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第十四話:家の整備にて※

二月二十一日、改稿しました。

 其れから或る程度の月日が経ち、生活が安定して来た。

 八百屋に行って貰うのはやはり肉屋の主人に任せっぱなしでは有るけれど、結果的に肉屋との主人とも良好な関係は築いているから良しとしよう。


 其れはソレとして。今日は後回しにしていた事をしようと思う。家の整備だ。外見がかなり汚い。

 蔦は絡みっぱなし、壁に汚れは付きっぱなし、延いては庭には草も生えっぱなしで木も見窄らしい。

 庭はファルダと練習した時に少しだけ掃除はしたので多少はマシに成ってはいる。が、及第点では無い。


 僕は庭に覆い被さっている枯れ葉から払う事にした。

 シャッ、シャッ、シャッ、と箒で落ち葉を払う。片隅に集めちりとりに纏める。

 ……風魔法が使えれば僕も此の箒で飛べる事が出来たのにな。


 次に、枯れて(しお)れている雑草も引き千切っていく。此の作業、魔法で効率化出来ないのだろうかな。

 然し僕は其の手立てを見付けていない。ちりとりに其れを乗っけた。


 僕は其れを持って森に向かった。


 森に其等(それら)を捨ててきた僕は、次に家の掃除を始める。家には至る所に蔦が絡まっている。

 見た目も(わる)く妖しい雰囲気を漂わせている。もし、「幽霊の館」と云われても僕は信じて了うだろう。

 だが、此の蔦を如何やって取り除けば良いのだろうか。


 生憎梯子も持って来ていない。縄梯子は有るが屋根の上から掛けないと行けない。

 僕は首を傾げた。右には葉を付けてない大きな木が一本生えて居る。都合良く屋根より高い。

 行けるのだろうか? いや、行ける。


 僕は木を登って部屋の上に降り立つ事にした。

 爪を引っ掛けてガシガシと猫の様に攀じ登る。

 中程迄登ると大きな枝が有った。其方に足を引っ掛けようとすると、


「うわっ‼︎」

 バキッ、と大きな音を立てて枝は折れて了った。

 木に掴まって居るお陰で落ちはしなかったものの、僕は空中であわあわと足を動かして了う。


 地面を見た。見ていると視界がぐるぐると渦巻く。

 思わず毛が逆立ち身震いをしてしまう。

 成るべく、安全に、安全に……と思えば思う程爪に力が入って行き、僕は冷静な行動を取れなく成って了う。


 爪は引っ掛かっているのだからと、心を落ち着かせる。

 さっきとは違ってゆっくりと爪を引っ掛ける。すると、するすると登っていける。

 ……良かった。頂上迄登り詰めた僕は、其処から屋根に飛び移った。僕は縄梯子を下ろす。


 ならば蔦を切るだけだ。枝切り鋏の様な物で屋根に絡まっている蔦さえもバサバサと切って行く。

 後は壁に絡まっている蔦と、汚れを拭くだけだな。終わりが見えてきた。


 僕は汗を拭う。獣人に汗等を掻かぬ事は承知の上で有るが、前世からの癖だ。抜けまい。

 それを終えた時にふと下を見ると、ワンピースの様な服を着た女の子が僕の方を見て居た。

 年齢は五〜六歳に見える。


 鋏を其処に置き、屋根から飛び降りる。両手を地面に着いてしっかり着地した。

 僕は立ち上がり彼女の眼を見た。宝石の様にキラキラとした碧の眼だ。


「如何したの?」

 僕は微笑んだつもりだったのだが、彼女は身を震わせ、怯える様な表情をして去って行って了った。

 何もしていない筈なのに良心がズキズキと痛む。子供に嫌われる事程辛いモノは無い。


 遣る瀬無く頭をボリボリと掻く。「はあ」と溜め息を吐く。

 やはり見た目が悪いのだろうか。きっと其うだ。如何しようも出来ぬ此の外見を恨むしかない。

 もし、又会ったのならばもう少し優しく接してみれば彼女の反応も変わるのだろうか。


 ……今は家の掃除をするべきだ。僕は脳味噌に反響した言葉に対して頷く。

 それから、其の事を忘却させる様に壁や屋根を目一杯掃除する。


 僕は家を眺める。最初の印象と違って綺麗に見える。元々、此の家の外見は穏やかな生成(きなり)色をしていたようだ。

 檜皮(ひはだ)色の煉瓦屋根と相まってシックな印象を与える。綺麗な家だ。

 此んな綺麗な家を買わずに放置をしていたのか。此れは良い家を手に入れた。


 空を見上げる。空は綺麗な茜色に染まっていた。家も陽が射してオレンジ色を反射している。

 僕は家の前で伸びをした。そして、黒褐色(こっかっしょく)のドアを開けた。


 次の日。


 今日は例の変身魔法を使えるレベルまで落とし込もうとしている。

 現在時刻は昼を過ぎた辺りだ。後ろで時計の針だけがチクチクと鳴っている。

 何度も呪文を描いては描き直しての繰り返しだ。単純作業で気が狂いそうに成る。


 只闇雲に描いているだけでは無い。何となくアタリを付けて描いて居る。

 呪文には完全詠唱と短縮詠唱が有ると言っただろう。


 短縮詠唱は完全詠唱の第一節目を拝借して、其の後に『属性文字』と云われる属性を指示する文字を付けた形だ。

 例えば《アブラ・カダブラ》と云う呪文が有ったとしよう。此れが無属性魔法だとする。

 

《アブラ・カダブラ》、は完全詠唱に為る。短縮詠唱は如何為るかと云うと《アブラ》や《アブラ・マ》等と為る。

 無属性魔法は此の様に後ろに何も付かないパターンも多いのだ。


 そして、変身魔法の完全詠唱は《ラ゙ヰ゚トㇳ・ズ̌ィチ̇ル̇・ズィーズィ》と云う事迄は分かっている。

 だが、此処で詰まっている。短縮詠唱の『属性文字』、には文字に依って区分分けが為されている。


 無属性魔法の場合は第一目〜第三十目迄発見されている。

 ……だからだ。此れを一からやっていって発見するなぞ大変に決まっている。

 他の属性ならばもっと早く終わっているのにな。


 文字を描いて発声して……そして文字を描いて発声して……。


 中々に奇妙な光景だろう。其れでも魔法は発動しない。掌から暖かい物が解放される感覚が無い。

 そんな事をしていると勿論喉が渇いて来る。カップに波々と入れた紅茶を飲み干す。


 とそんな時。


 玄関の方からドガドガと誰かが歩いてくる音がする。又例の親子だろうか。

 僕は大きな溜め息を吐いた。もう此の際幸せが逃げたとて構わない。

 今回は耳を澄まさなくても声が聞こえてくる。


 僕は呼吸を落ち着かせた。


「悪魔の雄叫び、聞こえないじゃないですか。」

「いいえさっき迄言ってたのよ‼︎ きっと呪いの呪文だから如何にかして‼︎」

「成る程、そうですか……困りましたね。では、儀式を始めようと思います。」

 僕は扉に耳を付ける。すると、例の母親と、知らない男性の声が聞こえる。

 透き通る様に綺麗な声だ。高い男性声の様に聞こえる。


 ……いや、待て──悪魔の雄叫び? 彼女は僕を悪魔だと認知している。

 つまりは僕が呪文作りの為に発声していた那の声が少なくとも彼女の耳には届いていたのか。


 僕は扉の前で座り込み、そして顔を両手で覆う。

 きっと僕の顔は赤面している事だろう。もう、嫌だ。


「悪魔よ、此処から立ち去りたまえ……此の女性に取り憑くの止めて、魔界に還りたまえ……。」

 男性の真面目な声色に加え、数珠を擦り合わせた様な音を発している。

 止めてくれ、僕の精神に次いで攻撃を加えるのは止めてくれ。中学校時代の事を思い出すだろう。

 

 僕は顔をわしゃわしゃと洗い擦った。首を大きく振って思考を断ち切る。

 精神を整えて、ゆっくりと扉を開いた。


「あの……すいません、玄関前で何かをするのは止めて頂いても宜しいですか……? 一応、その、此処、私の敷地内ですので……。」

 僕は細々と声を出した。此んな事を家の前でしないで欲しい。

 彼を見下ろしている。其の男は黒い服を着ていた。はっと気付いた様に僕の顔を見る。

 仮面を付けていた。顔全体を覆う猫面の様な物を付けている。

 其の怪しげな男は後ろを振り向いた。


「早く逃げなさい‼︎ 貴方を襲おうとしています‼︎」「いや、その、襲う気はさらさら無いのですが……。」

 男は大声を出し、後ろに居る那の母親に対して警告を鳴らす。

 僕が何を言おうとも聞く耳も無いみたいだ。其んな小さい耳を持っているからだ。

 君達から見たら僕は悪魔かも知れないが、僕から見たら君達は只の不審者にしか過ぎない。


 男は立ち上がり、背後から大きな魔力の炎を出す。何を発動しようとしているのだろうか。


「私の聖属性の魔法で……‼︎」

 ぼそっと言ったのが分かった。聖属性の魔法は無い筈だ。ダーベイ属性の魔法と間違えているのではないだろうか?

 と思うと、僕は指摘せざる負えない。


「あの、聖属性の魔法は有りませんよ?」

「聖為る魔法を喰らえ! 悪魔よ! キ──」

 其んな僕の指摘を気にせず、彼は魔法を放ってくる。

 仮面で顔を覆っている所為で表情は分からないが、声は憎しみが籠っている。

 ……此処で魔法を放たれても困るな。


「シュㇰ̊ヂ̇ャㇰ・ナ。」


 僕の右掌(うしょう)から青い半透明の縄が飛び出る。

 其れは彼の右腕に巻き付く。僕はぎゅっと其れを掴んだ。

 みるみる内に背後の炎は消え去っていく。


「……闇魔法か⁉︎」

 彼は右腕を動かしながら拘束を解こうとする。


「違いますよ、無属性魔法ですよ。只の。」

「あの、村で魔法を放つのは止めて下さいね? 幾ら辺境の村とは云え、家は有るのですから。」

「くそ‼︎ 離せ‼︎」

「なら僕の話を聞いて下さいよ……。」

 暴れる彼に僕は呆れ返る。君と対等な関係に成らなければ、僕は此の縄を離す事は出来まいのに。


「其んなの! デタラメに決まっている! 聖魔導師の私は知ってるのだ‼︎」

 暴れまくった所為か彼の仮面が少しズレる。ズレた仮面からは紺碧の眼が覗いている。


「……魔導師?」

「ああ、其うだ! 恐れ入ったか?」

 何故か彼は勝ち誇った様に其の場に立つ。

 ……けれど理由は分かる。此の世界では悪魔は魔導師が倒す存在とされているからだ。

 が、見当違いだ。


「いえ、僕と同じ人が村に居るんだな、って。」

「私は悪魔では無い!」

 僕は首を振った。然し彼はくぐもった怒号を飛ばす。良い加減仮面を離しても良かろうに。


「僕も魔導師ですよ? 身形りは此んなですけれどね。

 只、まだ国から認められた訳では無いので、自称……ですがね。」

 僕は彼の目を見る。彼は瞳孔を細め、首を傾げた。


「……何を言っている?」

 と声を震わせる。其れは此方のセリフだろうに。


「魔導師同士なら、お話をしませんか? 少なくとも、此処でやり合っている依りかは有意義だと思いますよ?」

「お茶請けでも食べながら──」

「煩い! 黙れ!」

 彼は捨て台詞を吐くと、隙を見付けて縄から脱出して了った。

 脱兎の如く走っていく。逃げ足だけは早いのだな。


 * * *


「──ってな事に遭ったんですよ。」

「ははは……災難だったな。」

 僕は肉屋の主人に昨日遭った事を話している。時折愚痴を混ぜながら。

 店主は乾いた笑いを発すると僕の眼を見た。


「と云うかお前、魔導師だったのか?」

「ええ。一応。自称……なんですけどね……村に来た時に言いませんでしたか?」

 僕は首を傾げる。彼は「ああ」と言う。


「いやあ、俺、あんまり他人に興味が無くてな、そんときは居なかった。」

 彼は後ろから何かを取り出してくる。ヰ̇ーㇲ゙ポㇻ̈が見付かったらしい。

 八百屋からでは無いが、森を探していたら有ったと言う。


 僕は其れを受け取ってペコリと腰を曲げる。中身を確認した。

 中には棘々としたうにの様な果物が入っている。


「あー…………。」

「あーって何だよ。」

「有り得そうだな、って。」

「其れは誉め言葉か?」

「一応。」

 彼は頭をぽりぽりと掻いた。納得をしてない雰囲気を醸し出している。

 喉をに触れて「んーんー」と声を鳴らすと、僕の方を向いて「話を戻そう」と言った。

 僕は頷く。


「……もしかしたらソイツ、教会の人間かもな。」

「教会の人間?」

 彼は口に手を当ててボソボソとした声で話す。僕も同じ様な声で返事を返す。


「ああ。村に一つだけ教会が有るんだが、那処はボンドードル教って教団が所有してるんだ。胡散臭いがな。」

「……何んな教団なんですか?」

「さっき言った様に胡散臭い、気持ちが悪い、何してるのか分からないし偶に大声で獣みたいに唸ってたりする。此処には獣人は居ない筈なのに。しかもな。」

 彼は僕の耳に口を近付けて言った。


「『聖魔導師』……何て云う称号を与えているんだ。」

「俺だって知ってるさ、魔導師って称号は国から与えられる物、って事位は。」

「……変な教会ですね。」

「ああ。だろ?」

 僕は深く頷いた。

話の中でも触れて居ますが、此の世界に『聖属性』なる属性は有りません。

勿論『闇属性』何かも有りません。近いのはダーベイ属性でしょうかね。


つまり此れが何を表すかと云うと此の世界にも似非科学ならぬ似非魔法学が有るって事です。


科学と同じで学べば理解できるのですがね。

勿論、魔法は魔法的な論理が存在するので科学の理論がそっくりそのまま適応される訳では無いですが。


* * *


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モチベに成りますので、宜しければ。


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良かった所、悪かった所、改善点等有りましたらどうぞ感想にお願いします。


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