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Rɹænↄɐɹƚↄɐtion/リンキャルケイション  作者: 鱗雲之
第三章『獣人国へ』
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第百五十一話:エカルパル国に帰ろう

 時間は過ぎ、次の日に成った。

 思った依りもあっと云う間だった。

 何もしない一日は恐ろしく長いのに、何かもする一日は途んでも無く短いとは。


「んじゃ、お別れだね。」

「なぁ。」

 僕が帰ろうとする其の直前、ルローは思い出したかの様に僕の手を引っ張る。


「あの、あの魔法みたいな奴。如何やってたの? 俺にも出来る?」

「……魔法は才能じゃ無いからね。学べさえすれば出来ると思うよ。」

 自分の事を指差して、少し恥ずかしげに訊いて来る。

 成る程、魔法も使いたいのか。魔法が使えれば色々と出来るものな。

 僕は魔法陣を出した。そして、其処から一冊の本を取り出す。


「ほら、じゃあ此れ、僕が昔魔法の勉強の為に使って居た本。此れでも見て学びな。」

 其れを彼に手渡す。彼はにこにことした笑顔で直ぐ様其れを開けるものの、首を(かし)げて居る。

 きっと其の理由は一つしかない。


「あぁ、此れエカルパル語だから、其処に居るバクダに敎えて貰いな。」

「え、ちょ、何で⁇」

 僕は後ろに居るバクダを指差すと、彼は困惑した様な声をあげ、僕の肩を叩いて来る。


「村の人達との溝を埋める好機だよ。頑張ってね。」

 後ろを向いて口角を上げる。すると、彼は「ぬぅ……」とか言って僕を恨めしげに見て来る。

 あぁ、彼は教えるのが大の苦手だったっけ。


「じゃ、お世話に成りました! じゃあ‼︎」

 何か言われる前に帰らないと、と思った僕は手を振ってお辞儀をすると、マズゲッドに乗って足速に帰って行った。

 バクダが「おい!」とか声を掛けて来るが僕は其れを気にしない。

 どうか頑張ってくれ。きっと、彼は其んなに悪い子じゃ無いだろうから。


* * *


 電車に乗って居る。ガタンゴトンと云う音と共に車体が揺れ、微かな心地良さを生んで居る。

 窓はキネトスコープの様にコロコロと景色と移り変わる。

 汽笛がシュポーっと鳴った。前を窓から視線を逸らし、ヷルトを見てみると、彼はジュデバ語辞典を開いて勉強をして居た。黙々と筆を走らせて居る。


「剣術なら本当はヷルトの方が上手いだろうにね、何で僕だったんだろ。」

 僕がぼそっと独り()ちると、彼は筆を止めて顔を上げた。


「いや、()の中じゃお前が適任だったと思うぞ。」

「……何で?」

 何故か、彼は其んな事を言う。

 正直上手く教えられた気が全くしないのに。


「俺、教える事って上手く無いから。」

「あぁ。其う云う事。」

 俺は頬杖を突きながら言って居る。

 妙に納得が行った。彼は教えるのは贔屓目に見ても得意では無さそうだ。

 全く想像が出来無い。寧ろ、如何やって想像すれば良いのか。


「自分で言うのも何だが、口下手だからな。

 誰かに何かを教えるのは、本当に難しい。

 要らない事言って結局喧嘩に成るのがオチだ……前世の時、良くやった。」

 瞼を閉じて首の辺りに手を置く。そして、窓の方をチラッと見た。

 今は崖を走って居るのか、景色は見えない。全部が灰色で埋め尽くされて居る。


「はは、何となく其の光景が想像出来るよ。」

 僕は茶碗を口に付ける。


「あぁ。」


 彼は其れだけ言うと、顔を下げて勉強を始める。

 僕は又、窓を茫っと眺めた。何時の間にか崖を抜けたのか、其処には綺麗な田畑が写って居た。


「……なぁ、リング。」

 今度はヷルトから話し掛けて来た。万年筆を置いて頬杖を突いて居る。


「何?」

 僕はゆっくりと彼の方を見る。彼は何時に無く真剣な表情で僕の眼を見詰めて居る。

 紅い、轟々とした眼。炎みたいに真っ赤な紅い眼。何処か、神妙な気持ちに成る。


「お前の大切な物って何だ?」

 僕は其の下の稲妻模様に目が行って居た。正直、格好悪い訳が無い。

 大切な物、か。パッと思い付いたのは、其うだな。


「……うーん、魔術道具?」

「お前らしいな。」

 彼は僕から目線を逸らす。其う言うものの、期待が外れた様にしか見えない。

 僕は口角を上げ切れず苦笑いを浮かべた。

 其んな訳有るか。僕とお前、家族、そして他の友人も大切に決まって居るじゃないか。


「逆にヷルトは如何なのさ。」

 僕が訊き返すと、珍しく口角を上げて僅かに笑う。


「……お前、って言ったら、如何する?」

 万年筆で僕を指して来る。

 少しドキッとしてしまった。恋とか其う云う類の物では無いのは明白だ。

 だが胸の奥が変にざわざわとする。

 でも、其の気持ちを否定したく成った。


「え、気持ちわる。」

「おい。」

 目を細め、怪訝な様子で僕の眼を見て来る。

 紅い目にはほんのりと怒気が含まれて居る様に思えた。


「ははは冗談冗談。」

 僕は何だかおかしく成った。横隔膜が勝手に震える。

 決まって居る。有り難うと。大切に思ってくれてと。


「はぁ、お前って奴は。」

 彼は溜め息を吐いたものの、顔は何処か優しい表情に成って居た。


* * *


「あ、久々だね。」

 僕が広場に行くと、其処には赤い布の掛けられたベンチみたいな物が置いて有った。

 其処に、フォードネイクがポツンと独りで座って居る。


「おう。」

 彼は此方に目線を合わせるとぎこちなく頷いた。


「ロージアは?」

「……さぁ、知らねぇ。」

 何だか彼は元気が無い。一体、何が有ったのだろうと変に邪推をしてしまう。

 僕は彼の隣に座る。彼は横にずれる。僕等二人はベンチに座らせて貰った。


「あ! 久々やな!」

 噂をすれば何とやら、何やらごちゃごちゃと装飾品やら何やらと身に着けた彼がやって来た。


「……いや、あの、何だ其れ?」

 流石の彼も其のおかしな様子に吃驚した様で、冷静にツッコミを入れる。


「ええやろ?」

 彼は其のジャラジャラとした宝石だの何だのを見せ付けて来る。


 個々は綺麗な筈なのに不思議と羨む気持ちが湧いて来ない。

 ええやろ? と言われても、微妙。其の二文字で片付けられる。


「……いまいち。個性で個性を潰してる。小洒落てもねぇし。」

「何でやねん。ええやろ。豪華で。」

 一人がツッコミを入れて一人がボケる其の光景は漫才の様。

 正直、方言の所為も相まってか、大阪のおばちゃんにしか見えない。

 

「あー! リングじゃないの‼︎ 久々〜‼︎」

「あがっ⁉︎」

 僕は後ろから顔を掴まれた。後ろには狼顔のゴンバロネが居た。

 そして僕の顔を捏ねくり回して来る。あぁもう、彼女の此う云う所、本当に大っ嫌いだ。


「どうだった、商売は。」

 ヷルトは腕を組んで彼等に尋ねる。


「お陰様で売り上げ好調だよ。ジュデバ国から良い物も仕入れられたしな。」

 フューペンダはニコニコとした笑顔で其う言う。

 愛想が良い。彼なら法外な値段を吹っ掛けられても買ってしまいそうだ。

 ハイエナの筈なのに、悪人面では無い。


 隣を見ると、キャルべがニコニコとした笑顔を浮かべて居た。少し気味が悪い。

 あぁ、本当に儲かったみたいだな。

 ジャガーの筈なのに、彼女は何処か頼り無い。


「じゃあ、帰りましょ。帰路は安全だと良いわね。」

 ゴンバロネは僕等の前に移動して来た。彼女は手綱を引いて居る。

 ヷルトはゆっくりと立ち上がる。そして、彼等をじっと見詰めた。

 彼等は紅い眼で見られたからか、怖気付いて居る様に見える。

 特にキャルべ何か後退りして居る。


「其れを作るのが、俺達の役目だ。大丈夫だ。

 魔物はお前等に指一本足りとも触れさせない。」


「……本当にしっかりしてるわね。じゃ、お願いね。」

 ゴンバロネは口に手を当てる。そして、足を差し出すと彼の肩をポンと叩いた。

 其うか、其うだよな。僕等が彼等の安全を作るんだ。

 其の為にも頑張らないとな。

タイトルがやっぱり雑。


* * *


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