第百三十九話:きっと流れ続け文化も変わるのだろう
十二月三十一日、タイトルのナンバーを修正しました。
僕は村の前迄やって来た。目の前には崖が聳え立って居る。
まるで誰かが入るのを拒む様に。
其処をトントン、と二回叩いた。カチャ、と微かな音を立てると目の前に長方形の穴がぽっかりと空いた。
夜中の筈なのに中は闇い闇いトンネルだ。
夜目が効くだろうに其れでも闇いと感じる。魔法とか、其の様な類だろうか?
そうっとトンネルの中に入る。コツンコツンと云う音だけが聞こえる。
……何時も思うのだが、此れ余り良く無いよな。
折角僕は音を立てないで歩く事が出来るのに其の長所を穀潰しにして居る。
音の出ない靴とか無いのだろうかなぁ。
と其んな事を考えて居ると村の広場へと出た。
真上を見上げると家が迫り出して居るのが分かった。
広場には誰も居ない。……まぁ此んな時間だしな。しょうがない。
村長が貸してくれた家に行こうとすると、村長が突然目の前に現れた。
腰を抜かすかと思った。吃驚した。もう、止めてくれよ。
彼は僕は驚いて居るのも露知らず、彼はにこにことした笑顔で僕の手を握って来る。
「帰って来たのねぇ、夕飯も食べて無いでしょ? 自分の家においで。」
「あ、あぁ……はい……。」
僕は戸惑ってしまった。其れにも理由が有る。
そもそも、此の村……と云うか此の部族は、朝昼晩広場に集まって食事を取る筈だ。
如何したのだろうか。
村長は僕の手をぎゅっ、と強く握り締める。すると、パチパチと云う音が鳴った。
段々と僕の視界が歪んで行き、そして……。
何時の間にか僕は何処かの家に来て居た。
玄関で僕等は靴を脱ぐ。僕はスタンドに革の上着を掛けた。
廊下を真っ直ぐ進むと彼がドアを開いた。僕も其れに続く様に入って行く。
其処はファンシーな、いやファンタジーと言えば良いだろうか、小ぢんまりとした綺麗なリビングだ。
まるで映画の世界にでも入ってしまったかの様。
ヷルトは鍋を見て居て、バクダは椅子に座って居る。
「あぁごめんね〜、ありがとね〜。」
と断りを入れ、ヷルトはペコリと一礼すると隣のフライパンを見て居る。
「あ、座ってなさいね。」
「え、あ、手伝わなくて良いんです……?」
「いいのいいの、研究して来て疲れてるでしょ? 」
其の言葉の通りに僕はテーブルの前の椅子に座った。
僕からはバクダが対面に見える。
バクダはお腹が減って居るのかテーブルに顔をくっ付けてうぅ〜と唸って居た。
顔も血の気が無い。何だか話し辛い。
気不味い空気が流れる儘待って居ると僕の目の前にコトンと深い皿が置かれた。
シチューの様な物に見える。もあもあと湯気が上がって居る。
真ん中にはロールパンみたいな物が入って居る籠がどっさりと置かれた。
すると、バクダの鼻が生き物の様に動く。そしてガバッと顔を上げた。
「え‼︎ ご飯出来たの⁉︎」
「……みたいだよ。」
彼等が持って来たカップを持つと、其の中にポットから紅茶が注がれる。
誰が操作した訳でも無く、唐突に。
見上げると、隣に村長が居た。にこっと笑って小指を立てる。
彼の魔法か。……此んな村だからてっきりポットに何か仕掛けが有るのかと思った。
僕は何となく小指を突き返す。
一口飲んでみる。……あれ、何か普通の紅茶と違うな? 少し緑茶の様に苦味の有る味だ。
確か紅茶と緑茶は元の茶葉は一緒で発酵するか否かで変わるのだっけか。
……余り其処等辺は詳しく無い。
そして、ヷルトと村長が二つづつ皿を持って来て、其れを僕等に渡して座ると、彼は祈る様なポーズをし始めた。
僕も同じ様なポーズをする。
「「「「日々の糧に感謝して、そして生き物に感謝し、神様がくれた食物を頂きます。」」」」
……那んなに辺境の村なのに、此処はエカルパル国と一緒なのだよな。不思議だ。
スプーンを使ってシチューみたいな物を救ってみる。
其れは薄茶色のとろみの有るスープだった。中からは根菜だの葉野菜だのがゴロゴロと有る。
其れを口に運ぶ。あぁ、美味しい。かなりクリーミーで塩っけが有る。
確か此れって伝統料理のマㇻ̇ギェㇻ̇が発展した物だったっけ?
元々は本当に只の野菜スープみたいな物だった様な気がする。
僕は籠からガ̊ㇻ̇ㇺを取る。
其れを千切ってマㇻ̇ギェㇻ̇に着ける。あぁ、パンに着けたシチューって何故此う美味しいのだろうか。
本当に罪な食べ方だと思う。
……そろそろ那の質問をしても良いだろうか?
「……あの、村長。皆で食事を取るって伝統は如何したんですか……?」
手を止めて彼に訊く。彼は此方を見てあぁ〜と言うと途んでも無い言葉を発した。
「あぁ、其れね、最近止めたの。」
「え。」
嘘だろう。那んなに伝統、伝統と古来からの文化を絶やさぬ様にして来たのに。
「と云う依りかは、朝以外は止めたの。朝はなきゃ行けないでしょ?
朝に皆が起きなきゃ行けないし。」
「でもねぇ、最近は食料も安定してるし態々那れをする迄も無いのよねぇ。正直、面倒臭いし。」
食べる手を止め、頬杖を突いて皿に目線を移す。
「えぇっ。」
何でだ。村長から其んな言葉が出るとは予想もしなかった。
「此んな事話せるのリングちゃんだけよ? 村の皆に話せる訳無いわよ。」
「そろそろ、此の村も変わらないと行けないからねぇ。
ずっと停滞したまんまじゃ成長も何も無いもの。」
とふふ、と笑って其れを掬った。
其うか……其うだよな。確かに古来からの物に総て固執したまんまじゃあ何も変わらないか。
一体彼は何んな思いで決断したのだろうか。
もう一回其れを食べてみる。何だか妙にしょっぱかった。
「あ、此れ美味しいね‼︎ うんまぁい‼︎ 此れって何使ってるの?」
さっきの窶れた様な顔は何処へやら。彼は興奮した様子で彼に尋ねる。
……あ、おい……其れは聞かない方が良いのに。
「でしょ〜、汁には芋虫を擦り潰して居るの〜。」
彼はスプーンから手を離す。カランと音を立てて皿の中に沈む。
「…………。」
絶句と云った表情で右に居るヷルトに目線を移す。
「……いや、まぁ……俺だって一瞬気持ち悪いとは思ったけどさ……姿は見えないのだから良いだろう?
美味しいし。」
と食欲が失せる様子も無くスプーンを動かして居る。
如何やらヷルトも此方側に近づいて居る様だ。
* * *
其の後、味には負けたのはバクダは其れを総て食べ尽くしてしまった。
皿を片付けてながら彼に話し掛ける。
「あ、村長、【ヅィㇻ̈マェッㇳ゛】起きてましたよ。」
「えぇ⁉︎ 本当⁉︎ 見に行けば良かった〜、あーあ……。」
其う言って項垂れる。
「ま、いいか……で、其う言うって事は何か有るのでしょう?」
「……はい……。」
顔を上げて掌を此方に向けて其う言って来る。
僕は少し緊張して居た。唾を飲み込む。
「あの、枯れたボㇻ̇メㇻ̇を掘り起こす事って出来ないでしょうか……?」
仮に否定されたとしても彼の目を盗んで何時か掘り返すが。
「え⁉︎ ちょちょちょあんた何しようとしてるのよ……⁉︎」
彼は驚いて僕の目を睨み付ける。……だろうな。神聖な花だものな。否定されるのは分かって居た。
「はい……けど其れをしないと分からないんですよ……何も。
枯れて居る物だから、良いかなって。」
彼ははぁ〜、と大きい溜め息を吐く。
幾らか考え込んで居ると顔を上げて僕の眼を見る。
「……分かった。やっても良いよ。けど‼︎」
けど、何だろう?
「生きてる物は駄目だからね‼︎ 其れだけは駄目だからね‼︎」
と念押しして来る。あぁ何だ。其れだけか。なら大丈夫だ。心底ドキドキしたよ。
皿洗いを終えた後、僕等はお礼を言って村長の家を後にした。
* * *
村長が貸してくれた家で僕等は寝て居た。
窓側に居るバクダはグースカと寝て居るが、僕とヷルトは寝られて居ない。
「……なぁさ。」
「ん? なあに?」
ヷルトは此方を見て其う言う。
「昼間に合った事、話しても良いか?」
「あぁ〜、良いよ。話してみてよ。僕も聞きたいし。」
「あぁ。……じゃあ、其うだな……俺が村を抜け出した所から話そうか。
其れはだな……村の外に魔物が現れた、と言われて俺が出掛けた頃────」
伝統を守るのは決して悪い事、では有りません。
ですが、伝統に囚われて其れに固執する様に成ったら発展や成長は無いでしょう。
だからこそ、少しづつ変わらねば為りません。少しづつ。少しづつ。良い文化は残しつつ。
* * *
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