第百九話:マリルの悩み
今回はヷルト視点のお話に為ります。
彼等が出掛けてから数時間後、俺は本を読んで暇を潰して居た。
ホルベにでも行くかと思ったけれど何時帰って来るかも予測出来無いし。
すると、扉がドンドンと叩かれた。
本を読むのを止めて扉を開ける。……其処には例の水色の髪色のガキが居た。
マリルとか言ったっけ。はぁ。俺は頭を抱えた。
「こんにち……ってあれ? 居無いの?」
家を見回して言って其んな事を言って居る。
「あぁ、出掛けた。」
俺は奴を見ずに言った。
出た、此のガキ。正直はたはた迷惑為てる。
リングが良く為て遣ってるからこそ俺も受け容れるしかないのだけれども、若し其うじゃ無かったら追い出したい。
「……そーなんだー……。」
彼女は寂しそうに顔を下げてとぼとぼと家に入る。
……取り敢えず紅茶でも出して遣るか。
「……ほい。」
俺は茶杯に入れた紅茶を差し出した。
「ん、ありがと。」
其う言うと両手で其れを持ち、息をふーふーと吹き掛けてゆっくりと飲んだ。
啜って居る音が為る。……其んな汚い飲み方は良く無いぞ。けれど、人様の子だか注意為無いで置くか。
「……ねぇ、言ってもいーい?」
急に、茶杯の半分位迄飲んだ彼女が珈琲片手に本を読んで居る俺に話し掛けて来た。
俺は栞を挿んで本を置いた。
「何だ。お前が大好きだろうリングじゃ駄目なのか?」
彼女に訊いてみる。俺何か依り、那奴の方が言い易いだろうに。
「うん、だって、言ったらめんどーな事に成りそうだもん。
優しいのは良いんだけど……けど……。」
彼女は俯いて物憂げな表情で首を傾げて居る。
「でも、あれでしょ? ドヷルトさんなら多分冷静に聞いてくれそうかなー、って。」
顔を上げて来た。本当に澄んで居て綺麗で純粋な瞳だ。
「……はぁ、分かった。」
顔を下げて少し悩んだ後、嫌々ながらも受け容れて了った。
彼女は茶杯を持ってゆっくりと話し始めた。
「最近ね、何かお父さんの視線が冷たいの。」
「ほお。」
「冷たい……ってゆうか、何てゆーか……。」
旋毛の辺りを掻いて不満げな顔で壁を一瞥為る。
「最近、遊んでもくれなく成ったの。
時々強めに叱られるし……。」
「何だか、愛されてる気がしない……。」
肩から力が抜けて眉を大きくひん曲げて居る。はぁ、と溜め息を吐いて居た。
「ほぉ、叱られる?」
「うん……『お前は最低な奴だ』とか『さっさと死んでくれないかな』って。
よく分から無いけどたまに叩かれる……何か、悪い事でもしたのかな。」
眼からどんどんと光が失われて行って居る様に思える。
其れは叱られるとは言わ無いだろう。教育、と云う依り奴が自分の不満をぶち撒けて居る様に思える。
叩かれる、と言って居るものの、本当は殴られる、とか打擲、と言った方が正しいのではないだろうか。
「……直球に、抱いた感想を言っても良いか? 嫌な事も言うと思うが。」
「う、うん……。」
困惑為て居る様だけれどもゆっくりと大きく頷いた。
俺は間髪容れずに言った、
「クズだな。」
「……!? い、いや……お父さんの事悪く言わ無いで!!」
椅子をガダッと引き立ち上がって語気を強めて否定為る。あぁ其んなにか。其処迄なのか。
「勿論、客観的に、第三者的に見ての感想だぞ?」
興奮為て居る様子の彼女に俺は諫める様に言う。はぁ、俺は本当は此う云う奴じゃ無いのだけれどな。
一旦珈琲を飲んだ。
「う、うん……。」
するとゆっくりと椅子にへと座り直す。
「此れは俺の予想に過ぎないが……多分、獣人と関わるな、と教育為れて居たんじゃないか?」
何か心当たりが有るのか彼女は又俯いて了った。
正直、俺の考えは前時代的だ、と思う。まぁ、五十年程度外界と触れて来無かったから当然と言えば其うかも知れない。
けれど、其の俺ですら引く様な凝り固まった思想を奴は為て居るのだ。
「うん……ソレは……そう。獣人はクズの固まりだとか人でなしとか。」
彼女は頷く。だろうな。リングの那の時のげっそりと為た顔を見てれば分かるさ。
「まぁ、其の時点で俺は充分糞野郎だと考えるが……問題は其処じゃ無い。」
「問題は、お前が獣人と付き合う様に成ったから、って簡単に愛情を注ぐのを止める様な親だ。
……なーんにも悪い事為て無いのにな。不良だの、本当に悪魔だのと。
まるで、差別主義者みたいじゃないか。」
俺の腸は煮えくり返って居た。クソが。何時もの通りに表情を隠そうと為る。けれど耳が倒れて居る。尻尾がゆっくりと動いて居る。
獣人の体は不便だな。表情が隠せ無くて。
「うん…………。」
「もし不良とかだと思って居るなら全力で止めるとか相手の様子を探るとか為なければ為らない。
諦めて放棄為るのは親失格と言って良いだろう。」
「たかが獣人と付き合っただけで見捨てる様な親は離れた方が良い。
正直リングにでも拾われた方が良いかもな。」
俺は言うだけ言うと又珈琲を飲んだ。頭の思考がドロドロに煮詰まりそうだったからだ。
一旦飲んで自分の思考を戻す。
「……けど、其んな親ですらお前は愛して居るのだろう?」
本音は如何なのかと訊いてみる、すると何度も小刻みに頷いて
「う、うん……愛して……ってのが良く分から無いけど……好き、大好き。」
にっこりと綺麗な迄に笑った。
「……だよなぁ……さてさて……如何為たら良いのか。」
俺は腕を組んだ。一体、如何為るのか最善なのかと頭の中で考える。
ぐるぐると竜巻みたいに思考が回る。
「一番良く無いのが此の儘暴力沙汰や虐待等に繋がって行く事だ。
如何遣って回避為るか……本当は其の親から引き剥がす事なのだがなぁ。」
其の儘彼女を見た。彼女は何を言って居るか分から無いのかぼけっと為た表情を為る。
そして首に手を当てた。
「じゃあ、其うだな。時々家に来い。」
手を机の上に戻した。すると彼女は何故か笑う。
「……其れって、今迄と変わら無くない?」
「まぁな、けど、時々愚痴でも言ってくれ。
会いたく無い時は泊まっても良いからな。」
「後、暴力を振るわれたら周囲の人に言うんだ。良いな?
俺等は時々家を空に為るからな。」
此れだけは言わなければ為らない。もし何か受けた時には自分から言い出す事が重要だ。
何かに置いても。仮に此れで親子の関係が悪く成ろうとも彼女が其の儘酷い目に遭う依りかはマシだ。
「うん!」
元気一杯の声で深く頷く。
俺は此奴の此う云う所が嫌なのだがなぁ。
「……本音は奴から引き剥がして俺等で保護為る事だとは思うんだが……
生憎な、リングが魔導師、って事も有り如何為ても他の国や他の地域に行く事が多い。」
其れと親権問題だ。養子は何の様に為れば良いのだっけ。後で調べて置こうかな。
「……ねぇね。」
俺の腕を叩いて何かを言いたそうにうずうず為て来る。
「何だ。」
「魔導師、ってさ……成れるかな?」
彼女は何故か其んな事を言って了った。
「さぁ。お前の努力次第じゃないか?」
「ソコは成れるとか言ってよー、ねぇ!」
俺の腕をつんつんと小突いて来た。
「……俺は子供でもお世辞言わ無いんだよ。」
其う言って珈琲を飲んだ。彼女は子供らしく頬を赤らめ膨らまして居た。
はは、面白いな。此奴。
此の後、彼女は夜に為る前に帰って了いました。
だからリングさん達が帰って来た時には居無かったんですね。
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モチベに成りますので、宜しければ。
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