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Rɹænↄɐɹƚↄɐtion/リンキャルケイション  作者: 鱗雲之
第三章『獣人国へ』
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第百四十九話:非行をする理由は

「痛い‼︎ 痛い‼︎ ねぇ‼︎ 止めて‼︎」

「ばっかお前‼︎ 此れ塗らなきゃ治んないでしょ‼︎」

「屈辱だもん‼︎ やだよボッコボコにされた相手に治療して貰うの‼︎」

「今治せる人僕位しか居ないでしょ⁉︎

 村の医師、今皆居ないんでしょ! なら、我慢してよ。」

「やだやだ‼︎」

「傷口酷く成って良い訳無いでしょ!

 細菌とか入ったら如何すんの‼︎ 皮膚とか壊死したら駄目でしょ‼︎」

「勿論其れもやだよ‼︎ けど治療して貰うのも嫌‼︎」

「我が儘言うんじゃないよ!」


* * *


 今、僕はバクダの家に居る。彼の家を貸して貰って彼等の治療をして居るのだ。


「いや、流石にやり過ぎた。ごめんね。此れで平気かな。」

 僕はライオンの彼の顔に包帯を巻きながら言う。

 彼の片目は包帯に隠れてしまった。只、目には損傷は無さそうだ。

 最初は嫌だ嫌だと喚いて居た彼だったけれども、治療をしながら話をすると何となく事情が分かって来た。


 先ず、彼は元々かなり荒んで居たらしい。名前はイゴル・ンゲロ。

 僕等の喧嘩で賭け事をする様な村だ。少なくとも健全とは言えないだろう。

 両親は他界、友達は居ない、だからって村で何か功績を上げてる訳でも無い。

 此処は憶測だが、居場所が無かったのだと思う。

 

 其処で、同じく荒んで居た彼、バロ・デ・クロと手を組んで、村で自身に従わない奴とか、弱者を片っ端から虐めて居たのだとか。バクダは元々転生した居た事を言ってしまった。元々悪魔の子として忌み嫌われて居た。

 彼等は其処に漬け込んで色々とやって居たらしい。バクダの居ない時を狙って住処を荒らしたり、虫を食わせたりとか、かなり幼稚な事を繰り広げて居たらしい。

 もしかしたらバクダは其処から逃げたくて僕等に着いて来たのかもな。


 成る程なぁ。だからってやった事を赦す気は毛頭無いが、気持ちは分かる。

 自分も中学の頃はそこそこ荒んで居たものの。結果的に自殺したもの。

 何かに居場所が欲しいよな。

 ……でも、其れが虚空なのは駄目では無いか?


「そういや訊いて無かったけど、何歳なの?」

「二十一……。」

「二十五。」

「俺は十三‼︎」

 イゴルはボソボソと、バロは太々しく、ルロー・デ・ムヴャは元気良く言った。

 一人を除いて、結構な歳じゃないか……。


「へ? 十三?」

「うん。」

 僕は彼の体を下から眺める。彼の身長は子供と思えない程に高い。

 そして、結構筋肉質だ。さっき傷が無いか服を捲ってみたのだけれども、腹筋が六つに割れて居た。

 嘘だろう。此れで十三? 百八十(cm)は有るだろうに。

 と云う事は将来、優に二メートルは越すんじゃないか。

 其れだったら本当に勝ち目が無かった。成る程、彼の那の非力さは彼が成長段階だったからか。


「……君、きっと将来的に良い騎士とかに成ると思うよ。」

 僕が薬を箱に入れながら言うと、彼は首を傾げながら話を聞いて居た。

 かなり微妙な表情をして居る。あれ、じゃあ騎士には成りたく無いのだろうか。


「お前は何歳だよ?」

「……十八。もう少しで十九かな。」

 僕は少し右上を見た。

 一瞬、前世の年齢を言おうか迷ったけれど、其れは良くないのでは無いかと思う。

 一応別人なのだ。だから今世の名前を言って置こう。


 すると、彼等は黙ってしまった。

 ルローは其んな彼等の様子を見て困惑して居る。

 割れ物に触れるかの様に彼等の事を見て居る。


「此れで、弱者の痛みとか、分かった?

 もう()んな事するんじゃないよ。ほんっと……。」

「でも……。」

 イゴルが顔を下に向けて、何処か暗い雰囲気を纏いながら弱々しく放つ。


「……でも?」

「俺等は弱者を甚振らないと生きてけない……だって、だって何も無いんだもん‼︎

 俺達には何も無い……誇れる物も、何か好きな事だって無い……。」

 顔を上げると、感情を露わにさせて行った。苦しい、胸の叫びだ。


「其んな事無いと思うけど……。」

「知らないから其んな事言えるんだよ……。」

 彼は頭をぼりぼりと掻いて居る。

 知らないだって? 如何やら、完全に心を塞ぎ切って居るな。此れは。

 僕も過去を打ち明ける必要が有るか。


「知らない訳じゃ無いよ。僕は本当に空虚な日々を過ごした事が有るからね。

 何もしないで、本当に死人みたいに生き続ける日々がさ。」

「え……本当?」

 すると、僕の眼を震える瞳孔で見て来る。


「うん。仕事も苦しいから嘔吐した時も有るよ。」

 僕は彼等の眼を見返した。

 何も胃に物が無い時に吐くのは本当に辛い。そして、長く続く。地獄だ。

 原因はきっとストレスとか其んなもんだと思う。


「「えぇっ。」」

 二人は顔を見合わせる。此れ、驚く事だったのか。

 少し許り此の様な話もして良いかなと思ったけれど、其うでも無いみたいだ。


「今は違うよ。やりたい事……そしてしたい事……有るよ。」

「此んな僕でも見付けられるんだから、君達でも見付けられるよ。きっと。」

「別に、したい事、ってのは社会の役に立ちたい! とか其んな基準の話じゃなくて良いんだよ?

 ちょっとでも良いから、何か好きだな、って事すら無いの?」

 其れが有れば、きっと其れを目標に少しづつ変わって行くと思うだ。好きな事は何かに対する原動力だ。

 前世の自分だって好きな事が無かった訳じゃないと思うが、然し趣味と呼べる様な物は無かったと思う。


「……絵、かな。」

「いや、へへ……俺みたいな奴が此んな事言うのもアレだけど……昔から絵が好きだった。」

 彼は鼻を掻いて恥ずかしげに言う。


「つっても……下手だけどな……宗教画とかを模写したりとか、してたなぁ、って今ふと……。」

「絵に男も女も関係無いよ。大丈夫。」

 僕は彼の頭をポンと叩いてやった。彼は僕を虚ろな眼で見る。

 そもそも創作の世界に女も男も関係無いだろう。

 中々良い「好き」を持って居るじゃないか。「好き」は続けた方が良い。

 村の中でも良いから評価されて行ったら彼心の闇は取り除けるんじゃ無いだろうか。


「君は?」

 次はバロに訊いてみる。


「俺は……。」

 其処迄言って彼は言葉を詰まらせた。そして顔を下に向ける。


「憧れでも良いよ?」

 僕が其う言うと、彼はゆっくり顔を上げて口を開いた。


「……昔、偶々見た劇団に猛烈に憧れたな。

 でも、此んなんじゃあなぁ……俺は熊だし……那んなしなやかな動き出来無いし……。」

「なら、其うだね、熊にしか出来ない動き……とか無いのかな?

 無い訳じゃ無さそうだよ? 力が強く、ガタイが良いのだから、豪快に演技をしてみせるとか。

 あんまり演劇には詳しくは無いだけどさ。」

 すると、彼は黒い眼で僕をじーっと見て来る。


「なぁ……お前本当に十八なのか……?」

「うん。」

 指を差して行って来た。

 僕は横に首を振る。もしかして、気付いて居るのかと疑ってしまう。


「何んだけ濃厚な人生送って来てんだ……?」

「まぁ〜、結構複雑な家庭環境に産まれたからかもね。」

「あぁ。」

 其処で、ルローに目を向けた。彼は僕等の話をポカンと聞いて居た。


「君、さっきから黙って居るけど、如何したの?」

「……んー、俺はそもそも強い奴と闘いたいから参加しただけー。

 夢も有るし、何か発言しづらかった。」

 と舌をべっと出してへへへと苦笑いをする。


「え?」

 つまり、彼は彼等と殆ど関係が無い、と云う事なのだろうか。

 一寸(ちょっと)待て、確かに彼は正々堂々と闘おうとはして居たが。


「……夢って?」

「強い奴と闘う事‼︎ 正々堂々と‼︎」

 と胸をポンと叩く。いや、けれど待てよ。其れじゃあ辻褄が合わない。


「んじゃあ、あの時に強く握って来たのは?」

 僕は其う云うと、彼は目を大きく開いた。吃驚して居るみたいだった。


「あ、え、ほんと? ごめん。

 俺、結構力加減制御出来ないみたいでさ……。」

「えぇ。」

 僕は頭を掻いた。

 発達途中だから、なの事だろうか。

 何にせよ、其れは僕の勘違いだったみたいだ。

 ──さっき偉そうに説教を垂れて居たが、自分も自分だな。


 其の後、彼等と話し合い、満足したのか彼等は満足した様に帰って行った。

 ルローが剣の扱い方を一から教えて欲しいと言って来たが、其れは丁重に断って置いた。

 僕は剣の名人でも無いから、敎える何て烏滸(おこ)がましい事は出来無い。 


 彼等が帰った後、ずっと僕等の様子をぼうっと眺めて居たバクダだったけれども、急に僕を叩いて来た。

 くるっと振り向くと、嬉しい様な悲しい様な眼をした彼が居た。

 おいおい、一体如何した。と思って居ると、彼は口をゆっくりと開いた。


「……何だ。あ……リング変わって無かったんだ。」

 と、日本語で話し掛けて来た。そして眼を瞑る。

 其れは、如何云う意味なのだろうか。


「え?」

「最初ぶっ倒しに行く、と言った時リングらしく無いな。

 って思ったけど、結局、自分で倒した相手を治療してるじゃん。

 悩みを聞いてあげたり……。」

「……僕にだって負い目は無い訳じゃ無いからね。」

 頬杖を突く。やらなくて良い程に迄殴ったのは僕だ。

 自分のお(つむ)位、自分で片付けないと良く無いだろう。


「変わったのはリングだと思ったけど……本当に其れ以上変わってたのは自分だったのかも。」

 彼は下を向いてぼそっと言う。


「………………。」


「何だかリングが何処か遠くへ行っちゃった様な気がして……俺の知らない所に行っちゃった気がして……一人称だってほら、『僕』、だし。」

 彼はぽつぽつと言葉を鳴らす。耳が倒れて居る。尻尾にも力が無い。

 嗚呼、其う云う事だったか。

 然し最後の言葉だけは断じて違うと否定したい。


「けど元々僕って僕だったんだよ。小学生の頃迄さ。」

「え? そーだっけ??」

 彼はぽけっと口を開けて首を傾げる。


「其処から無理矢理直して行ったの。でも、もう其んな必要も無いじゃない?

 もう僕は俺じゃない。抑圧されて居た俺じゃない。僕は此の僕だよ。実はね。」

 すると、彼は顔を綻ばせる。耳が立つ。尻尾が立つ。


「……そっか。良かった……。」

 と一言、安堵した様に言った。


「ねぇリング、本当に死なないでね。」

「死なないよ〜、もう流石に。」

 僕ははははと笑う。二度死ぬのは御免だ。


「ううん。魔物とかに殺されないで。」

「其処等は気を付けてるから大丈夫。」

 其方だったか。何方にせよ、平気だ。死ぬとすれば病気位だろうか?

 病気で苦しむのも嫌だが。本当に、贅沢な悩みを抱えて居るな。


「おいお前等。夕食出来たぞ。」

 台所に居たヷルトがエカルパル語で其う言った。


「「はーい。」」

 返事を返すと、僕等は顔を見合わせる。そしてふふふと笑った。

リングさんは結局なんやかんや云って優しいと思います。

人の為世の為、と云うタイプでは絶対無いでしょうけど、其れ相応にしっかりと道徳心を持ち、人に何かするタイプです。ちゃんと描けて居るかと問われたら心配に成りますが。


現実世界でも此の様な人から亡くなって行くのは不憫為らないです。

優しい人から扱き使われて精神を疲弊されられるのはなぁと遣る瀬無く為ります。


私? 私は違いますよ。絶対。


* * *


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モチベに成りますので、宜しければ。


其れと感想も気兼ね無くどうぞ。お待ちして居ります。

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