第百十九話:コルベド小国に立ち寄る
「え……あー…………どっから訊けば良いと思う?」
僕は車内に戻った後、何となく険悪な雰囲気の彼等に其う訊いた。
少しはにかみながら馬鹿っぽく。
「いや俺に言われても困るわ……。」
ロージアは肩を落として居る。眉を顰めて。
「……俺が治癒魔法で治した後、何処行った?」
ヷルトが物々しい雰囲気で顔を上げ険悪な顔で其う言った。
「…………木の上に逃げてた。」
後ろめたいのだろうか、其れとも彼が恐ろしいのだろうか、少し声を細めて顔を下げて居る。
「はぁ。」
彼は首に手を当てた。
「いや、まぁ……せやけど、結果的に其処に居たお陰で倒せたんたしええんちゃう……?」
ロージアが引き攣った笑いを浮かべてヷルトの事を宥めて居る。
「んまぁ、結果だけ見ればな……其れは俺も文句は言え無いな……。」
「ね! ね! でしょ!! 良かったでしょ!!」
呆れて居るだろうに其れを知らぬのだろうか隙に入れ込む様に彼に強要為る。
「いや結果だけ見たら、って言ったろ。
過程が地の底迄落ちてるんじゃないかよ。」
ヷルトが其方をキッと向いて蔑む様な眼で見て居る。
「まぁまぁヷルト、自分は此の中で一番歴短いんやし其処等辺にしといてええんちゃう?」
ロージアが彼を宥める。
「チッ……。」
「じゃあ一旦降りますよ〜、一時間程度為たら行きますんで。」
馬車の走者が扉を開けて言った。
如何やら街に着いたみたいだ。此の旅で村だの集落だのは寄って来たけれども街は初めてかも知れない。
此処はエカルパル国でもジュデバ国でも無い。コルベドと云う国だ。
ジュデバ国から分裂為たゾーティベ国でも無い所。
一度や二度は来た事が有る。多分今回と同じ様な感じで立ち寄ったと思う。
「なぁ、ちょっと付き合ってくれないか?」
「へ?」
彼が僕の手を何だか覚束無い感じで握る。
其の儘、僕は彼に連れられて行った。
「武器屋って何処だ?」
「うーん、多分あっちに有ると思うよ。」
僕は斜め右の方向を指した。確か其方に武器屋は有った筈。
彼は其れを聞くと其方にそそくさと走って行って了う。
多分十中八九武器を買う為だろう。
……けれど彼が持って居る其の豪華な装飾の付いた片手剣じゃ駄目なのだろうか。
其んな事を言う暇も無く彼は僕を連れて行く。
「なぁ、何れが良いと思う?」
武器屋に行った僕等は店で武器を選んで居た。
「何んな戦法が得意? 僕は奇襲と、そして短期戦が得意。
だから大剣を選んでる。一撃もより重く為る為にね。其の代わり重いけど。」
「ふーん……。」
彼は頭の後ろで腕を組み何だか如何でも良いかの様な返事を為る。
「普通は片手剣か……其れか槍かな。
槍は良いよ、リーチが長いから攻撃も当て易いしね。
弱点と言ったら多分携帯し辛い事かな。」
僕は掲げられて居る槍を一つ指して彼に言ってみる。
……此れ取って良いのだろうかな。取った方が説明が為易いのだけれど。
「ふーん。」
……本当に彼、聞いて居るのか?
まぁ良いか。話を続けよう。
「次に片手剣。此れも良いよ。切ったり叩き潰す事が出来る。
何方かと言うと叩くのがメインだと思うけどねぇ。
血が付いたら掃除は大変だし研がないと行けないし……。
けど其れに見合う火力は有ると思うよ。対人戦じゃ無ければ此れが無難かなぁ。
あ、でも君持ってるか。買う必要は無いかねぇ。」
剣を指して僕は其う言った。此処に売って居る剣は普通の剣と少し違う。
長剣みたいな形だけれどもやや反って居る。まるで刀みたいだ。
「いや、必要は有る。此れ、実は見た目だけで火力は全然無ぇんだ。
刃のキレはわりぃしやたら重ぇしさ。何にせよ買い換える必要が有る。」
自分の剣を指して其んな事を言う。
「え、其うなの? 見た目だけ、って事?」
「あぁ。」
彼はぎこちなく頷いた。
彼の性格から鑑みるに見た目だけを兎に角派手に為せたかったのだろうか。
豪華に自分を盛り付けて、何も無いのを隠したかったのかも知れない。
彼から目線を逸らし武器の置いて有る棚を見ると、槍や鉾や鎌等が並ぶ其の中に何か変な物が有った。
「おっと? 何か珍しい物が有るね。」
僕は其れを手に持ってみた。其れは斧みたいな刃が付き、反対側には鉤爪みたいな突起が有って、先端は槍の様に尖って居た。
かなり不思議な武器に見える。
「へぇ、此れ斧と槍が合体為てるみたいだね。」
「すいませーん、此れ何て云う武器ですかー?」
僕は手を挙げて声を張り上げた。
「へいへい、如何したんでずか?」
東洋っぽい着物の様な長い袖の有る服を来た男が遣って来た。
此処の国の人の人は公用語としてエカルパル語を使う。
けれど、彼等のエカルパル語は訛って居る。
いや訛って居るは訛って居るのだけれど、其れに加えて何か別の言語が混ざってる様に思える。
「此れって、何て言う武器なんですか?」
其れを指して彼の顔を見る。
肌はクリームっぽい色だ。黄色人種の血が流れて居るのだろうか。
「ん、あぁ、バルグ̏レーㇲ̂゛てゆうっぺ。」
彼は腕を組んで頷きながら言った。
へぇ、其う言うのか。初めて聞いたかも知れない。
何処で生まれた武器なのだろうか。
「……じゃあ、すいません。此れ一つ!」
「え、買うのか?」
フォードネイクは驚いて居る。嘘でしょ、買わ無いの?
「買うでしょー! もう一つの武器として!!」
「へいへい、ナルべングーダ。」
ナルベングーダは了解、了承、って意味みたいだ。
……最早エカルパル語では無い様な気が為る。
「えい、一万四千ぺラルドだっぺ。」
「あ……此れでも平気ですか?」
そうだ、忘れて居た。ベリル硬貨が駄目だったのを。
ユーロみたいに使える所多いんだけどなぁ。僕は五千ベリルを差し出した。
「あぁ、だぁじょおぶだ。」
彼は其れを受け取るとお釣りとして五十べラルドを差し出して来た。
其れを財布の中に了った。
「あ、あの……じゃあ、此れ……。
僕が買ったのを見てか彼はしどろもどろに武器を指した。
「へいへい。」
「如何? 大丈夫?」
馬車に戻って来た僕等は勝って来た武器を早速見てみる。
「ん……前依りかは良いかも……。」
其の前で素振りを為て僕を横目で見て来る。
結局彼は普通に片手剣に為たみたいだ。少し形状が違うから使うのに慣れが必要だろうが、大丈夫んなのだろうか。
其れにしても、かなり危なっかしい振り方だ。初心者の其れと形容出来るだろう。
僕も其れを持って素振りを為てみる。
「うわっ! 何此れ!?」
先端がやたら重くバランスが上手く掴め無い。
僕も人の事を言ってられ無いみたいだ。
其れを見て彼は何故かにやにや為て居る。
おいおい、此れと其れは勝手が違うのだぞ。僕は総て巧く扱える訳では無いのだぞ……。
其の後店主に扱い方を教えて貰ったのだけれど、斬る、突く、叩く、引っ掛ける、と色々な使い方が出来る武器みたいだ。
……此れ、上手く扱えるかな。
僕にとって余りにも複雑過ぎる武器何じゃないか……?
そんな感じで武器の扱い方を確かめて居ると、ヷルト達が戻って来た。
「おう、武器買うたんか?」
右手に麻で出来た鞄を持ちながら右手を挙げて居る…
「うん、僕は此れを主力武器にしようとは思って無いけどね。
飽く迄副次武器と為てね。」
「にしても、変な形の武器やなぁ。
斧と槍をこう……バチャグヮン! って為せたんか?」
彼は手と手と合わせてパンと音を立てる。
けど、オノマトペの所為で全く分から無い。
取り敢えずは適当な返事を返して置く事に為た。
「うん……まぁ、其うじゃない?」
「なんやテキトーな返事やなぁ……。」
何だか彼ががっくしと肩を落として居る。
何か返事を間違えたのだろうか。
「あぁ、そうだ、お前等……。」
後ろに居るヷルトが手をちょちょいと上下に振って居る。
「へー、おいし。……あっついけど。」
馬車がガダゴドと揺れる其の中で僕等は間食を為て居る。
彼等は食べ物を買って来て居たみたいだ。
名はゴンボンッ̌゛と云い、たこ焼きみたいな厚い生地に覆われて、中には海鮮類が入って居る。
其処からはスープが溢れ出して来る小籠包みたいな料理だった。
八つの物を二つ買って来たみたいだ。
僕とロージアが其のパックを持って居る。
「あっふ!!」
フォードネイクが口に入れた瞬間はふはふと口を動かして居る。
「ははははは阿保やなぁ。
此れはな? こうやって……。」
彼は口を開けて晒うと、爪楊枝で其れを刺し、何度も息を吹き掛けた。
大丈夫だと思ったのか其れを口に運ぶ。
「あつ!!」
其う言って口を押さえる。
「何や此れ!! ほんまに熱いやん!!」
「……お前等さぁ……。」
ヷルトが呆れた様な調子で其れを食べて居る。
「あー! 何で平気なんだよ!! おかしいだろ!!」
「食べ方が有るんだよ。」
爪楊枝をくるくると回して真剣な顔で其う言う。
「ど、如何遣って……?」
フォードネイクは体を乗り出して彼の目を覗き込む。
ヷルトは顔を下げて何だか物々しい雰囲気を醸し出して居る。
「教え無い。」
顔を上げ、意地悪に微笑うと其れを口に運んだ。
「何でだよー! 教えろよー!!」
「やーだ。」
何だか、明るい雰囲気だった。特に、フォードネイクと皆の距離が縮まって来て居る様に思えた。
ちょっとした補足なのですが、ゴルベド国の彼等が使って居る言語はエカルパル語に隣国のエゴルベ語の単語が混じった形に為ります。だからリングさんは別の言語が混じって居る、と言って居たのですね。
そして、此の小説はエカルパル語で書かれた物を翻訳して居る体でお話を書いて居るのですが、ゴルベド人の言葉を如何するか結構悩みました。
標準語に織り交ぜるか、其れか方言に為るか、けれど彼等は現地のエカルパル人依り訛って居るので標準語だと其れが表現出来ません。然し、後者だと方言の破壊に為りかねません。
そして出した答えは『架空の方言を作る』と云う事でした。
ですので彼等の使って居る方言は有りませんので御注意下さい。
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モチベに成りますので、宜しければ。
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