第百五十二話:帰国
其の後、案外何も無く──いや勿論魔物が出たり何なりとしたが、行きの様な苦難は無かった。
僕は村に帰って来た。何故か広場に人が集まって居る。
はいはい、どうせ変に煽て持ち上げて僕を気持ち悪く扱うのだろう。悪魔崇拝か。
……と思って居ると、其の集団の中からアルさんが出て来た。
「あぁ、リング。ジュデバ国に行ってたんだってな?」
彼は握手をして来る。ぎゅっと握られ、気持ち良いのか分からないが蹠球を触って居る。
然し顔は真面目だ。「冷たくて気持ち良い」とかぼそっと言ったのに。
「え、うん。其うだよ。其うだけど……何で知ってるの?」
少し困惑しつつも、僕は頷きながら尋ねてみた。
彼は考えるふりをして「やっぱり気持ち良いな」と呟いて居る。
だから。
「マリルが言ってた。マリル、かなり落ち込んでたぞ。
次は帰って来ないんじゃないかって。」
彼は其の真面目な顔から真面目な話を繰り出す。
雑駁する。止めて欲しい。
「あー……。」
僕は右上を見上げる。そして、頭をぽりぽりと掻く。
……悪い事をしたな。
* * *
「ごめんね……。」
彼女は僕の家に居る。そして、玄関先で泣いて居る。
僕の姿を見るなり泣き始めてしまったのだ。
僕は頭を摩って言葉を掛ける位しか出来ない。
……そんなに僕の事が好きなのか。
「ひっ……ひっ……。」
喉を震わせて大粒の涙をぽろぽろと流して居る。
お陰で彼女の可愛らしい顔立ちがぐじゃぐじゃだ。
其んな姿をヷルトは居間から煩わしそうに見て来る。
……彼が子供が嫌いなのは分かるが、其んなに眉を顰める事か?
前回は其んな事に為らなかった彼女だが、まさか今回に限って此う為って居る何て思いもしなかった。
前回よりも長かったものな。前回は何だか全国に広まったらしいが、其うでも無い。
弱ったな。次行く時如何しよう。彼女を連れて行く訳には行かない……。
でも、行かないと研究は疎か、村長との約束すら果たせない。
一体、何方を取れば良いんだ。天秤に掛けても実物の有る物じゃないからタチが悪い。
だからって置いて行く訳にも行かない。
せめて、親御さんに許可を取って連れて行かないとな。其れしか方法も無いし、何より、
……無理矢理連れて行くのは親御さんも困惑するだろう。
此んな事言うのも何だか、綺麗に泣くな。自分の感情を出して、そして、わんわんと泣く。
僕はもう、其んな物で泣けなく成ってしまったからな。
彼女の其れが少し羨ましい。大人が子供に嫉妬何て醜い物だ。
さて、其れは良い。次、行く時には許可を取らないと行けないな。
其う思った。
* * *
とある日、僕は気分転換の為に噴水広場に居る。
馬車に揺られて居る時に考察を纏めては居たが、変にひょろひょろとして居た字に成ってしまった。
結局此れじゃあ、纏めた意味も無かったな。と思った。
何を纏めて居るかと云うと彼等に付いての事だ。
彼等は、勿論銀狼達の事。疑問が幾つも湧いて出るから纏めて居るのだが、どうも上手く行かない。
一体、如何やって此の疑問を解決すれば良いのだろうか。
そんな事を考えて居たら何だか脳の血が引いて行く様な妙な感覚がして居たので、外に気分転換に来たのだ。
水の音は良い。心地良い。前世とは聞こえて居る音も違う筈だ。
然しサロサロサロ……と云う心地良い音はやはり気持ちが良い。
きっと、人間には本当の水の音は分からないのだろうな。
僕が茫っと噴水を眺めて居ると、隣に女性が座って来た。
薄緑色の髪でボブカット。誰だろう? 全く検討も付かない。
「……ねぇ。」
けれど、其の一言で分かった。
あぁ、確か最初に挨拶しに行った時に聞いた声だ。
彼女の声は特徴的、とは言えないが迚も良く似て居る。
那の家に居た那の女性か。
「……はい……。」
僕は彼女の方をゆっくりと向いた。
「貴方、確かゴンフ̇ァェドㇻ̇ラ倒したんでしょ? 何ヶ月か前に。」
「村の人を代表して謝っておくわ。ごめんなさい。」
彼女は腕を後ろに回して最大限謝って来る。
「…………。」
彼女の眼を見る。特に、嘘を吐いて居る眼では無いが……其れでも、もしかしたら彼女が勘違いをして居るのでは無いかと勘繰る。
僕は其の言葉に唖然としてしまった。村の人を代表して?
ええ、何を言って居るのか。一瞬、理解が出来無かった。
「もう、村の人で貴方を蔑んで居る人は殆ど居ないわ。
だって、村を命懸けで守ってくれたのだもの。」
そして彼女は僕の手を取って来る。何だか気持ち悪くて彼女の手を無理やり引き剥がしてしまった。
「でも、此処の村の人って皆腰抜けなのよね。真面目なのだけど。
だから、謝れないのだと思うの。貴方と良好な関係を築きたいのなら、謝って置けば良いのにね。」
「けれど、許してやって。
あの獣人嫌いのおっさんは兎も角、他の人は貴方と仲良くなりたいだろうから。」
流眄の様な、何処か焦点の合わない目で僕を見て来る。
何だ、其れ? 心の底からムズムズとした感情が湧き出て来る。
其れは喉を通り、何時の間にか口内の外へ出て居た。
「はぁ、けど納得行かないですよ。謝りもせず、そして友好的になれ、って。
今迄散々何んな扱いを受けて来たと──」
僕は石筆を置いて大きく溜め息を吐く。そして頭をぼりぼりと掻く。
大人げ無いかも知れないが、僕は許す事は出来無い。
別に僕が納得して居ないのは厭忌した事では無い。
正直、其れは宗教絡みの事も有るし、僕の見た目からしても其う思ったのは結構腑に落ちるのだ。
其処は、彼等のテリトリーにズカズカと入り込んでしまった僕が悪い。
だが、其の後だ。其の後。其の後の事に僕は無性に腹が立って居るのだ。
僕の力や名声を利用したいのかは知らないが、僕に擦り寄る何て其んな見え透いた事、直ぐに分かる。
僕を何んな阿呆だと思って居るんだ。其んなのでホイホイ付いて行くか。
然も納税の日だと云うのに其れをすっぽかして一部の人に任せる始末だ。
本当に、如何しようも無い奴等と僕は思う。
けれど、彼女は其の僕の言葉を遮って来る。
「其うね。貴方の気持ちも分からなく無いわ。
でもね、彼等、本当に悔やんで居るのよ? 悪い事した、って。」
彼女は僕の眼にゆっくりと視線を合わせて来た。
本当か? なら、一つだけ試す方法が有る。
「……じゃあ、もう一回樽俎か何かでも開いてくれませんか?」
僕は其れだけ言って立ち上がった。
其処迄彼女が言うなら、付き合ってやっても良いかも知れない。
「え、えぇ? けど、貴方かなり嫌な顔して居たじゃない。」
彼女は当惑して頭を掻いて居る。
別に、僕は宴みたいな物は嫌いでは無い。
那の気持ちの悪い空気が嫌だっただけだ。
「あ、勿論お酒も用意して下さいね。」
家に帰る前に、くるっと振り返って其れだけ言った。
お酒は本音が出る。絶対に本音が出る。だったら、前世で飲みニケーション何て合成語、生まれて無いと思うのだ。
本当に彼等が謝りたいと思って居るのなら、お酒を呷らせてやればきっと本音が出ると思うのだ。
其処で僕の事を嘲る様なら其うだし、僕に対し謝りたい様ならきっと其うなのだろう。
「え、あ……うん……分かったわ……何とかして頼んでみるわ。」
彼女は困惑しつつも、ゆっくりと立ち上がった。
此れが多分、僕が歩み寄る事の出来る最後の事だろう。
其んな此んなで又宴みたいなのを開く様です。
今回はリングさん主導で。
* * *
此の作品が面白いと思ったら評価をお願いします。
モチベに成りますので、宜しければ。
其れと感想も気兼ね無くどうぞ。お待ちして居ります。
良かった所、悪かった所、改善点等有りましたらどうぞ感想にお願いします。
もし誤字や明らかなミスを見付けましたら誤字報告からお願いします。
宜しくお願いします。




