第百十話:彼の帰る日
視点はリングさん視点に戻りましてリングさんが先日に見た夢から始まります。
其の夜、夢を見た。
見て居る時は夢だと分かり、自分の体が自分で動かせる明晰夢とか謂われる奴だ。
僕は横向きで寝る。しかも、壁に顔を向けて。ゆっくりと目を開けると何時ものログハウスみたいな木製の壁で無く、現代的な白い壁だった。
何だろうと思って掌を見てみるとしっかりと僕の手だった。獣みたいな、黒い毛皮と肉球が見えた。
けれど、目線が違った。かなり低い目線で物を見て居た。
其の中を何度も屡見ると、其処は昔、そう、父と母と僕とで住んで居た家だと云う事が分かった。
配置とかがそっくり其の儘再現為れて居るのだ。僕は嬉しさを感じた。
だって、父親に会えるのだもの。夢の中だとしても。僕の奥底に眠って居ただろう記憶を思い出せるのだから。
ルンルン気分で扉を開け、リビングへ向かった。
其処には、普通体系の男性が居た。多分、父親だろう。
顔は朧けて居て分から無かった。……何だよ。
僕は肩を落とした。
彼はお酒を呑んで居るみたいだった。多分休日だからだろう。
けれど、せめて話だけでもしようと彼に近付く。
「……おはよ。」
少し口角を上げて話し掛ける。
けれど、彼は此方を向いていきなり罵声を浴びせて来た。
「んあぁぁぁ!? うるせぇな! 黙れぇ!」
「へ?」
僕は腹の辺りを思いっ切り殴られる。
痛い。僕はお腹を押さえて其の場に蹲った。……あぁ、子供って此んなにも暴力に弱かったか。
「ソレなら酒の一つでも持って来いやああああ!!」
ドダドダと地団駄を踏み子供っぽく激昂為る。
此の呂律の回って無い感じ、相当酔って居るみたいだった。
すると遠くの方からバタバタと走って来る音が為る。
見上げると母親が居た。皺一つ無い、若々しい時の母だ。
「もう! 何遣ってんのみっともない! 朝からお酒呑んで!!」
彼女は正に怒髪衝天。彼の頬を勢い良く引っ叩いた。パチン、と良い音が鳴る。
「なんだぁってぇぇぇぁぁぁ!!!」
奴は立ち上がり母親の胸倉を掴む。そして、其の儘彼女を遠くへと投げ捨てた。
其の光景を僕は直視出来無かった。顔を埋めて居ると彼女の懇願為る様な悲鳴と床に叩き付けられる音が為た。
あぁ、成る程、離婚為た理由は此う云う事だったのか。
此んな父親、別れて正解だ。
同時に、ドゥレマがしっかりと、父親が父親と為て有るべく態度を為て居る事が分かった。
……本当に今世は恵まれて居るな。
* * *
ばっ、と起き上がった。横を見ると、ドゥレマが寝て居た。
僕は彼に声を掛けてみる。
「……ねぇ、もう朝だよ、お父さん。」
けれど彼は鼾を掻いて僕の声に反応為無い。
ゆっくりとベッドから出て彼を起こそうと試みる。
肩を揺らしてもう一度声を掛けてみる。
「朝だよ、帰るんじゃ無かったの?」
僕が耳元で言うとうわあと寝ぼけた声を出して起き上がった。眼を擦って欠伸を為るとぼけっと為た様子で口を開いた。
「え……もう其んな時間かい……?」
「其うだよ。」
僕はクローゼットから着替えを取って居る。
彼は自分の枕元に置いて居た洋服を取って着替えようと為て居た。
「お早う御座います。」
ヷルトは台所から顔を出した。サラダを台所で盛り付けて居るのだ。
僕は紅茶をポットから注いで居る。彼に一つカップを差し出す。
「あ、お早う。あれ、朝食も用意為てくれたのかい?」
彼が言ったのはきっと朝食が三人用用意されて居たからだろう。
「えぇ。」
「悪いねぇ……其処迄容易為て貰って。」
余所余所しい感じで椅子にお尻を付け彼を見て居る。
「いえいえ。」
彼はスープをお盆に乗っけて持って来た。
「こんにちはー! ……あ、誰か居る! リングのお父さん?」
扉がガチャっと開けられると水色の髪を靡かせて彼女が入って来た。
何処か顔には元気が無い。声にもハリが無い様な。
「あぁ、そうだがね。君は何て言う名前何だい?」
ドゥレマは右手に紅茶を持ちながらニコニコと為た笑顔で話し掛ける。
「マリルー!」
すると彼と反対側の椅子にちょこんと座った。朝食をじっと眺めて居る。
「そうかい、マリルかね。」
「もしかして朝食食って無いのか?」
ヷルトは其の様子を見て彼女を眼を見て言う。
「……うん、まぁ。」
恥ずかしそうに肩を竦めて小さく頷いた。
「分かった。ちょっと待ってろ。」
ヷルトは其う云うと台所へと行った。
彼等の関係は何だか良好に見える。何が有ったのだろう。
すると、ヷルトは台所に行った。そしてお盆に朝ご飯を乗せて彼女の目の前に置いた。
「わーい!!」
彼女は嬉しそうな目で其れを見詰める。
「はいはい、手を合わせろ合わせろ。」
彼女の食事シーン何て見た事無かったけれども、やっぱり祈る様なポーズを為るみたいだ。
「じゃ、」
「「「日々の糧に感謝して、そして生き物に感謝し、神様がくれた食物を頂きます。」」」
僕等は食べ始めようと為る。ふと横を見ると彼女は何か呪文みたいな事を言って居る。
「聖なる供物に感謝を、そして穢れた魔物の魂を開放出来る事に感謝を、神様は我らを見守って居られる。
間違いが有ったら罰し、正当な行為を為れば必ず巡って来る。故に、此れは正当な行為で有る。
植物は神からの恵みで有り魔物は穢れた存在で有る。其れを食べ無い事は悪で残さ無いで食べないと行けない。
今日も神への敬意と服従を忘れずに魂を開放します。」
まるで人格でも変わったかの様に長々と何かを言って居る。
「……え、如何為たの……?」
僕は余りにもおかしい様子の彼女に訊いてみる。
「え? 別に普通でしょ?」
「「…………。」」
僕等は顔を見合わせた。此れは相当重症みたいだ。此の子では無く、親御さんが。
此の国では此んな挨拶は為無い。と云うか、聞いた事すら無い。
普通此の様な食事や人に対しての挨拶は親から倣うと思うのだ。
此れは僕は転生を為たから分かる事だと思う。実際に僕もヷールから倣った。
……言って良い物なのだろうか。普通は此んな挨拶を為無いと。
「あ、あの……普通はね? 其う云う挨拶では無いんだよ……?」
もし彼女が此の村を出て他の集団で暮らす様に為った時、多分恥を掻くじゃ済まないと思うので僕は口に出してみた。
でも彼女は首を傾げて居る。頭に疑問符が浮かんで居る。如何云う事か分かって居無い様子だった。
……言っても駄目かな。僕は諦めてスープを飲む事に為た。
「……よし、帰るね、じゃあ。」
彼は帽子を被り鞄を片手に持ち、さっぱりと帰って行った。
僕の目には其の仕草が格好良く映った。
「又来てねー!」
精一杯声をあげて彼を送り出す。
もう一回来て欲しいな。実の父なのだし。
ヷルトは何も言って居無いが手を大きく振って居る。
彼の姿が小さく成った所で彼は小さく手を振った様に見えた。
何だか寂しさを感じる。けれど、別に二度と会え無い訳では無いんだ。
彼から住所の書かれた紙も貰った事だし今度は自分から会いに行ってみよう。
彼の姿が完全に見え無く成った時、僕は家にへと戻った。
「わーい! ねぇ、遊ぼうよ!!」
僕は椅子に座ると彼女は攀じ登って太股に座って来た。
「……うん、だね。」
ゆっくりと其の頭を撫でる。マタタビを嗅いだ猫みたいにふにゃふにゃ為て居る。
じゃあ、何を為ようか──
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