第百四十三話:真実を突かれる
「……いや、何で? 何で其んな事を訊くんですか?」
紅茶を喉に詰まらせたお陰で僕はえっほえっほと咽せ込んで居る。
何て事を訊いて来るんだ。おいおい。言える訳無かろう……。
「え、違うの?」
「……本当って言ったら如何しますか?」
取り敢えず彼の真意を確かめる為に訊き返してみた。
真実を突いた様に言って来るが、事実では無いかも知れないだろう。
法螺を吹いて居るとは思わなかったのだろうか。
……いや、実際其う何だけど、事実では有るのだろうけどさ……。
此のわちゃわちゃとした心境を如何表せば良いのだろう。
「別に、如何とも思わないよ。でも、秘密を隠されて居るのは何か気に食わないじゃない。
貴方と私でそこそこの関係でしょ? 」
「そりゃ其うですけど……幾ら関係が深いからとて話したく無い事は一杯有りますよ……。」
僕は憂鬱な気分に為った。いや、普通親ですら言えない事は沢山有るだろう。
親子関係じゃ無いなら尚更だと思う。
「自分に話せない事が有るの?」
「……ん、いや…………。」
僕は否定しようと思ったが、彼は首を傾げ、悲しそうに眉を八の字にして居る。
あぁ、もう何だよ……。言うしかない空気に為って来て言るじゃないか。
僕は大きく溜め息を吐いた。そして頭をぽりぽりと掻く。
そして見上げ、覚悟を決めた。
もし其れで気持ち悪いだの何だの言おうもんなら僕の覚悟を踏み躙って居ると同等だ。
其の綺麗な鼻を一発ぶん殴ってやろうじゃないか。
「……はぁ、言いますよ。言います。はい……。」
嫌々だけれども僕は話す事にした。
僕は何処から話せば良いのだろうと頭の中で考えを巡らせて居る。
「あ、村長悪い事してる〜、リングが其う云うの断れないと知ってやってるでしょ?」
バクダが其う云う。大丈夫。僕は彼に目線を向ける。
「……大丈夫。変な事言ったら鼻血出る迄ぶん殴ってやるから。」
「え。」
僕は彼だけに聞こえる様に声を細めて言った。彼はみるみる内に青褪めて行く。
でも其うでもしないと溜飲が下がる訳無いだろう?
そして話した。ブラック企業に勤めて居た事、そして自死した事。
其の事を言うと彼は少し眼を細めたけれども直ぐに何時もの眼へ戻る。
……え、驚かないのか? 本当に此の銀狼はおかしい。
「へぇ〜、やっぱりねぇ。」
そして総てを話し終えると其う言った。まるで最初から変わって居たかの様な口ぶりだ。
「そして多分バクダもヷルトも其うでしょ?」
「「え。」」
指された二人は顔を合わせて驚いて居る。
「面白いわねぇ〜、此処に転生者が三人居る何て。」
其う云うと紅茶を飲んだ。そしてふふふと口に手を当てて笑う。
「……もしかして村長も?」
「生憎自分は其うじゃないね。前世の記憶何て無いし。」
すると苦笑いをして手を横に振る。
……あ、違うのか。少し期待したのだが。
「でも、気に為らない? 別に其の事を公表しても何にも変わらないじゃない。
寧ろ珍しい話だから十八番の話に出来るじゃないの。」
「……其う思ってるのは村長だけだと思いますよ。
少なくとも普通の人は気持ち悪いと気味悪がる筈です。」
僕は俯いた。そしてぼそぼそと其んな事を呟いた。
普通に考えて其んな事を言ったら気味悪がるに決まって居る。
逆に如何思ったら受け入れられると思うのだろうか……。
或る程度の信頼関係が有ろうとも別人に見えるに違いない。
「けどやったの? 言ったの? 言わなきゃ分からないじゃない。」
村長は机の上で腕を組んで僕を問い詰めて来る。
……其れは……言っては無いが。けれど言えるか? 其んな易々と言えるか?
もしかしたら何か自分が虐げられるのかも知れないのだぞ?
其う考えると言い出せる気が出ない。隠さねば為らぬと思ってしまう。
「……言いました。言ったよ。俺。」
「そしたら気持ち悪い、ってさ。お前は卑怯だ。だから弱者だ。って。
多分俺が知識を持ってる事が気に喰わないんでしょうね。」
ずっと下を向いて居た彼は顔を向いて真面目な表情をして言う。
「え何其れ……?」
僕は飲み掛けて居たカップを置いた。ことん、と音がする。
何だ。其れ。腹が立つ。ぶん殴るのは其奴等にして置こうか?
「さぁ知らないよ。でも俺は負けないよ。知識は持ってるだけじゃ意味無いしさ。活用しないと。
知識を持ってる〜、つまりお前は弱者だ〜、って短絡的過ぎるでしょ。馬鹿だねぇ。」
と言うとかっかっかと嗤った。蔑んで居る様な眼だった。
初めて見た、彼の那んな嘲けるかの様な眼。
「……何かお前、悩み事とか隠し事とか無いか?」
ずっと話を聞いて居たヷルトが口を開いた。何時に無く真面目な表情だ。
其の紅い眼はすうっと透き通って居る。
「ん? 無い無い。無いよ。」
「本当か。」
「ほんとほんと。まぁ僕の趣味とか言えないのは一杯有るけど。」
お酒で酔って居るのか特に面白くも何とも無い事を言った。
何だか、其の物言いに何となく違和感を感じた。
其の後も彼はお酒を飲んで居たが、尿意が限界に達したのか立ち上がる。
「あーっと、ちょっと厠行って来る。」
ずっと酒を飲んで居るからだぞ、とは思ったものの其れは言わないで置こう。
と、彼が立ち去った其の時、村長は僕の耳元に口を近付ける。
……何だろう? 変な冷や汗が出そうだ。
「ねぇ、夜……ちょっと来てくれない?」
* * *
其の夜、別の家で寝て居た僕だったが、無理矢理起き上がって村長の方に向かう。
廊下を歩いて居るのだが、変に身震いをしてしまう。ヷルトの所為だろうか。
そして家を出る。僕達が寝て居る離れと昼に居た母屋は結構距離が近い。
其れでも此のちょっとの距離を渡る為に革靴を履くのは面倒だなぁ。
僕は空を見上げた。此処は辺境の村。其処には綺麗な銀礫がピカピカと輝いて居る。
少し身震いはするが、此んな綺麗な星が見れる依り嬉しい事は無かろう。
僕の後を追う様にメトㇲが着いて来て居る。憂鬱な気分は少しだけ晴れる。
其んな気がする。
僕は母屋の扉を開けた。夜なのに此の部屋は太陽が照らしてるかの様にピカピカとして居る。
「あぁ、来たね。」
「……こんばんは。」
小指を突き出して少し腰を曲げる。
「机に座ってね。渡したい事が有るの。」
僕は云われるが儘に椅子に臀部を着ける。
彼は僕と対面に座ると、白い魔法陣から何かを差し出して来た。
「此れ。」
其処に有ったのは透き通った、そう水晶の様に綺麗な剣だった。
「……な、何ですか此れ……⁇」
僕は柄の部分を持ち上げてみる。案外軽く、そして僕の使って居た大剣に姿形は似て居る。
でも、何で此んな物をくれるのだろう。此れって、確か、此処でしか取れない金属で作った物だったと思う。名前はフェㇻ̇ムㇳと云った筈だ。
魔力を流すと仄かに青色に発光する。うん、想像して居た金属で合って居るみたいだ。
「何で此んな物を……?」
「いやね、渡せって云われてね。多分今後必要に為るから、って。
だから前世の記憶が有るか如何か訊いたのよ。」
頬杖を突いて其う言う。顔は喜んで居るのか困って居るのか分からない顔をして居る。
「……まぁ、僕は無属性魔法を良く使うし、無いに越した事は無いですけど……。」
「そう? なら良かった。遠慮無く貰って行きなさい。」
すると、ふふふと笑った。
其れだけ? もっと何か有ると思ったのだが。
……まぁ、有るに越した事は無い。有り難く貰って置こうか。
多分、彼の物言いからして何か僕には苦難が降り掛かって来るのだろうか。
何か途轍も無い魔物が来るのだろうかなぁ。きっと占いをして見付けたのだろうな。
「ま、其れだけじゃ勿体無いし少し話そうよ。
ほら、お酒。二人で話すのも悪く無いでしょ?」
すると、さっきバクダが呑んで居た物とは違うお酒を出して来た。
「……まぁ、其うですね。」
彼の云われるが儘に、僕はお酒を呑んで他愛の無い会話でもする事にした。
窓を眺める。青い月の様な物が光り輝いて居る。さっき依り一段と光を増して居る。
空と衛星の隙間を流れる様に何かがキラッと流れて行った。そら、流れ星だ。
最後は綺麗な感じに終わってますが、次のお話で其の感じがぶっ壊れます。
* * *
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