第十二話:自己実験※
二月十五日、改稿しました。内容も変わった序でにタイトルも変えました。
「そうそう‼︎ そうだ‼︎ 良いぞ良いぞ‼︎」
僕は彼を見上げる様に視線を向けて居る。
が、喉から声は出ない。出したとて「クシャアアア…………」と云う明らかに人の出すものとは思えない声が出るだけだ。流石に耳に劈く声だから止めろと言いたかったのにも関わらず。
僕はㇰ゛ルーネㇻ̇、と云う魔獣へと変化している。彼が「多分コレなら楽だろう」と言った為だ。
四足歩行で毛先一つ一つが針金の様で、硬質の毛に覆われている。
耳は長く小さい角が有る小狐の様な魔獣だ。
足元に目を移すと脚は蒼い。全身が此の色みたいだ。
けれど、唐突に頭痛が襲って来る。ああ、此れはもう駄目だ。
僕は魔力をもう一回体に流し込む。生暖かい何かが体全身に流れる。
「あぁ、駄目だ……きっもちわりい……。」
束の間だけは変身出来たものの、脳味噌が搗ち割れる様な酷い頭痛に魔法を解いてしまった。
脳味がぐちゃぐちゃに成りそうだ。
此れ以上やると体に何か支障が出てもおかしく無い。僕は頭を抱えて「うう」と唸った。自然に息が荒くなる。
何故此れだけの魔力を喰らう魔法を平然と使えるのだろう。
魔物だからか、それとも何かコツが有るのだろうか。
但し一つだけ分かる事が有る。──普通の人間にやらせたとしたら死んでいたで有ろう。
紅目でないに人は耐える事が出来まい。
「……大丈夫か?」
「うん、大丈夫……。」
と立ち上がった瞬間、視界と体が地面に向かって倒れ込む。僕は蹌踉けて了った。
「お、おいおい……。」
彼は僕の背に手を回して倒れた僕を介抱する。
何とか立ち上がった僕は介抱する。が、僕は収納魔法からメモ帳を取り出す。
そして石筆も取り出すと、其れにさっきの結果を書き込む。
「な、何やってんだよ?」
「……実験の記録……取らないと、意味無いからさ……。」
彼は何故か後ろから抱き締めてくる。何処か思考と腕の動きがふわふわとしているが此処で体験したことを纏めないと実験は大失敗に為る。
「けどお前さ……。」
「……魔導師何て此んなモンだよ。」
僕は枯れた声を発して了う。喉もガラガラだ。
すると彼は首を傾げ納得の行かない顔で口を開く。
「魔導師ってヤツは相当馬鹿なんだな。」
歯に衣着せぬ物言いだ。だが、否定は出来ない。
「まあ、其うだね……。」
とだけ言った。
* * *
家に戻って来た僕等だったが、僕は彼に半ば看病される様な形で居る。
六足に戻った彼の腹に頭を付けている。手を入れてみる。凄いな。何処迄も手は入って行く。
彼は此方に厭う様な目を向けて来る。と思ったら、ふわふわの物に入る感覚が無くなった。
ゆっくりと見下げると、彼は胡座を掻いて居た。僕は彼の膝に乗っかっている形になって了う。
何だか子供扱いされているみたいで嫌だ。僕は立ち上がらせようとするものの彼は頬の辺りに手を置いて来る。止めてくれ。
そしてもう一方の右手で僕の右耳を触ってくる。何か気になるのだろうか。
「……そういや……。」
「どーしておめえ、紅い眼なんだ? 紅い眼の獣人なんて見た事ねえからさ。魔物の血が混じってんのか?」
彼は僕の眼をちらっと見る。確かに此れは気になるだろう。
「いや、コレは紅目、って謂ってね。
普通より魔力が滅茶苦茶多い人に現れるみたいよ?」
僕はあかんべえをさせて眼球を彼に見せる。彼はじろじろと眺めると「瞳孔は濃い紅なんだな」と言う。
「そうだね」と言うと又耳を触り始める。もう、良いか。諦めよう。
「へー……良い事なのか?」
「一概に其うは言えないかな、子供の頃は結構亡くなり易いし、一部の地域では差別が有るしね。」
「……お前が悪魔って云われてるの其れが原因か?」
目線を彼の顔にやった。彼は眉を八の字にしている。理解出来ていない様子だ。
「いや……うーん、なんて言うかな、分からないけど其れにしてはおかしいんだよね……忌み方が。」
「ふーん。」
声からして特に興味は無さそうだ。
「……あ、ゴミ取れたぞ。」
彼はやっと押さえている手を離す。
起き上がり彼の腕を見ると何か白い物を摘んでいた。
「ほら、毛玉。」
「ソレ、見せる必要有る?」
すると、彼は案外キッパリと言う。
「無いな。」
なら見せるのではない。
* * *
其の後、僕が筆を走らせていると、彼は肩を叩いてくる。「なあに?」と一言言って其方を振り向くと、彼はクッキーの様な物をお皿に乗っけていた。「ほらよ」と、彼はお皿を渡してくる。
「ん、ありがと。」僕は其れを受け取る。早速一つ摘んで口に運ぶ。
程よくサクサクとしていて、オレンジの様な風味を感じる。美味しい。
僕はレポートに目を移す。彼はお菓子も作れるのか。此れもこのレポートに追記しておかねばならないな。
……けれど、ココで躓いた。理由は一つ。彼に名前が無かったからだ。何か彼を支持する代名詞が無いと書き難い。
名前が無いと他のヹードとの差別化が出来ない。右に顔を向ける。
「ねえ、名前、って有る?」
すると、彼は驚く。瞳孔を開いて僕から目線を逸らす。
目線を戻すと、耳をピクピクとさせながら口を開いた。
「名前?……名前なんてねえからよ。お前が付けてくれよ。」
彼はクッキーを口に運びつつ、頬杖を突いて言った。そして「ははは」と言う。けれど、何処か淋しそうだ。
名前を付けてくれ、か。急に言われたとてこれっぽっちも思い浮かばない。少し頭を捻る。
彼にぴったりの名前を付けると為ると何が良いだろうか。
彼の目を見る。彼は自然に生きているからか、やはり野生的だ。堂々ともしている。
ならば、
「……ファルダ。」
「ファルダ?」
彼は首を傾げる。取ったクッキーを口から離した。
「そう、大胆で力強くて堂々としてるって意味だよ。」
僕はふふふと笑う。そして、クッキーを一つ口に運んだ。
日本語だと豪快と訳すのが一番良いだろうか。
「そうか、ファルダ……良いな。響きが。」
「気に入ってもらってよかったよ。」
「……あ、見てみろよ。」
彼は目の前の窓を指す。其方に目線を向けるとメトㇲが顔を覗かせていた。
やはり何処か冷徹で冷酷では有るが、今回許りは僕達の事を鼓している様な気がした。
茫と其れを眺め、おやつを嗜む。此んな夕方も良いではないか。
すると自然に紅茶が欲しくなる──と隣を見るとファルダは居なくなっていた。
と思うと、又僕の肩が叩かれる。そして其方を向くと彼がカップを二つ持って来ていた。
其の中には縁一杯、なみなみと注がれた蜜柑色の紅茶が入っていた。
一言「ありがと」と言って其れを貰う。爽やかな味だ。紅茶を飲みつつ、そして窓の景色を見る。
偶には良いではないか。ロマンチックやらと言うのだろうか。僕は筆を進める。
皿に手を伸ばすと、皿の上にはもうクッキーは無くなっていた。
紅茶を一口飲んでレポートを書き上げていく。
「……ま、こんなもんでいっかな。」
椅子の背中に全身を凭れ空中で腕を伸ばす。
レポートには文字がみっしりと書かれている。一寸の隙間も無い。
「……んじゃ、そろそろ夕食でも作ってやるか。」
僕の様子を見てか、彼はゆっくりと立ち上がった。そんな彼に釣られる様にして僕も立ち上がる。
そして、彼の肩を叩いた。彼は振り向くと口を開けて当惑している。
「僕も手伝わせてよ。」
ファルダ君さんの性格が中々好きなので又何処かで出したいですね……けれど出し辛いかな……話の流れ的に。




