第百三十五話:黒狼の少年
十二月二十八日、題名を改訂しました。
「う〜〜〜ん。」
僕は頭を掻いた。今、僕は村の人達の診療みたいな事をして居る。
村長に頼まれての事なのだが。
彼等に異変が無いか、何かおかしい事が無いか、と体を触って居る。
耳の裏側が見える様にぺらっと覗くと、裏は綺麗なピンク色をして居た。
通って居る血管も綺麗だ。特に異常は無さそうだ。
「なぁ、リング何して居るんだ?」
「診察。」
後ろに居るヷルトをちらっと見る。彼は少し不安気な顔をして居た。
「何か異常は有ったのか?」
「うーん、無いっちゃ無いけど……そもそも彼が黒いのが異常、って言うか……。」
少し声を吃らせる。すると、彼は首を傾げて何が何やら分からない、と云う顔をして居る。
「如何云う事だ? お前だって黒いだろ? 異常は無いんじゃないか?」
「うーん、其う何だけどさ、彼等が黒く為る理由は少し違うって云うか……。」
僕は其処迄言って顎に手を当てた。如何しよう、如何説明すれば良いのだろうか。
「あの、銀狼達の能力、って知ってる?」
「能力?」
「簡単に言えば、彼等は黒く為って強く為る事が出来るんだよ。」
「んで、此の子は子供の時黒く為ったっきり戻って無いんだって。」
短く纏めて彼に言ってみた。けれど彼は未だ納得して居ない様子で質問を投げ掛けて来る。
「けど、何か問題が有るのか?」
「うーん、結構有ると思うよ。僕と同じで子供の頃、魔力が不安定に為りがちだと思う。」
僕は人差し指を立てて彼を見る。
「あぁ。何かリング大変だったらしい、って言ってたよな。」
「うん。」
多分昔吐きまくってたのは其の所為も有るのだと思う。
「後、ずっと此の状態ってのは前例が無いみたいなんだよ。
銀から黒に変身するのは切り札みたいな物。だからねぇ……。」
「取り敢えず、吐き気とか、頭痛とか、無い?」
僕は彼の方を向いて顔を見る。彼は目線をすっと逸らした。
「うん……今は無いです。」
ゆっくりと頷くと僕に目線をゆっくりと合わした。
何故か彼は震える様な眼で僕を見てくる。紅い。綺麗な深紅の眼だ。
如何したのだろうか。僕が怖いのだろうか?
「うんうん、半年前の事を守ってるんだね。なら、安心かな。」
半年前の事、と云うのは前回僕が来た時、彼がかなりの吐き気と頭痛に悩まされて居た事だ。
殆ど寝込んで居て、全く動けない状態だった。魔力漏洩も起きて居たし。
爆発寸前だったと思う。
治療……と言うと大袈裟だが、其処からは次第に良く為って行ったらしい。
「けど……。」
「ん?」
彼は下を向いてぼそぼそと言う。
ゆっくりと顔を上げるとしゅんとした様子で口を開いた。
「でも……でも最近、何だか……此う……魔力の制御が出来なく為って来て居て……怖い……。」
と言葉を発する。
僕は彼の背後を眺めた。すると、後ろからもわもわと炎が噴き出て居るのが視えた。
あぁ、こりゃ本当に制御出来て無いみたいだな。
「大丈夫。自分も幼少期は似た様なもんだったからね。」
「……本当?」
「ほんと。成長すれば安定してくように成るよ。」
僕は彼の頭をぽんぽんと叩く。彼は俯き、僕を尊敬する様な眼差しで見て来た。
あぁ、理由は分かるが止めてくれ、僕は其んな尊敬される様な人間では無いのだ。
「未だ六歳でしょ? なら大丈夫。時間は有る。如何にか為るよ。」
「でも……昨日とうちゃんを傷付けたちゃったし……。」
又顔を下げてしゅんとする。如何やら自信が無い様だ。
其うか、其処迄怖いか……。なら、少し手伝ってやろう。
僕は彼の右手を取った。
「じゃあさ──」
困惑する彼を半ば無理矢理外に連れ出して来た。
さっき儀式を行った広場だ。皆狩りにでも出掛けて居るのか広場には人っ子一人居ない。
ヷルトは銀狼達に呼ばれて何処かに行ってしまった。
「参考には為るかは分から無いけれども……制御する方法を教えてあげるよ。」
「えっ⁉︎ 本当‼︎」
彼は耳をペタンとさせ、尻尾を千切れそうな程ぐるぐると回す。
「先ずは……其うだね。今溢れて居る魔力を抑えようか。」
僕は後ろを見た。感情に伴ってか、さっき依りも魔力が溢れ出して居る。
此れは……危ないな。魔力が底を尽きたら良くて気絶、最悪死ぬ。
「うん‼︎」
自分でダダ漏れして居るのが分かって無いのか、舌をベロンと出して大きく頷く。
「ほら、此れ。」
僕は収納魔法から腕輪を取り出した。
白銀の其れは光を反射し、ピカピカと輝いて居る。
「エカルパル国では九歳位迄は其れを着けるの。
只でさえ、子供は魔力が不安定だから。」
すると、彼は困惑しつつも左手に其れを着けた。後ろの炎が少しつづ小さく為って行くのが視える。
昔、良く此れを忘れて魔法を暴走させて居た事を思い出す。
クレーターを作るのは当たり前、森一帯を燃やした事も有る。
師匠が消火してくれた事で難を逃れたけれどね。
正直、此の子が生きてるのは奇蹟と言っても過言じゃ無いだろう。
此の世界で子供が死ぬ一番の理由は魔力の暴走、又は魔力が尽きる事に依る死だ。
今の魔法技術でも解決出来て居ないのだ。だから、精々抑える事しか出来ない。
「じゃあ、最初は魔法を発動させてみて。何でも良いよ。」
けれど、彼はうずうずとして魔法を発動させない。
だったら、最初に先導してやる必要が有るか。
「んじゃ、此れ。」
僕は右手を掲げて精神を集中させる。
掌に温かい何かが伝わってふっと何かが滲み出る。
「メイヤヂ̇スィㇻ̈・ゼ̂トラ̈ザ̌・ダコ゚ン。」
すると、氷柱が地面を突き破る様に現れた。
一定時間経つと、シュルシュルと、其れが地面に収納されて行く。
「やってみて。」
「え、えと……メイヤヂ̇スィㇻ̈……ゼ̂トラ̈ザ̌……ダコ゚ン…………。」
けれど、彼の魔法は発動しなかった。
氷柱は出る事は無くシーンとして居る。鳥の鳴き声が嘲る様にチュンチュンと鳴いて居る。
「な、何で……?」
魔法が出ない事に慌てて居る彼の肩をポンと叩いた。
懇願する様な必死な目線を此方に向けて来る。
「其れはね、此の腕輪の所為なの。」
「此の腕輪は魔力を抑え付ける物。
魔力を抑え付けて不安定な魔力を安定させるの。」
「此れで正しい感覚を身に付けて行くんだよ。」
僕は上達が早かったのか、其れとも師匠が実践的な練習をやらせたかったのか確か七歳位で外された。
まぁ、其の後はかなりのスパルタだったけれども……。
「さ、やってみな。数を熟せば魔法が発動出来るから。」
背中をぽんぽんと叩いてやる様に促す。彼は腕を突き出し両手を目一杯広げて、魔法を発動させる。
「えい!」
「あぁ‼︎」
「やぁ‼︎」
「たぁ‼︎」
然し幾らやっても魔法は発動しない。最初は此んなもんだ。
「ねぇ……僕には魔法の才能が無いんじゃ……。」
うるうるとした泣きそうな目で僕を見て来る。
「大丈夫だって。感覚は如何? 掌に何か伝わる感覚は有る?」
「……ん、まぁ……。」
両手をゆっくりと降ろしてボソッ、と其う言った。
「じゃあ、後何回かやれば発動出来るよ。頑張って。」
と僕が励ますと、彼は目をゆっくりと閉じ、そして何処か神妙な顔持ちで右手を突き出した。
「メイヤヂ̇スィㇻ̈・ゼ̂トラ̈ザ̌・ダコ゚ン‼︎」
すると、さっきの僕依りは小さいだろうが、しっかりと、氷柱が地面から生えて来た。
「やった‼︎」
「ほら‼︎ 出来たじゃない‼︎ 頑張ったね。」
彼は子供っぽくぴょんぴょんと飛び上がる。
其んな彼と僕はハイタッチをして彼の頭を撫でてやった。
満更でも無い顔をして居る。
此処迄出来たら後は実践的な事が主に為るかな。
掴みさえ出来れば、後は周りの大人達がやってくれるだろう。
僕は教える事は無いと判断して其の場を立ち去ろうとする。
「じゃあ、後診察しないと行けない人が居るから此処迄だね。
後は他の大人に教えて貰ってね。」
「ちょ、ちょっと待って……下さい。」
其んな僕を彼は引き留めようとする。
「あ、あの……。」
一歩、引き摺る様に足を出して、僕を見上げる。
「ん?」
「カルリ……僕の、弟だったんですけれど……。」
「其奴も、何故か……黒くて……そして……小さい頃に死んじゃった。」
「うん。」
其の目は純粋で、無垢で、ビードロみたいにキラキラとして居て……そして必死だった。
「そして、其の……最近黒い子が増えてるみたいなんです。」
「其うなの?」
彼はこくんと頷く。
「だ、だから……先生、弟は、其の、救えなかったけど……黒い子を皆、救ってやって下さい!
僕は、僕は何とか生き残ったけれども、でも……カルリの事を思うと…………。」
「……大丈夫。其の為に来てるのだからね。」
其の頭をわしゃわしゃと撫で回す。耳がピクピクと動いて居るのが確認出来た。
「う、うん! 有り難う‼︎ 先生‼︎」
「ぼ、僕、エルメート・ナバル、って言います!
も、もし、もし其の、僕が不敬な事をしたら、自分の眼を捧げるので、どうか、救って下さい‼︎」
彼は大袈裟で必至に其んな事を言う。今生の別れでも無いのに。可愛らしい。
自分の眼を捧げる、と言ったのは此の村で大罪を犯すと、死刑一個前の罰として眼を抉られるのだ。
例えば、強姦とか強盗とか、後は過度に自然破壊をしたとか。総て村長の一存で決められる。
……最近は強盗殺人でも無い限り眼を抉られ難く為って居るけれど。寧ろ殺人は死刑直行だ。
多分、彼なりの精一杯の懇請なのだろう。
けれど、易々と自分の身を捧げる真似はしては行けないぞ。
僕は其んな事したくも無いが、本当にやる奴だったら如何するんだ。
「ナバル君、だね。分かったよ。」
「はい‼︎ お願いします‼︎」
彼は喜んで居るのか尻尾をぶんぶんと振って居る。
……けど、二つ返事で請け負ってしまったな。けれど、子供の頼みなら断る事は出来無いな。
其んな気持ちを抱えつつも次の家に向かって行くのだった。
そうそう、此の黒い子もリメイク前から居た子です。
確か〜っす、みたいな語尾が特徴的だった様な。此の子は性格が諸に変わりましたね。
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