第百四十五話:心配しないでおくれよ
其の後、バクダとヷルトで村長を手取り足取り介抱してくれるらしいので僕は研究に行こうと思う。
ボㇻ̇メㇻ̇が如何に花、いや胞子? を付けるのか観察しに行く予定だ。
僕が家を出ると、広場には食事を取ろうとして居る銀狼達が居た。
茣蓙みたいな物に座って居るのはガリルナだ。本当は村長が座る席の筈なのだが、代わりに座って居るみたいだ。
ガリルナが狩って来たのかは分からないが動物の骨が端に置かれて居る。
……あ。良い事を思い付いた。思わず顔が綻んでしまう。
いやいや、其んな表情をして居たら怪しまれるだろう。
彼等が食べ終えるのを確認してガリルナに話し掛けてみる。
「ねぇ、此の骨、貰っても良いかな?」
すると、ガリルナは眉を顰める。
あぁ、大丈夫だ。別に君等の文化を破壊しようって事じゃあ無いのだから。
「いやいや、違う違う。此れの上に咲く花って知ってるでしょ?
其れが如何成長するのか見届けたいのよ。
例の現象が起こったら知らせるしさ。」
すると、彼の耳がぴくっと動いたのが確認出来た。
彼は此方をくるっと振り向くと僕の眼を見詰めて来た。
「……本当か? んなら、お願いしようかな。」
と、彼は骨を持って差し出して来た。一頭まるまる食べたみたいだ。
大喰らいだ。綺麗で、肉片一つ付いて無い。
僕は冷静に其の骨々を受け取ったが、心の中ではにやにやとして居た。
此れで研究が進むのだから喜ばない筈が無いだろう。
彼に一礼をすると其等を魔法陣に了った。
* * *
さて、僕は適当な場所に来て居る。成るべく日当たりが悪そうでじめじめして居る様な場所を探して来て居るのだ。
此んな時には髭が役に立つ。何故なら、僕の髭は湿気を敏感に感じるセンサーだからだ。
何となく此方の方が湿気が多い様な気がする。
僕は其方に向かってみるものの、其処はシダの様な植物が茂って居る場所だった。
あぁ、此れじゃあ駄目だ。シダが多い所は茸が生え難い様な気がする。
経験上のお話でしかないのだが。
僕は他の湿気の有りそうな場所を探し反対方向に向かう。
歩きながらふと思ったのだが、此処等はかなり湿気が多い場所の様に思える。地形の所為だろうか。
結構な山岳地帯だろう、此処は。
崖から飛び降りて其処等をほっつき歩く。
すると、何となく髭が重たく為る様な妙な感覚を感じ取った。
おぉ、此処なら大丈夫だろうか? 僕は其方に小走りで向かって行った。
開けた場所に在ったのは少し大きな池と、上から射す一筋の光。
そして上は葉っぱで覆い尽くされて居る。
地面はやや泥濘んで居て歩き辛い。湿地帯とか云う場所なのだろうか。此処は。
よし、なら此処に骨を埋める事にしよう。湿地に茸は付き物だ。生えない訳無かろう。
僕はスコップで穴を掘って其処に骨を埋める。彼等の文化も尊重せねば為らないので成るべく元の姿に戻し、大の字に寝かした。
穴を埋め、後は分かり易い様に其処等辺に落ちて居た適当な棒を刺す。
此れで花は咲くものなのだろうか。分からないが、観察する他無いな。
僕は落ちて居た枝を適当に集め、そして互い違いに組んだ其等を蔦で縛る。
椅子にしては簡易的では有るが、無いよりマシだ。
泥は魔法で払えば問題は無い。
僕は其処に腰掛けて観察を始める事にした。
……其れにしても何も変化が無いな。詰まらない。
転移魔法の魔法陣でも書いて置こう。
──其の日一日観察を続けて居たが、結局うんともすんとも云わなかった。
はぁ、予想はして居たが。其んな上手く行く物でも無いよな。
僕はふわあと大きく欠伸をする。メモ帳を見る。
一筋の光はもう何処かへ行ってしまい、代わりに其処からは青い衛星が顔を覗かせて居た。
そろそろ帰ろう。
次の日、僕は又其処に来て居た。簡易的な椅子に腰掛けながら。
けれど変化は無い。変化が有るとすれば森の魔物等がぎゃあぎゃあと煩く喚いて居る事位か。
水のせせらぎが聞こえ、まるで自分が森と同化したみたいだ。呑み込まれそう。
でも、其の日も何も無かった。僕はしょんぼりとしながら帰路に着いて行くのだった。
多分三日位経った。今日は雨がざあざあと降って居る。時々、ごろごろと雷が落ちて来るのも分かる。
けれど其んな中でも観察は止めない。何か変化が有ったら嫌では無いか。
全身はもうびしょ濡れだ。池は氾濫して僕の靴の中に迄水が入って来て居る。
どうせ魔法で乾かせるのだから平気に決まって居るだろう。
「おい。」
突然、声が聞こえた。聞き馴染みの有る声だ。目の前を向くと、其処にはヷルトが居た。
黒い洋傘を持ちながら此方を見て居る。
一体、如何やって此の場所を見つけ出したのだろうか。
「何してんだ、此んな大雨の中。」
「観察。」
僕が矢継ぎ早に答えると彼ははぁと溜め息を吐いた。
「だからって傘も差さずに観てる何て風邪引くぞ。」
「…………。」
「ちょっと待て。ほら、此れ持て。」
彼は黒い洋傘を差し出す。
「え。うん……。」
脊髄反射的に其れを受け取ってしまった。何だか、頭が茫として居る。
すると、彼は魔法陣から何かを取り出して設営し始めた。
ガチャガチャと云う音が聞こえる。
僕の隣には白い三角の天幕が完成して居た。
氾濫して居る水を入らせない様にする為か木の台みたいな物を置いて居る。
「ほら、入れ。」
彼は僕の腕を半ば無理矢理に掴んで僕を其の中に入れる。
「ひ〜〜、にしても酷い雨だ。」
天幕にすら雨粒のぼづぼづと当たる音が聞こえて来る。
彼は僕の全身をタオルで拭いて居る。何だか妙な羞恥心に近い物を感じる。
反抗しようたって此う成った彼には反抗しようが無い。
「ヲ̇ゥル̈テ・フ̇ィ」と彼が唱えると僕の全身は一瞬で乾いた。
服は、びしょ濡れだった毛皮も乾き増してやふわふわに成って居る。
「さんむいなぁ、にしても。」
彼は体をぶるぶると震わせて居る。
「……なぁ。」
「何で何も言わずに行ったんだ?」
声のトーンを低くして其んな事を言って来る。
僕は彼の方をちらっと向いたが、でも直ぐに視線を逸らした。
「……だって、折角掴んだ好機を逃したく無いもの。」
「はぁ。」
下を向いて言った。彼は背中をポンと叩いて来る。
「執着するのは悪いとは言わないが、せめて何か言えって。
お前を心配してる奴って一杯居るんだから。」
「……でも正直実感湧かないよ。
心の何処かで疑って居る節が有る。」
「自殺したからか?」
其の問いに対し僕はこくんと頷いた。
信頼されて居る、と云うのが本当に感じ難い。
「はぁ……其うか…………。」
すると、何を思ったのか僕の頭をぽんぽんと撫でて来る。
子供扱いされて居るみたいで嫌だが、でも、彼の手は暖かかった。
と、唐突にドカンと稲妻の落ちる音がした。
「ひっ‼︎」
しゃっくりをする様に全身を震わせる。耳がペタンと倒れて居る。
あぁ、其うか。此奴、雷、怖いんだっけ。
……本当にすまない事をした。僕は彼の手を握り締める。
タイトルはリングさんの心境を表して居ます。
リングさんは結構な闇の持ち主です。でも、人間って何処かに大なり小なり闇を抱えて居ると思うのです。
* * *
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