第百五十話:師匠
次の日、僕は帰ろうかと身支度を整えて居ると、急に扉が開いた。
其処には木剣を持ったルローが仁王立ちをして居る。
「なぁ‼︎ 剣術教えてくれよ!」
そして、にっこにこの笑顔で唐突に其んな事を言った。
其の様な物は絶対にヷルトの方が得意な筈だ。
「えぇ。」
僕は困惑した。急に其んな事を言われても……と頭をぽりぽりと掻く。
如何しよう。僕は後ろを向いた。
「ねぇ、ヷルト、後一日位滞在しても大丈夫?
此の子が剣術教えて欲しいって。」
大丈夫だろうか。断れられるじゃ無いかと思って居たが、ヷルトは顔色を一切変えずに、
「あぁ、どっちにしろ着いてから汽車が発車する迄二日有るしな。平気だろう。」
「分かった。じゃあ一日だけね? 教えるよ。」
僕は小指を一本突き出す。彼の顔はぱあっと明るく成る。
「やったー!」
そして剣を持った儘両腕を突き挙げる。
あぁ、危ない。剣を其んな風に扱わないで欲しい。
そして彼は耳をピクピクとさせて剣を胸の辺り迄持って尻尾をぶんぶんと振って居る。
やる気は有るのか、なら、教えてやろう。
僕は彼の目をぎっと見詰めた。
「けど、やるからには本気で教えるよ。」
* * *
「まぁ、正直、僕だって何かの流派に属して居た訳じゃ無いし……。
其れと対人戦には詳しく無いかな。基本的な持ち方とか、振り方位なら教えられるよ。」
其う言うと彼は又千切れそうな程尻尾をぶんぶんと振り回す。
目はキラキラとして居る。本当、犬科は表情が体に出易いんだから。
「先ずは持ち方。両手だったら此うだね。」
僕は剣を両手で持った。余りぎゅっと握らず、少し軽く握って居る。
「此うだな!」
彼は僕の持ち方を真似して両手でぎゅっと握るが、持ち方が違う。
「違う違う。此処に指を当てないと。」
僕は彼の右親指を持って鍔の辺りに持って行く。
「此れで刃の向きを変えるんだよ。」
すると、彼はへーっと言って、何度も持ち直して確認して居る。
おぉ、案外勉強熱心なんだな。
「片手でも殆ど同じ。」
左手を離してやはり鍔の部分に手を押さえて居る。
「んー? 此う?」
「そうそう、其んな感じ。良いよ。」
今後はしっかり鍔に指を当ててそして、ベタベタに掴んで居ない。
「剣は引き斬る、と云う依りかは叩き斬る、って感じ。
基本的には其う。でも、案外しなるんだよ。ほら、持ってみな。」
僕は自分の持って居た剣を渡す。彼はゆっくりと其れを受け取ると、自分の持って居た木剣を差し出して来た。其れを左手に持った。
「片手剣だし普通の物とは一寸違うから其処迄しならないかも知れないけど……まぁ動かして見てよ。結構ぐにゅんぐにゅんしない?」
彼は不思議そうに其れを眺めた後、力を込めて剣を横に振り始める。
「うわ、え、ほんとだ‼︎」
すると、剣は波打つ様にぐにゅんぐにゅんと動く。
アニメか漫画の世界みたいだ。
「其れで叩き斬るの。目一杯力を込めて。
案外刃毀れはしないから安心して良いよ。」
「へー……。」
彼はまじまじと其の剣を見詰める。彼の目が金属の其れに反射する。
「そして振り方は此うだね。剣を先に出す。」
「まぁ、ぶっちゃけると激しい戦いをしてたら此んなの気にしてらんないんだけど……。」
僕は苦笑を浮かべた。
正直に言ってしまうときっと足を先に出して剣を振り翳して居る事も多いと思う。
「君は強い人と戦いたいの?
其れとも、強ければ何でも良いの?」
すると、胸を左手で叩いてふんと鼻息を鳴らす。
「強ければ何でも良いぜ‼︎」
其うか、強ければ何でも良いか。なら、うってつけの練習方法が有る。
「そしたら、魔物相手に実戦を積み重ねてみてね。初めてならンドベが良いね。対人戦は又違うけど、剣に慣れると云う点では良いよ。」
「ん? 別に素振りでも剣には慣れるだろ?」
彼は首を傾げて居る。そして口を開けて居るもんだから馬鹿っぽく見える。
然し、実際問題其れは違う。
「素振りばっかやってると素振りに対応した剣の扱いに成って行っちゃうの。
其れじゃあ、力を最大限伝えられなくて意味が無い。だから実戦を積む事が大事。」
「ほぉー」と彼は感心する様に言った。
野球でも同じ事が言える。素振り許りをして居ると如何に体力を使わないで振って行く様に成ってしまう。
勿論効率的に力を加える事は大事だ。だが、力が伝わらなければ意味が無い。
きっと野球でも本当はピッチングマシン等を使ってやるのが良いだろう。
武器は勿論、武術、楽器、勉強に至る迄、実践を積むのが一番手っ取り早いのだ。
言う迄も無く、基本は覚えねば為らないが。
「じゃあ、早速打ち合ってみる?」
「え。」
彼は剣を両手で構えて目を見開いて居る。
「手加減はするよ。僕が打って、そして君も同じ様に打ってみせてよ。」
僕は魔法陣から例の村長から貰った剣を取り出す。
其の柄を握ると殆ど透明に近い様な其れは仄かに青色に光り始めた。
「じゃあ、行くよ。」
僕は走り出した。剣を片手で持ち、彼に其れを振り下ろす。カンと心地良い音が鳴る。
然し、彼の持って居る其れは片手剣だと云うのに両手で受け止めて居る。
「其んなんじゃ駄目だよ。片手剣なんだから、此れを片手で受け止めれなきゃ駄目だよ。」
「……もっかい打つよ。」
彼は持ち方を確認して、そして僕の剣を受け止める。
「おぉ、良く成ったじゃない。」
さっき依りも受け止め方が良く成って居る。
僕の剣を跳ね返し、其の反動を受け流す為僕は後方に回転して着地した。
「じゃあ、君の番だ。打ってみな。」
左手をくいっと内側に曲げて彼を焚き付ける。
彼は顔を横に振ると、持ち方を確認して僕に向かって剣を振り下ろして来た。
「やっぱり……君の剣は重いね‼︎」
僕は彼の剣を跳ね返した。彼は蹌踉るものの果敢に攻撃を加えて来る。
やっぱり、此の子は筋が良い。まだまだ粗は多いけれど、きっと良くなる。
幾らか打ち合いを続けて居ると、急にヷルトの声が耳に入って来た。
「おーい、リングー、一寸休憩しないか?」
* * *
僕等は今ヷルトが作って来てくれたノルネを飲んで居る
甘酒みたいにトロトロで、やや甘く、ホッとする様な味だ。
「なぁ、此れ、貰っても良いか?」
彼は自分が使って居た其の片手剣が余程手に合ったのかおずおずと僕の目を見て来る。
しょうがないな……其んなの、頼まれたら断れないじゃないか。
僕は大きく溜め息を吐いた。
「……分かったよ。あげる、其れ。」
彼は顔を綻ばせる。キラキラとした、其んな眼に成る。
「やった! ありがと! 師匠‼︎」
彼は剣を抱いてぴょんぴょんと跳ねて居る。師匠だ何て、其んな大層な。
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モチベに成りますので、宜しければ。
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