第百二十七話:ヷルトの憂い事
「へぇ〜〜……其う何だね。借金抱えたまんま自殺しちゃったんだ。」
僕等は囲炉裏の前で鼎談為て居る。
彼は鍋をくるくる掻き混ぜながら僕等の話を聞いて居た。
「あぁ。」
「何だか二人共結構悲惨だね。」
お玉を取り皿の上に其れを置き、陶器の蓋を閉めると僕等の方を見て来た。
「まぁ、今此う遣ってのびのび生きてられるのだから其れもチャラかな。」
「確かに其うかもねぇ、彼と違って背負ってる十字架は違うと思うけど。」
確かに僕等は類似点が有る。だからこそ仲良く為れたと思うのだけれど、でも其れは似て非なる物だ。
厳密には違うのだ。同じと思っては行け無い。
「え、後悔……後悔為て無いの?」
彼は背筋を伸ばして僕等を交互に見詰めて来る。
「んー、後悔……は、為て無いかなぁ。
如何? ヷルトは。」
極稀に此れが前世で出来たら何れだけ良かっただろう、と考えるけれども、那の状態からは此処迄復活為るのは相当難しいんじゃ無いかと思う。
周りに助けてくれる人何て殆ど居なかったから。
いや居たのかも知れない。けれど、視えて無いのなら居ないのと同じだ。
視界が狭まって居るのだから遅かれ早かれ自殺為たんじゃ無いかなぁと思う。
生きる事は難しい事なのだ。勿論、生物的に食って寝て排泄為て、は迚も簡単だ。
でも、人間的に、社会的に生きるのは本当に難しい。其れ同様に、自殺為るのもかなり難しいのだ。
かなり難しい事を為た、と云うと聞こえは良いが、禁忌を犯してるのだから駄目な物は駄目だ。
死んだ様に生きるか、其の儘本当に死んで了うか、何方が良いか何て人に依る。
僕は死んだ、死んだが、転生為てから生きるのが難しく為って了った。
そう、生物的に食って寝て排泄為てすら。死ぬ方が圧倒的にハードルが低く為って了った。
だからと言って、今死にたくは無い。必死にしがみ付いて生きて居る様な状態だ。
「俺も特に自殺為た事は後悔は為て無いかな。
那処で死んで無かったら今此う遣って此奴と会えて無いしな。」
僕は心の中で其んな悶々と為た思いを巡らせて居るとヷルトが其う言った。
……其うか。彼も後悔は為て無いのか。少し、胸の痞えが取れた様な気が為る。
「へぇ……吃驚。
彼が驚嘆為ると、鍋がフシューと小さい音を立てた。
其れを聞くと彼は鍋を開けた。もあもあと湯気が立ち上がる。
そしてお玉で具材を一回掻いた。
「あ、夕食出来たよ。」
とだけ言って彼は台所の方へ行って了った。
棚をガチャガチャと音を立てて何かを探して居る。
そしてお椀を持って来ると一つづつ僕等に渡した。
「いやぁ、ごめんな、夕食迄ご馳走為て貰って。」
ヷルトは正座の姿勢が疲れたのか胡座を掻いて居る。
「いやいや〜、良いよ良いよ、親友と其の友達が来たんだしご馳走位為せてくれよ。」
と言って彼は鍋から其れを装う。其の中にはカイイェーㇻ̇ラッㇰやスィーㇰ゛ザーの野菜等、其れと魚の切り身みたいな物が入って居る。少なくとも赤身魚では無さそうだ。
此れはボゴドフ̉'ォと云う料理らしい。
ほうとうの様な物だと説明為るのが一番簡単かも知れない。
ヷルトは其れを受け取ると一旦膝の横に置いて、手を祈る様なポーズに為た。
其れと見て僕も慌てて横に前に置き、其の上に箸を置いて9同じ様なポーズを取る。
「「日々の糧に感謝して、そして生き物に感謝し、神様がくれた食物を頂きます。」」
「〈え……〉? 〈何其れ〉?」
彼は右手に箸を持って唖然と為た表情で僕等を見詰めて居る。
「ご飯前の挨拶だよ。〈いただきます〉的なソレ。」
彼の方を向いて其う云うと、眉を曲げて笑って安堵為た様な表情に為った。
「あ、あぁ、何だ……てっきり変な呪文でも唱え始めたのかと。」
あぁ、ジュデバ国ではご飯前の挨拶は為ないのだっけ。
そりゃあ驚くに決まって居るか。
もしかして、マリルちゃんに其の挨拶はおかしい、と言ったのは良く無かったのだろうか。
けれど、おかしな眼で見られるのは本当だしなぁ。難しい。
けれど、無理に矯正為る必要も無いか。
「……なぁ、此れ如何やって食べるんだ?」
彼は箸をぎこちなく持って彼の方を見詰める。
「別に? 普通に、此うやって。」
彼は箸を持って太い麺を持ち上げる。
「机は?」
「無いよ。」
彼は右手にお椀を持ちながらぽかんと口を開けて居る。
「んーじゃ、フォーク持って来てあげるよ。」
お椀を一旦床に置くと彼は台所の方へ行った。
おっと、彼等の様子を見てたら鍋が冷めて了う。
僕は箸で麺を掴んだ。
白色の汁から白い麺が出て来る。
其れを口に運んで勢いよく啜ってみる。
ズゾゾ、と音が鳴る。麺はやや硬くて、白湯スープの様な汁が良く絡む。
顔を上げると、彼はヷルトにフォークを渡して居た。
「はい。」
「あぁ、有り難う。」
其れを受け取ると、フォークで具材を刺して食べ始めた。
ヷルトはかなり箸の扱いが苦手な様だ。
其んなに難しい物だろうか。
「「今日も神様のくれた食材で生きる事が出来ました。有り難う御座います。」」
夕食を食べ終えた僕等は手を合わせた。
鍋の中はもうすっからかんだ。
「あぁ、ちょっとお便所行って来る。」
「あ、俺も行って来る。」
僕がトイレに向かおうと為ると、彼も厳しいのか付いて来た。
「あぁ、外に有るからね、今外暗いから気を付けて。」
「なぁ、リング。」
「ん?」
トイレから出て来るとヷルトから話し掛けられた。
何だろうか。此んな所で。
「那奴の話は何かがおかしい。」
扉をバタンと閉めると顔面をかなり近付けて声を細める。
月光が彼の輪郭を浮かび上がらせて居て怖い。
「……え? 何処が?」
「リング、お前は自殺為たんだろ?」
「う、うん。」
「駅のホームって所が上手く想像出来無いが、線路って所から考察為るに多分駅が停まる駅舎みたいな所だろう。」
洞察力が凄い。確かに其うだ。僕はゆっくりとコクン、と頷いた。
「で、線路は電車が通る所だ。其処をぼうっと見詰めて居たんなら多分自殺為るかと間違われたんだと思う。」
「え、えぇ、其うかなぁ。」
「だから、奴の転生は間違いかも知れない。」
「其れは可哀想だね。」
もしミスなら確かに可哀想だ。
「……其う考えるとおかしな点が出て来る。」
目を瞑りゆっくりと開けて僕の鼻辺りを押さえて来る。
え? 其うだろうか? 何処もおかしな点何て無かった様な気が為る。
僕は扉の前で仰け反った。
「何故カミサマはリングの事を知って居たんだ?」
「え、そりゃ僕を転生為せたからじゃないの?」
「自殺為た所を救おうと為たなら、普通『自殺しそうに為った哀れな貴方を』とか言いそうじゃないか? なのに、開口一幕『ご友人の所に転生為せて上げますよ』だとよ。まるでリングの所に転生為せるのが目的に感じないか?」
「えぇ、其うかなぁ。」
「お前、多分お前の過去を覗き見為た時、お前の前世の記憶を見たんだ。
幽霊だった俺は其処でお前が本当に俺を救おうと為て居ると気付いたさ。けどな。」
「うん。」
「転生為た記憶は無かった。一切な。彼の証言を元に為るならお前が転生為る時のあれこれが俺にも視えても良い物じゃ無いか?」
確かに、合っても良い物かも知れない。彼は思い出したかの様に僕の鼻から手を離す。強く押されて居たからかややひりひりと為る。
「うーん、けど那れ僕も如何遣って発動為たか分から無いし……。」
確かに、其れは其うなのだけれども
「はぁ、本当か。」
ヷルトは肩を落として落胆為る。そして自分の首の後ろを触った。
「でも、少なくともお前の転生も、奴の転生も何か裏が有りそうだ。
お前は記憶を覚えて居なくて、奴は覚えてる何て不自然だと思わないか?」
「んー、まぁ……。」
其れは確かに判る。僕は何故転生為た記憶を覚えて無いのだろう。
若しくは、何故思い出せ無いのだろう。
「ただ、まぁ、純粋に覚えて無いだけ、其れか思い出せて無いだけなのかも知れないな。」
「兎に角、善意で俺を転生為せたお前と違って、何か裏が有ると疑っとけ。
『狐は真理に辿り着く』、だろ?」
狐は真理に辿り着く。エカルパル国の諺だ
意味は疑う事は悪い事では無く、時には真実を発見為る事に為る、と云う意味だ。
此れはブルゲル童話の『アリブレートとアルマリード』の一幕、兎と虎と狸と狐が食べ物に困って居た所、種族不明の商人がやって来て、此方に食べ物が有りますよ、と言われたけれども狐は其れを信じず、着いて行った兎は丸焼きに、虎は剥製に、狸はグ̊ㇻ̇ゲッヂョに為れて了った一幕から来て居る。
……只、狐は狐で何事も信じ無かった為、最終的に餓死して了うのだが。
「うん……其うだね。」
何故だろう、狐の彼が言うと妙に説得力が有る。
「良し、じゃあ話は済んだ。お前は戻っとけ。」
僕が扉から離れると彼は厠の扉を開ける。
「え、ヷルトは?」
僕が振り返って彼に訊くと、迚も真面目な表情で此う言った。
「あぁ、さっきから漏れそうで仕方無いんだ。」
と云う事で前々から隠して居た事を公開致しました。
リングさんは作者が此う云うのもアレですが、かなり鈍感な部分が有るので其うと言われたら結構信じて了います。知人とかだと尚更。他人にはかなり疑り深いと云うか、気付くのですけれどねぇ。
変な宗教勧誘とかネズミ講に騙され無いか心配です。
其う云う物って知人伝えに来ると思いますので。
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モチベに成りますので、宜しければ。
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