「そうだよ〜。宴を開くんだよー。」
僕はにこにこと笑って彼女に接して居るが、内心は酷く落ち込んで居た。
結局、此うか。駄目だったか。おまけに、彼は窶れて居る様に見えたもの。
「……いいの?」
「うん……。」
彼女は僕の眼を覗き込んで来る。僕は頷くと、彼女を連れて家に向かって行った。
* * *
「「「「「「じゃあ、かんぱーい‼︎」」」」」」
村の人達が一つの長い机を囲み、ジョッキを打ち付け合っている。
後ろを見ると、其処にも同じ様に乾杯をして居た人達が居た。
机の上には豪勢な料理が並べられて居る。勿論、ベㇻ̇ㇺマェリ̈アッㇳも。
結局、村の人全員は集まってくれなかった。
然し、半分以上は集まってくれた様で、予想依りも沢山の人が集まってくれた。
僕はジョッキに口を近付ける。けれど、其れは苦くは無いが、アルコールの癖が強い。
勿論、此れは僕が意図して選んだ物だ。呑み易くて、そして酔い易い物を。
だから、ヷルトは度数の少ないワインを呑んで居る。
其んな事も露知らず、彼等はジョッキを呷って居る。
「……お代わり‼︎」
一人、男性が立ち上がりジョッキをアルさんに見せて居る。
……早いな。結構キツいだろうお酒なのに一瞬で呑んでしまったのか。
見ると、彼は口の周りに大きな白髭を作って居た。僕はくすっと微笑う。
其んな、お手本みたいな飲み方有るかよ。
ベロベロに成るのは話が通じないから困るが、さっさと酔ってくれた方が此方も助かる。
じゃんじゃん呑んで欲しい。お酒は樽二個分有るのだから。
……すると、案の定。
「うぇ〜、あー、へへへへ……楽しいなぁ‼︎ へへへ……。」
デロデロに酔った男性が現れた。腕を机にだらんと置いて、ジョッキを持って頬を赤らめて居る。
呂律が回ってない。
そろそろ、だろうか。けど、言っても良いだろうかと思って居ると、ヷルトが口を開いた。
「……リングの事って、如何思ってる?」
彼は其れだけ言うと、ワインを呷った。
でも、何となく分かる。お酒の匂いに塗れて分かり辛いが、彼からはお酒の匂いがし辛い。
きっと酔って居るフリをして居るのだろう。
「ふえ〜⁇ 村の英雄だろ。」
彼はジョッキを持って笑って居るが、何故か其の言葉に胸がギュッと苦しく為った。
きっとお酒の所為だ。其うに違いない。
僕はベㇻ̇ㇺマェリ̈アッㇳを啄んだ。
「はは、最初印象こそ最悪だったけど……でも、俺達の知らない所で色々やってくれてたんだな、ってさ。」
お酒は呑んで居るし、お酒特有の嫌な匂いがぷんぷんとするが、其の瞳は矢鱈純粋に見えた。子供の興味津々な眼と近しい眼だ。
「そうそう!」
「蔑んでた私達が馬鹿みたい。」
次々に村の人達から其んな声が上がる。
……聞きたくない。聞きたくは無い。僕はジョッキのお酒を呷った。
「お代わり。」
そして、ジョッキを空に高々と上げた。
「へいへい。」
彼はジョッキを持って行くと、何処かに行った。そして戻って来ると並々と注いだお酒を持って来て居た。
……もう、呑み明かそう。皆と一緒に馬鹿に成ろう。
* * *
「ひ〜……あぁ、酔ったぁ……。」
僕は彼に背負われて居る。余りにも呑み過ぎた。酔い過ぎた。
久々に此んなにも酔った。何処となく呂律は回って無い、おまけに頭痛も酷いのだ。
「……お前が酔う何て珍しいな。」
「…………分かんない……もう、分かんないんだよ。」
「何がだ?」
「……認められて良いのかって。」
「良いんじゃないか?」
「何でよ? 此んなクズは嫌われて当然でしょ。」
「……クズ、な。其れは違うだろう。本当にクズだったら、他人の気持ち何て分かろうとしないだろう。」
「そうなのかねぇ……ヒック……あぁ、もう、寝る。寝て、忘れる。」
「……ああ。嫌な気持ちは忘れた方が良いな。」
ふと、空を見上げてみた。其処には、やはり何も言わず僕を眺めて居る青い衛星が有った。
然し、今日許りは優しく微笑んで居る様な、其んな気がした。
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