第百三十七話:治療に走る
僕は村の洞窟に来て居る。此処では、薬草栽培がされて居るのだ。
何気無く言ったが、此れは途轍も無く凄い事なのだ。エカルパル国では栽培出来ないからこそ、ホルベ何て云う組織を作って採らせて居る。
此の技術、エカルパル国に持って帰りたいが、中々村長が教えてくれない。
其処はしっかりしてるんだな……抜かり無い奴だ。
「あぁ! すいません‼︎」
洞窟の奥の奥に来た僕は彼女に手を振る。彼女は此方をチラッと見ると耕すのを止めて肩に掛ける。
彼女は頭に巻いて居たスカーフを取る。
「……何だい?」
ふぅと息を吐くと僕に目線を合わせて来た。
彼女は天井のライトに照らされて全身がピカピカと光を反射して居る。
「ホンデゥ̻゛ロ̇って有りますか⁉︎」
「あぁ、有るけど……其れが如何したんだい?」
彼女は鍬を洞窟の壁に置く。コトンと云う音が洞窟内に響く。
「あぁ、良かった……花って、咲いてます?」
「今季節だからね。観賞用かい。」
「いいえ、治療に使うんです! デドデドの‼︎」
「デ、デドデドの? ……あれ、治せないんじゃないのかい。」
「いいえ。」
僕はキッパリと否定する。信じきれないのか首を傾げて居る。
あれ、知らないのか。あ。デドデドの治療法が発見されたのってつい最近だったっけか?
少なくとも五十年以内だったと思う。
成る程、なら情報の行き渡らない此処に居るのなら知らなくてもおかしくは無いや。
「……まぁ良いや、一杯有るから好きなだけ取っておくれよ。」
「有り難う御座います‼︎」
僕は祈る様なポーズを作って感謝の意を伝える。
彼女は「其んなにかい」とでも良いたげに苦笑をした。
彼女は洞窟を戻って行く。そして途中で止まると壁に手を当てた。
すると、壁が長方形に奥まって行き、ガガガガと音を立てて上に収納される。
其処には長方形の穴がぽっかりと空いた形に為り、中からは畑が現れた。
綺麗な紫色の花がばあっと洞窟内を埋め尽くして居る。
「ほら、好きなだけ取って行きな。」
彼女は其れだけ云うと洞窟には入ら無かった。
「わぁ……。」
早速花の茎を折らない様にして花だけを摘み取って行く。
中には胚珠が膨らんだのかぷくりとした丸い何かが在る。
僕のお目当ては此れだったのだ。
両手にこんもりと花を抱えた僕は彼女にお辞儀をする。
「有り難う御座います‼︎」
何故此んなに採ったかと云うと、彼の話を聞く限り他にも負傷して居る人が居そうだったからだ。
「あれ、花だけが必要だったのかい。
……まぁ、其れなら又花を付けるし……。」
彼女はボソボソと其う言うと頭を掻いた。
そして、僕に向かって手を振ってくれた。
文字通り両手に花、なので手を振る事は出来無いが頭だけを頷かせて足早に帰って行った。
* * *
「……あ! 先生‼︎」
彼女は僕の様子に驚いたのだろう。花を凝視して目を見開いた。
「ただいま……あっと。」
其れをテーブルの上に置いて、僕は彼女の方を見る。
「ねぇ、摺鉢と棒、って有る?」
「うん‼︎ 有るよ‼︎」
彼女は台所の方に行くとゴドゴドと音を立てて棚から大きな摺鉢をうんうんと言いながら持って来た。
「……ありがと。」
其の儘じゃ彼女が危ないので頭を撫で、其れを受け取る。
少し不満そうな顔をして居たのを僕は見逃さ無かった。
……すまんよ。
早速取って来た花を実だけ取って摺鉢に入れ、其れを棒で潰して行く。
何分かやり続けて居ると或る程度細かく成った。一旦棒を置く。
えぇと次は……僕は魔法陣の中をガサガサと漁る。
中からは乾燥した青い茸が出て来た。あぁ、此れだ。ラ̈フ̇ェリ̈だ。
其れと机の上に置いて彼女の方を向いた。
「何でも良いから皿を取って来てくれないかな?」
彼女に其う言うと、彼女は白いお皿を一枚取って来た。
其れに紫色の粉を移し、次は茸を潰していく。
青かった其れは白色に成る。其れも皿に移し、次は台所に向かう。
台所には何故か鍋の様な物が置いて在った。有り難く使わせて頂こう。
「ごめん、火を点けてくれる?」
「うん!」
彼女から炎が出るのが視える。パチパチ音がすると釜の内部には炎が上がった。
……凄いな。子供でさえ無詠唱で此んな事をしてしまうのか。
僕は鍋を持ち上げて、屈んで彼女の方に置いた。
「あ、そうそう、此れ、水を半分位入れてくれる?」
彼女は笑顔で頷いて、魔法を発動させる。
鍋の中には水が入って行く。僕の指示通り、確かに半分位入れられて居た。
ほぉ、細かい指示にも対応出来るのか。一体、何んな教育をさせたら此んな事が出来るのだろうか。
僕はさっき作った薄紫色の粉を鍋の中に入れる。
台所に掛けて在った木篦を取ると其れを満遍無く混ぜる。
幾らか混ぜて居ると鍋が沸騰し始めたのか内容物はどんどんとゲル状に為って行く。
木篦が重い。けれど、此れは正常な反応だ。大丈夫。
ずっと混ぜ続けて居ると色が変わり始めた。紫から白色へ変化して行って居る。
思った其れは何時の間にかサラサラとした液体に為って居た。
僕はスイッチを押して竈の火を止める。
湯気が出なく為ったのを確認して僕はさっきの皿に其れを注いだ。
そして、魔法陣から竹で出来た水筒を取り出す。そして、残った其れを水筒に入れた。
僕のポケットに其れを了う。
「此れがお父さんが良く為る薬だよ。さ、行こうか。」
すると、彼女は僕の右手に持って居る其れを神聖な眼差しで凝視して居る。
扉を開けてお父さんの方に向かう。
「お父さん、少し良いですか?」
僕は布団を剥がして彼の腰を曲げる。足をペタンと伸ばして座って居る様な形に為った。
そして、僕は包帯を外して行く。其処からは傷が見えた。刺し傷みたいな痕も見える。血が滲んで居るのが良く分かる。
一部は骨が見えて居た。うわぁ、余りにも痛々し過ぎる。
よくよく見ると、足の骨は変な方向に曲がって居るし首には裂かれた様な痕が有った。
一体何んな闘いを繰り広げたのだろうか……?
僕は魔法陣から或る物を取り出した。木製の箱をパカっと開けると、其の中には白粉みたいな粉が入って居た。
今回は余りにも酷いので此れを使う事にする。此れを使うと恢復魔法が行き渡り易く為るのだ。
魔力効率を上げ魔素が含まれた其れは発動させやすい云々は置いといて、其れを傷痕にベタベタと塗って行く。
「ひぃっ⁉︎」
彼は顔を歪ませる。多分傷痕に其れが染み込んで居るのだろう。
でも我慢してくれ。きっと良く為るから。
満遍無く其れを塗った僕は、次は恢復魔法を彼に与える。
「タタㇻ̈・ツァキナン‼︎」
完全詠唱を唱えながら傷に手を当てるが、
「うぬぬぬぬ……。」
何だ、此れ。マズいぞ。僕の魔力だけはずっと吸われて居るのに傷が全く恢復しない。
やっと傷が塞がったと思ったら、僕はぜぇはぁと息を荒らげて居た。
な、成る程……きっと村の皆がやら無かったのは此れが原因か。
何故かは分からないけれども、彼の傷は塞がり難い。
けれど、此処で諦めて堪る物か! 息を整えて次は脚の方へ魔法を掛けて行く。
「タタㇻ̈・ツァキナン‼︎」
精一杯力を込めて掛けて行く。
人体解剖図を思い出しながら脚が変な方向にくっ付いてしまわない様に調整しながら注意して力を込めて行く。
幾らかやって居ると右脚は治った。……次は左脚だ。
「……はぁ、はぁ…………。」
僕はベッドの横で項垂れて居た。今、彼女はさっき作った治療薬を彼に飲ませて居る。
那れは直ぐには効かないけれど、しっかりとした食生活を送って居れば治る筈だ。
……はぁ、にしても疲れた。恢復魔法って此んなにも疲れる物だったっけ。
ふと彼を見ると、自分の手足を動かして居た。次第に、顔が喜びの表情へと変わる。
「先生‼︎ 有り難う‼︎」
ベッドから手を伸ばし僕の手を掴む。
目に掛けての傷跡は残ってしまった。其れと、右手と左手に残る黒い其れも治療出来無かった。
……まぁ格好は良いから良しとしようか。
でないと、僕がぶっ倒れてしまう。
「あ、後……此れ。」
赤い魔法陣から何かを取り出して来た。
僕は其れを半ば反射神経的に取る。
「はぁ……うん?」
疲れて居て頭がぼうっとして居た僕だったが、其の内容物を見て気付いた。
「先生、多分、此の後も傷を負った仲間を治療しに行くのでしょう?
だから、此れ。魔力を恢復させる薬です。……不味いですけどね。」
彼は優しく微笑みながら其う言った。如何やら僕を労ってくれて居るみたいだ。
「あ、有り難うね…………。」
僕は早速其の栓を開けて飲み干す。
頭痛は消え去り、吐き気は何処へ、然も何だか体調が良い。
「あぁ、負傷して居る仲間、って誰ですか?」
「エスベロと……ローンケルと……シャーベリアと……ノルと……ベリアです。」
彼はポツポツと名前を述べた。……成る程、其んなに居るのか。大変そうだ。頑張らねば。
「……じゃあ、行って来ます。」
僕はスッと立ち上がって彼の家を後にするのだった。
勿論、さっき作った薬を忘れない様に水筒を握りながら。
少しだけ、物語に影響しない程度にネタバレをしますと、銀狼達の能力とリングさんの紅目には少し許り関係性が有ります。
ネタバレに為って無いって?
……まぁ、そりゃあ……本編を読んでれば判りますからね……。
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モチベに成りますので、宜しければ。
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