第百十二話:馬車に揺られて
十一月二十九日、最後の英字を消しました。いや、あの、すいません……制作途中に書いて居たのを其の儘放置してました……。
「……良し、準備出来たぞ、リングは如何だ?」
彼はバッグを背負って此方を見てくる。何処か呆れて居る様な目だ。
結局、彼は許してくれた。本当に感謝為なければ為らない。
「ちょ、ちょっと待って……えとね……よしよし……。」
僕は収納魔法の中を探し回って居る。魔法陣を取って机の上に置いて、両手を突っ込んで物を探して居る。
頭も其処に突っ込んでみると、白い空間の中に剣が浮遊為て有った。其の剣を取って彼に見せる。
「〈オッケー〉!」
彼に親指を突き立ててグッドサインを送る。
「其のオェッカイっての、何なんだ……?」
「了承の言葉だよ。日本語では無いんだけどね。」
リュックサックを背負って荷物を片手に持って立ち上がり彼を見た。
「ほー……。」
僕は彼女の家の前に遣って来た。
「……じゃあ、ごめんね。今日から外出しちゃうんだ。
多分三カ月位居無いと思う。」
僕は彼女に目線を合わせて言う。
「うん……。」
流石に二回目だからか彼女も渋々と頷いた。
良し、此れなら大丈夫だろう。
僕は彼女等が待って居る街へと向かった。
「はいはーい!! すいませーん!!」
彼女等に手を振る。彼女等の後ろを見ると馬車が在った。
人が乗るキャリッジが二つ付いて居り、其の後ろに荷台が付いて居る形だ。
僕達が乗った馬車依りも遥かに大掛かりな馬車だ。簡素では無く、かなり豪華な装飾も為れて居る。フォトフルーは四匹居る。
余り此う云う事は賤しい考えだとは思うのだけれど、何れだけのお金を払ったのだろうか。
彼等の其のお金の掛け具合からも意気込みが見える。……気が為る。
「はいはい、早く乗りなさいな。」
彼女は其う言って僕等を真ん中の所へ案内を為る。
「はい、すいません……。」
僕等が中へと入って行くと右手に誰かが座って居た。
槍を背負って居る事と装備を身に着けて居る事から、多分冒険者なのだろう。
僕以外にも雇ったみたいだ。
軽い会釈を為て僕等は反対側に座る。
「……こんにちは。」
「あぁ、こんにちは。」
其のふわふわの毛皮の、見た所雪豹みたいな彼は野太い声で其う言った。
僕等を見る目が恐ろしい。ヷルトはクールでは有るが感情は分かる。
彼は感情が感じられ無い。
何だか気不味い。彼の冷たい目線も相まって車内には凍えた空気が流れる。
心亡しか何処か寒い様な。
此れで出発為るのかと思いきや中々出発為無い。
彼等の会話を盗み聞き為る限り如何やら後一人足り無いみたいだ。
「……おっすぅ……遅れたぁ。」
「あ、セルグニークさん!! 流石に出発前は遅すぎるって!!」
外から其んな会話が聞こえて来る。気怠気な男性声とフュ─ペンダの焦った声が聞こえて来る。
「あぁ、すまんすまん……。」
其う言うと馬車へと乗り込んで来た。
其奴は白い猫みたいな奴だった。外見は僕をそっくり其の儘白色に為たみたいだ。
「お、獣人ばっかか。此れも珍しいな。」
やや不貞不貞しい物言いで僕の隣に座った。
此れで馬車内には僕とヷルトが後ろに座り、雪豹の彼とセルグニークが座る形に為った。
何だか気不味い雰囲気の中、馬車はゆっくりと動き出した。
帰りに乗った馬車依りかは居心地が良く無いけれども、別に不満は無い。
ヷルトも其処迄気持ち悪く無さそうな顔を為て居た。
「……じゃあ、えっと……僕から自己紹介します……!」
其の気不味い空気を打破為ようと手を挙げ、立ち上がり話を始める。
馬車の揺れに蹌踉けそうに為った。窓の方に手を置いて姿勢を整える。
「どうも……カインドロフ・クリングルス、って言います……えと、アヲ̇センㇳフ̇ェ─キーで、武器は大剣です。
ランヷーズ歴は八年と余り長くは無いですが宜しくお願いします……。」
利き手の手首を掴んで其れを胸の辺り迄持って来た。
ゆっくりと椅子に座って二人を見てみる。何も言わ無かったけれども何だか微妙そうな顔を為て居る。
……まぁ八年でアヲセントだもんな、凄いと言えば凄いけれども、時間とランクを照らし合わした場合、驚愕為る様な早さでも無い。
僕はヷルトの方を見る。彼は立ち上がらずに手を膝に当てて話し始める。
あそうか。馬車内で立ち上がる何て危ないか。普通に考えて。
会社や学校の自己紹介と同じだと思って了った。愚かしい行為を恨んだ。
「あぁ、どうも、あー……・ドヷルト、だ。武器は斧だ。ヅァェヲ̇センㇳフ̇ェーキー。
ランヷーズ歴は…………多分四ヵ月位だろうか? 今現在此奴と同居為てる。宜しく。」
前に居る二人がおおっと声をあげる。確かに四ヶ月でヅァェヲ̇センㇳフ̇ェーキーは凄い、と云うか恐ろしい。
期待のルーキー、って感じだ。けれどな、其れは彼が三十年程度遣って居たからで有って、生まれ持った才能では無いのだよ……。
三十年も遣って居るのだったら経験も豊富だし多分リーダー的立場に為るだろう。何だか彼の努力が認められ無い気が為て納得が行か無い。
けれど言う訳にも行か無いしなぁ。
「よぉ。俺はゴーグンデ・ロージアっちゃうんや。まぁソコのネコちゃんと同じでアヲ̇センㇳフ̇ェーキーやな。
武器は槍。歴は……んー、大体十三年程度って所やなぁ。宜しく。」
彼は尻尾をゆっくりと動かしながら其う言った。訛りが其れなりに有る。西方出身なのだろうか。
其の冷たい容姿に反し言葉は何処か温かみが有る。吃驚為た。
「はいはい、俺の番だな。俺はセルグニーク・フォードネイク! 武器は片手剣でキ̊ヲ̇センㇳフ̇ェーキーだ。
歴は五年! どうだ? 凄いだろう!」
おぉ、五年で其処迄上り詰めたのか。素直に凄い。
何故か自信満々に手を挙げて其う言う。流石の僕でも此処迄自信満々には言え無い。
自信が有るのは良い事だ。自分を卑下為る依りかはよっぽど。自分は未だ卑下為る事が有るからなぁ。
少し彼が羨ましく見えた。
ヷルトがぼそっと言った。
「……何だ此奴。」
如何為たのだろうか。
其の夜。
僕は天幕の周りで護衛を為て居た。一応馬車の走者と彼等が寝て居る天幕には防御魔法を為て有るのだが。
万が一敵に囲まれそうだとか、其う云う時には彼等を起こす予定だ。
……其の場合は、一回結界を魔法で無理にでも壊さないと行けないのだが。
「あ〜あ、ねみぃ……しゃーねぇんだけどよ、お前は平気なのかよ?」
「うん……まぁ。此の位ならね。」
フォードネイクが其う言って来た。僕と彼で此所等辺の夜間の護衛を為て居るのだ。
体は少しガタが来て居ると云うか、やや体が痛い気も為る。
けれど未だ未だ大丈夫だ。起きようと思えば起きる事が出来る。
「えぇ〜〜〜マジかよ……何で平気何だよ……」
彼は其う言うとふわあと口を開けて大きく欠伸を為た。
「ははは……。」
正直此の能力は前世の社畜時代に身に付けた物だから無理に会得為無いでも大丈夫だろう。
過程と見合って居ないスキルは身に付けるだけ無駄だ。
すると、天幕からヷルトが出て来た。
「おい、交代の時間だ……如何為る?」
「あ、僕未だ大丈夫だよ。彼眠そうだし寝かせてあげれば?」
僕は後ろを振り向き彼を親指で指して言った。
「……其うだな。」
「え。ホント? いや、すまんすまん……じゃ、お先に。」
彼はそそくさと天幕の中に入って行った。
僕の隣に彼が座る。目の前には焚き火が有ってぱちぱちと音が為る。
僕等の顔に仄かにオレンジ色が反射為て居る事だろう。いや如何だろうかな。僕は全身真っ黒だから色を吸収為て居るかもな。
魔物が吠える音が聞こえた。ワオーンと云う声で狼みたいだ。かなり遠くに居そうだな。此処に天幕を張ったのは正解だった。
「……あー、那奴寝たか?」
ヷルトが後ろを一瞥為た。
「多分。」
音も聞こえ無いしきっとぐっすりと寝て居る事だろう。
「正直言って、俺は那奴の事が嫌いだ。」
其う言って僕の隣に座る。
「え、何で……?」
見た所結構自信満々な男性にしか見えない。
「那奴は多分責任感が希薄だ。俺は其う云う奴がだいっきらい何だ。
此れは仕事で、生死が掛かってるんだ。其んな所で巫山戯た真似を為れたら堪ったもんじゃない。」
ゆっくりと僕を見遣ると首を振った。表情が真面目だ。本当に言って居るのが良く分かった。
普段其んな事を言わ無い彼がはっきりと『嫌い』何て言うのは少し驚いた。
「そうなのかなぁ。」
「……僕は如何?」
基本的に僕は余り此う云う事は言わ無いと思う。けれど深夜だったからか、其れとも焚き火のロマンティックな雰囲気所為か、つい口から漏れ出て了った。
少し経った後に薄々と其の事実に気付いた。
ヷルトが少し吃驚為た様に瞳孔を細めた。……変な事言って無いかな。
すると少しにやついた笑顔を浮かべて僕の背中を叩いた。バスンと云う音が為た。
「お前は結構有る方だと思うがな? 此の仕事で自分の身の丈に合って居る事を為るのは間違いじゃあ無い。寧ろ正解に近い。」
「俺が死ぬ前、実は報酬に目が眩んで何度も高い依頼を請けたんだ。
けど、結果は惨敗。結局違約金を払って自分の首を絞める事に為った。」
頬杖を突いて炎を見詰める。けれど表情からは全く後悔為て居無い様に思えた。ほんのりと笑って居る。
「……そっか。」
「結局那奴は此れに見合う力量が有るのか、って話だ。有れば俺も何も言わ無いがな。
認めるしかないだろう。けど、無かったら……。」
「……無かったら?」
「本気で追い出す。依頼主に何言われようとも本気で追い出す。」
其の眼は本気だった。紅い眼が炎に揺らされて揺らめいて居た。
其う言った後、溜め息を吐いて顔を両膝に埋めた。
「……此う云う所が前時代的何だよな。」
ぼそっと、其う言った。
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