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第十三話:八百屋と肉屋※

二月二十一日、改稿しました。

 僕はゆっくりと目を覚ました。窓からは燦々とした光が射し込んでいる。

 あぁ、そうか、彼とは昨日の内に別れたのだっけ。流石にもうそろそろ帰らないと親父に心配されるから、と。……其れにしても、他人(ひと)の居ない朝とは此んなにも(しず)かなのだな。部屋中がしんとして音を発さない。

 目覚めた僕は(ぼう)と其んな事を考えて居た。


 突発的で偶発的で余りにも唐突な出会いだったけど、かなり楽しかったな。

 けれど彼はきっと何処かで会える筈だろう。僕は瞼を擦ると、ゆっくりと布団から起き上がった。


 * * *


 さて、昨日の内にやる事もやったので、次の問題を片付けに行こう。

 ファルダの所為とは言いたくは無いが、食料は無くなって来ているのは事実なので買い出しに行こうと思う。


 右手を進むと八百屋が有るみたい──と其んな事を言う暇も無く、ソレは現れた。唐突にふと現れた様に感じた。

 獣人に成ってからどうも耳許りに頼っているみたいだ。視力も其処迄良いとは言えないもの。

 其のお陰で此の様な事が多発する。


 今の時期に八百屋はやっているのだろうか。


 僕は店の前に立ち、看板を眺めた。其処には「ㇰル̇ペアㇰ(OPENED)」と書かれている。

 どうやらやっているみたいだ。


 僕はゆっくりと八百屋に立ち入る。


「あの……すいませーん。」

 と一言言って中に入る。奥には主人の様な人が見える。()の人がココの主人なのだろう。

 けれど、僕を見るなり顔を顰め、そして怒鳴り声で口を尖らせる。


「獣人は帰れ‼︎ お前に売るもんなんて何も無いんだよ‼︎ せっかくの商品がお前の所為で駄目に成るだろうが‼︎」

 威圧感の有る様子で僕に怒号を浴びせてくる。


「いや、けど、その……。」

 と否定しようとするものの、僕の言葉は遮られてしまう。


「何で人間の為にやってんのにお前に物を売らなきゃいけないんだよ‼︎」

「お前等なんて肉だけ食ってりゃ良いだろ‼︎ 態々こっち来んな‼︎

 触ろうとすんなよ、菌でも付いたら如何する⁉︎ 此の畜生どもが‼︎」

 と如何にも殴られそうな様相で罵声を浴びせられる。

 全く以って心当たりも無いが僕に対して怒って居るのは分かる。


「あの……すいません……──」

 とおずおずと言おうとするものの、其の声は彼の大声に掻き消される。


「ふざけんな‼︎ お前等が始めた事だろ⁉︎ いつもいつも悪態をついて俺に嫌がらせをしてきた癖に……‼︎」

 声には恨みが籠っている。そして僕の目を殺気有る目で見る。

 僕は焦って了った。如何彼の認識を変えるのが良いのだろうかと。


「け、けど……獣人皆其んなヤツでは……」

「はぁ⁉︎ 人間を皆殺しにして蔑んでいる奴を庇うのか‼︎ クズが‼︎ 其んな言う権利なんてねぇだろうがよ‼︎」

 口から()だした言葉も彼の圧倒的な声量と罵倒に依って否定される。

 脳味噌が煮詰まる感覚を覚えた。僕は自然と口角が上がる。勿論喜んではいまい。

 もう此んな法螺の様な事を言われたら軽蔑やら嘲謔(ちょうぎゃく)やらするしかない。

 皆殺し? 何を言っているのだ、コイツは。

 ……もう、コイツとは話が通じないのではないか。ならもう、話をしないのが一番に決まっている。


「はい、分かりました。有り難う御座いました。」

 とだけ言って、僕は其処を後にする事にした。




 取り敢えず彼とは話が通じないと分かったので、八百屋は後回しにして肉屋に来ている。けれど、


「えぇと……。」

「あぁ。」

 店主の顔が無表情で恐ろしい。僕がお肉を選んでいる際も彼は僕をじっと睨んでくる。

 取り敢えずは門前払いをされなくて良かった、……とは思っては居るものの、其れを差し引いても店主の顔色は身がよだつ様な怖さが有る。

 何故だか背筋が凍る。きっと前世で上司に散々に云われた事が脳裏を()ぎって了うからだ。

 其んな彼の顔を何とか見ない様にして、僕は干し肉等を選んでいく。


「あの、グㇻ̈ディアのお肉十グルンドと……。スㇻ̇ケツァ二本と……後グㇻ̈ディアの骨って有りますか……?」

 すると、彼は頷いて棚や後ろから僕の要望通りのものを取る。

 グㇻ̈ディアの肉を適当に剥ぎ、ぐるぐる巻きに成っている腸詰めを二本取る。

 其等(それら)を麻袋に入れると、僕の目の前に置く。


「はいよ。」

 ドサッ、と云う音がする。僕は(ふところ)の硬貨を確認する。

 ひい、ふう、みい、よ、いつ、む、……足りそうだ。


「……これで足りると思います。」

 僕は硬貨をじゃらじゃらと差し出した。

 彼は其れを受け取り、しっかりと数えて居る。何度も何度も疑り深く確認している。

 商売柄からなのだろうか。


「大丈夫だ。」

 僕の目をしっかりと見て言う。僕は目を逸らして了った。

 もう耐えられない。さっさとお礼だけ言って家に帰るとしよう。


「あぁ……じゃあ……。」

 と、小指を立てて帰ろうとした時、彼が口を開いた。


「お前、獣人だろ?」

 ゾゾゾっと、背筋が凍る。毛がぶわっと膨らむ。

 尻尾は大きく成って了っている、おまけに耳がビンと張って了っている。

 完全に彼を警戒している証拠だ。此う成ると防衛本能でも働いて了うのか珍妙な鼓動を発する。


「ええ……そうですね……。」

 僕は表情だけはにこやかな笑みを浮かべてはははと乾いた笑いを浮かべる。

 コレで違う──……なんて事は拷問されても言えるまい……。

 然し、次の発言は僕の予想を覆すモノだった。


「……だったらあっちの八百屋、お前なら門前払いされるかもしれないな……。」

「──え。」

 ポカンとした声が口から突い出る。

 彼は流眄(ながしめ)で僕を見ない。何となく顔色が曇った様に思える。


「ええ、まあ。行ってみたんですが門前払いでしたね……。」

 僕は何度か頷く。さっきの過剰反応が治まっていくのを感じる。

 口角を上げるものの何だか上手く上がらない。


「ああ、そうだろうな……あいつ何故か獣人を途轍も無く嫌ってて、もう差別的って感じなんだよな。」

 彼は余り顔色を変えていない様に思える。が然し、彼は雰囲気を変えている。

 今の雰囲気は何が如何か分からない、と云った感じだろうか。 

 ……成る程な。


「そうなんですよね……その物言いですと一生商品を売ってくれなさそうですもの。」

 僕は机に頬杖を突いて愚痴を言っている。耳はペタンと、尻尾はちょっと揺らしている。

 完全に安心しきっている証拠だ。


「まあ、だろうな。俺が行ってやろうか?」

 親指をクイっと上げ少しだけ微笑んだ。……彼の善意に其の儘乗っかっても、良いのだろうか?


「え……良いんですか⁇」

 僕は顔を上げた。勿論嬉しくない訳は無い。だが然し、抵抗はかなり有る。


「良いよ良いよ。だって村の奴等なんて悪魔だのなんだって言って取り合ってもくれないだろ? ホント、何考えてんだが。」

 彼は呆れた様に首を振る。


「そうですけど、でも、何か、何か此う……理由が有るんじゃないかって……。」

 でも、其の言葉を聞いても僕は村の人を擁護する様な発言をした。

 理由が無いと、僕は納得出来ない。出来やしまい。


「いや、無い無い。ソコ迄深い理由は無いに決まっている。」

 けれど、彼は僕の発言をキッパリと否定する。顔色一つ変えずに。


「な、何でですか?」

 僕は焦った様に訊き返した。何故理由は無いのだ、と言えるのだと。

 すると、彼は何処か冷徹な目をする。


「人間って、そう云う奴等だからさ。特に此んな辺境の村だと特に。」

「他の種族を受け容れて行かないと此の村は衰退する許りなのに。」

「お前は獣人だから、分からないかも知れないけどな。」

 と言うと、彼は麻袋を僕の目の前に差し出してきた。離された其れを僕はあわあわと両手で受け取る。

 僕は首を振った。確かに、そうだ。正直、其れは僕も厭と言う程経験している。

 でも──けれど、僕は他の人間に希望を抱かざるを得ない。


「ああ、後アイツのコトで気になる点が有ってな。」

 彼は口に手を添える。僕は横を向いて耳だけを彼に差し出す。

 すると、キョロキョロと誰か居ないかと左右を振り向くと、囁く様にボソボソと話す。


「アイツ、別に他の種族にはそんなでも無いんだよ。寧ろ分け隔てなく優しいと云う感じ何だよ。」

「俺、結構アイツと付き合ってるつもりなんだけどな。教えてもくれないし良く分からない。」

 とだけ言うと彼は口を離した。


 其うなのだろうか? 僕は村に引っ越してきた許りだから知らないが、きっと村の人が言うのだから其うなのだろう。結局は自分が体験しないと分からないが、でも、那の獣人に対する厭悪(えんお)のしようは僕でも異常だと思う。


「あぁ、ところで、野菜は何が欲しいんだ?」

 彼は腕を組む。さっきの湿気(しけ)った話を払拭する様に話を変える。


「ああ、ええと、カイイェーㇻ̇ラッㇰと、コ̊ゥ゙̻ヱ̇リ̈と、スィーㇰ ゙ザーと、ゼㇻ̈ディーンが欲しいかなって。後ヰ̇ーㇲ゙ポㇻ̈でも有れば良いかな。」

 普通の食料と、其れとあの師匠がやってたアレを再現出来ないだろうか、と思っている。


「ヰーズポォㇻ̇? ()れだ? 何かの別名か?」

 彼は頭を掻いている。首を傾げている。肉屋だから野菜や植物には詳しくないのだろうか。


「あの、トゲトゲして、赤く酸味と甘味の有る果物みたいな奴です。」

 僕は親指を人差し指を使って円を作る。思い付く限りの情報を言うと、彼は「ああ〜〜」と何度も頷く。


「……『悪魔の実』か?」

 今度は僕は首を傾げる番だった。


「悪魔の実?」

 と訊き返すと、


「そう、悪魔の実だ。見た目から其う言われているんだ。」

 と頷く。只、理由を知ると納得出来ない事は無い。見た目はかなり刺々しく、赤いが、中の実は黄金色(こがねいろ)をしているのだ。だから、『悪魔の皮を被った天使』と云われている。……なんて逸話を師匠から聞いたことが有る。


 そうか、此方では悪魔の実、と呼ばれているのか。

 其処等に有象無象に実を付けているのに。食べないなぞ勿体無い。


「……あれ、食うのか?」

 とおずおずと訊く。面妖なモノでも見るかの様な目だ。


「えぇ、美味しいんですよ? 確かに見た目はちょっと……アレ、ですけど……。」

 僕は最後で言葉を詰まらせて了った。彼をちらっと見る。彼の雰囲気から青褪めているのが分かる。

 彼は案外雰囲気や行動に出るタイプなのだな。那の見かけを視認したら確かに躊躇して了う。


 が、「文化の違いなのかなあ」とぼそっと言った言葉を聞き逃さなかった。

 ……人間の方が、よっぽど変な物を食べていると思うぞ?


「いやぁ……そうは言われても俺は食べる気にならないな……。」

 彼は頭を掻いて苦笑いをしている。人間は食に対する欲求だけは飽くなき探究心を持っているのにな。

 きっと、美味しい事が分かったら食べ尽くして了うのではないか。僕はふふふと笑った。


「……どうした?」

「いいえ、すいません。有り難う御座いました。」

 僕は両手を絡み合わせ胸に当てると、くるっと後ろを振り返り家に戻って行った。

肉屋の人は悪い人では無いです。只々顔付きが怖いだけなんです……だけなんです……。


* * *


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モチベに成りますので、宜しければ。


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