第十一話:魔獣ヹード※
ヹードって響き、なんかカッコいいですよね。
八月三十日、表記を統一させました。
十月二十九日、ミスを修正しました。
二月九日、話を修正しました。
「……グアア〜〜。」
僕は獣が唸っている様な声をあげて目覚めた。自分でも少し喫驚したのは内緒だ。
今日は何時にも増して目覚めが悪い。
昨日はお風呂を掃除して夕食を食べて寝たのだが、お風呂掃除が異様に面倒臭い事。
入るのは週一位にしようと決意した位に。
嫌々ながらも僕は寝巻きから着替え朝食を食べている。
寝覚めは悪いものの、長閑な時を過ごして居た其の時。
ダンダン、と誰かが歩いて来る。其の儘何かがギャンギャンと吠える音が聞こえ、更にゴトゴト、ドダドダと走っていく音が聞こえた。
……どうせ、又那の家族が何かやって居るのだろう……頭を掻き毟りながら扉を開けた。
「うぁっ……‼︎」
僕は口を押さえて呻く。……其処には、
ヹードが六肢を豚の丸焼きみたいに括り付けられ、上からギロチンの様な物で首を撥ねられそうに為っていた。刃はギロリと光を反射する。
辺りには赤い蝋燭が六つ、円形に配置されて居た。
那の親子が態々那奴を探し出して此んな事をしたって事だろうか。
流石に苛立ちを隠せない。
僕は取り敢えずは此奴を如何にかしないと行けないと思い、何とか首をずらし、ギロチンに触れない様にそうっと出そうとする。
「あぁ暴れないで‼︎」
奴は後ろ足を取った時点で其の場で暴れ出した。あぁ、其れじゃあ自身に傷が付いちゃうだろ。
すると、奴は暴れるのを止めた。「キューキュー」とか声を上げて僕を助ける様な目で見て来る。
今、助けて居るだろう。もう少し待って居てくれ。
と、此処で気付いた。昨日とは違い、奴に首輪は付いて居ない。
敢えて取ったのだろうか?
何とかして救出すると、其奴は僕の顔をペロッと舐めてきた。
「あはは、止めて止めて。」
人間の顔と違って口ん中に毛しか入らないぞ。
ヹードは二股の尻尾を振って喜んでいるようだ。
此の国には動物愛護法みたいなのは無かった筈だが、道徳的には飼い主に返さなければ為らない。
が、ギロチンにさせて僕に生贄を捧げようとした家族に返すなぞ又同じ事を繰り返すだけでないのだろうか。
詳しい事は分からないが、此処迄他人に懐いて居るんだ。
きっと、小さい頃から人に飼われて居たに違いない。其んな奴を野生に返す訳に行かない。
野生で生きる力が無いんだ。他の魔物に喰われてお終いだ。
「取り敢えず貰い手が見付かる迄、住む?」
奴はうんと言った様な気がした。気の所為だろう。
僕は其奴を家の中に招き入れる。奴が走り去った後、何かがひらひらと落ちて来た。
紙の様な物だ。手に取って内容を見る。
『我が家のヹードを捧げます。
体付きも良いですし魂も純粋です。
カインドロフ=ロード=バードダー様。
此れを生贄に捧げます、願いとして、息子の命を攫わないで下さい。』
「……はぁ。」
何だか全身の力が抜ける感覚を味わった。
そもそも悪魔じゃないと何度言ったら良いのだろうか。
鸚鵡もびっくりだ。僕は其れを持って家に戻った。
「あーあーあー。」
奴が其の六肢で棚の上に置いて在る小物を弄って居る。
気に成るのは分かるが、止めてくれ。
「こら。」
奴の足を取って地面に着けさせる。奴は何だか納得行かない様な顔をして此方を見る。
僕は口に指を当てた。駄目だ。
僕が移動すると、奴も一緒にテトテトと付いて来る。
椅子に座り、万年筆を取り、失敗した手紙を千切り其処に書いて行く。
奴は僕のして居る事を不思議そうに眺めて来る。
だからと云って机と脇の間に鼻を突っ込むんじゃない。
『渡されたヹードは一旦預かって居ます。
もしお返して欲しいのならお返しますが、其うで無かったら里親を探そうと思います。
殺したり魂を奪ったりはしません。
再三言いますが悪魔では有りません。非道な事はして居ません。
そもそもなんで僕を悪魔だと思うのですか?
悪魔だったら、もう疾っくの疾うに貴方達を殺して居るでしょう?
私の名前はカインドロフ・クリングルスです。只の獣人にしか過ぎません。』
良し、此れで良いだろう。
僕は家を一旦出て適当に玄関前の石を拾って、それを重石にして玄関先に置いた。
蝋燭やギロチンも持ち帰ろう。置いて在るだけ危険だ。返すと言われたら返してやろう。
其の儘家に戻ると、其奴が万年筆の液をくんくんと嗅いで居た。
「あーあーあーあー。」
「こら、駄目ったら駄目。」
僕は奴を机から引き剥がす。置いて居た自分が悪いに決まって居るが。
駄目なの? と言って来る様に僕の瞳を見詰めて来る。
「駄目なの。」
其の後は僕が研究資料を纏めている時に邪魔してきたり、隣に座ってキュンキュン鳴いていたりして居た。
お陰で全く以って集中出来無かった。……僕はペットを飼うのに向いて居ないな。
其んな此んなしていると夕方に成ってしまっていた。
僕は兎も角、此奴の夕飯、如何しよう。余り詳しい事は分かって無いが、確か此奴は基本沼地では無い森に住んで居るのだったな。
そして、マン゜ギアやヂョーテードの様な小動物を狩って生きて居る筈だ。
なら、取り敢えずは肉を上げて置けば良いだろう。
植物は……腹を下す可能性が有るから上げない。
ふと思ったのだが、僕等獣人は何故植物等を何喰わぬ顔で食べられるのだろうか。
明らかに肉しか食べない様なライオンや狼は如何やって。
「とりあえず、お肉、食べる?」
お肉、と云う単語に反応したのか、奴は興奮気味に尻尾を揺らす。
人の言葉を理解して居るのか否か。いや、違うだろう。
僕は干し肉を戻して、奴に上げてやった。
奴は其れをむしゃむしゃと頬張る。其れだけで満足したのか、奴はリビングでゴロンと寝っ転がった。ぐーぐーと大きな音を上げて寝て居る。腹を揺すっても起きやしない。
……まぁ、其れなら良いか。何だか僕も疲れた。寝てしまおう。
僕はゆっくりと階段を上がって行った。
* * *
次の日は比較的良い目覚めだった。
僕はリビングに行くものの、那のヹードが居ない。
すると突然、誰やも知れぬ犬頭がキッチンからひょっこりと顔を出して来た。
何処の何奴だ?
「あ。起きた? あ、ごめん、勝手にキッチンと食材借りてる。」
「……ええ?」
奴は綺麗な男性声で其んな事を言う。けれど、顔は野生的だ。
何が起こって居るのか分からない。
「まあ那の狂った家族から救ってくれた礼とでも思ってくれ。」
彼はその四本の腕を器用に使いながら料理を作って居る様だ。
「え、獣人だったの?」
喉元が大きく震えて居る。彼は其の声に首を傾げる。
そして、異様な迄に興奮もして居る。自覚はして居るが抑えられない。
「違う違う、俺らはこうやって変身する事が出来るんだ。」
らしい。ヹードと云う種族では其んな事を聞いた事が無い。
──大発見だ。偶然とは云え、此れは大発見に違いない。今迄謎に塗れて居たヹードの生態が分かったのだから。
「〈すんごい〉……。」
ふと、喉元から日本語が出てきてしまう程には感嘆して居た。
途んでも無く小声だったから聞こえて無い筈だろう。
いや、聞こえて居るか? 彼が台所から怪訝そうな顔で見て来るのだから。
「さ、ほら、座ってくれ。」
彼はキッチンから離れると、僕の肩を持って後ろから押し、無理矢理椅子に座らせた。
ルンルンとした様子で再びキッチンみたいに立つ。
良い匂いが鼻腔を通り抜ける。何を作って居るのだろう。
幾分か待って居ると、まるでレストランの従業員みたいに皿を運んで来て居た。
彼が出した料理はコ̊ゥ̻゛ヱ̇リ̈に大きな魔物の丸焼きを乗っけて居る物、スープ、サラダ、それとガ̊ㇻ̇ㇺ。
朝から中々にヘヸイだ。其れでも、獣人は食べ切ってしまうのがお約束。
「あぁ、こうやって料理作ったのは久々だから不味かったらすまんな。」
彼は棚を見て、「フォークとかって何処だ?」と訊いて来る。「引き出しの左のとこに有るよ」と言うと、彼は引き出しを開けてフォークとスプーンを其々二つ、持って来た。
左手にはお皿を持って居る。其等を置くと、彼は丸焼きをナイフで裂くと、フォークを使って食べ始めた。
ああと、僕も食べないと行けない。彼は食事前の挨拶をしないのだろうか。……魔物だものな。
僕は急いで祈る様なポーズを取る。
「日々の糧に感謝して……えー……そして生き物に感謝し、神様がくれた食物を頂きます。」
すると、ヹードが奇妙そうに僕を見詰めて来る。食事前の挨拶が珍しいのだろうか。
「……へー、獣人でも其う云う挨拶するのか。」
肉を口に運ぶのを止めて感心する様に言った。
「うーん、種族って云うか国に依って、だと思うよ。」
と言いつつ肉を切る。彼は肉を口に入れ咀嚼した後、又「へー」と言う。
僕はかなり色々な国に行って居る。調査三割、研究三割、残りは観光だ。
其の中にはしない国も少ないものの有ったと思う。
其れは其れとして。僕は目の前の肉を指して言う。
「……このお肉如何したの?」
「ん、あぁ、其処等辺の魔物を適当に狩って来た。」
彼は平然と言った。魔物だからだろうか、其う云う考えが出て来るのは。
僕は肉を切って口に運ぶ。存外ミディアムレアの様に柔らかい。
其れを引き立てさせる様に酸味の有るソースが掛かって居る。見た目は豪快だけど味は繊細だ。
「うんうん、美味しい‼︎」
小指を出した手を突き出す。すると、彼は仄かに口角を上げた様な気がした。
「おぉ、良かった。父から助けてくれた人にゃ何かおもてなししろ、って言われて料理だけはやってたんだ。」
俄かには信じ難い言葉をさらっと言った。料理だけはやって居た?
つまり、彼等は料理何かをするだけの文明、そして知能が有るのだろうか。
訊いてみよう。
「ええと、独学で?」
僕は彼の眼を見ながら肉をナイフで削ぎ落とす。
彼の目は煌々とした紅い眼をして居る。何処か親近する物を感じる。
「うんまぁ、そうだ。」
彼は淡々と言う。如何やら本当の様だ。……気に成る。気に成って仕方無い。
魔導師としての血が騒ぐ。
「ねえさ……ちょっと……。」
其う言いかけた時、扉がドンドンドンと叩く音がした。ああ、此の足音は……。
彼は扉の方に顔を向けて鼻をすんすんとして居る。鼻をひくひくさせてみると何処かで嗅いだ事の有る臭いがした。
彼を見た。彼は眉を顰めて僕を見て来る。……だよな。嫌だよな。
「ああ、行った方が、良いよね……行きたく無いけど。」
僕は頭をポリポリと掻いてのそのそと立ち上がる。
「……だな、今口に入ってるから此れ噛んだら俺も行く。」
らしい。案外其処は気にするのな。
僕は玄関に行く。唾を飲み込み、ドアノブを力強く掴み勢い良く扉を開けた。
すると、其処には例の母親が立って居た。今回は子供は連れて居ない様だ。
「我が家のヹードを返して下さい‼︎ ほんとに……殺してないんですよね⁉︎」
彼女は脚をぷるぷると震わせ何故か呼吸を荒らげて僕に言葉を突き付けて来る。
「ええ。」
僕は頷く。やはり此の家の飼い犬だったのか。
此の儘彼女に返してやればきっと何事も無く穩便に終わるだろう。
後ろに居る彼を見た。彼は目を丸くした。
「あのさー……。」
「ん? あぁ……はぁ……。」
気怠げに声を上げると、面倒臭そうな顔をして僕を眺めた。
そしてスプーンを叩き付ける様に置いてぐわっと野生的に立ち上がる。
彼女は僕の後ろに居る彼を見て目を見開く。
……何か嫌な予感がするぞ。
彼女は僕に目線を移し、睨む様な目付きで見て来た。
「まさか……貴方……‼︎ やっぱり悪魔じゃないの‼︎」
歯軋りをして其んな事を言う。ああ、其うか。普通はヹードが変身する事何て知る由も無い。
彼女に如何やって此の事を伝えれば良いのだろうか。……僕も今日初めて知った事だしな。
すると、僕の隣に隣に彼がやって来た。彼の顔を見る。
彼は彼女を蔑む様な見下す眼をして居た。苛立ちを隠せない声で言葉を放つ。
「そもそも俺はてめえらに飼われてた訳でも何でもねえ。其処等辺ほっつき歩いていたら訳も分かんねえンで捕縛されたんだろが。」
「お前、馬鹿じゃねえの? 臭いとかで分かんねえのかよ。後これは只俺達に此う云う能力が有るだけだ。」
「悪魔とか生贄とか馬鹿みてえな事言ってないでとっととお前らの崇める神様とでも信仰してりゃ良いんじゃねえの?」
こめかみ辺りを指で指すと「ケッ」と言って鼻を上げる。
其れを聞いた彼女は下を向いてボツボツと呟いている。
「……そう、そうなのね……。悪魔に変な記憶を植え付けられてそして──。」
何を言って居るのだろうか。魔法には其んな能力何て無いぞ。流石に記憶を改竄なぞ出来無い。
「絶対に赦さないから‼︎」
と云う捨て台詞を吐いて腹が立った様に帰って行った。
……流石に子供っぽい主張では無いだろうか。怒るのは分かる。
もう其の儘住処に返って二度と関わらないで欲しいが。
何時の間にかヹードは居なく為って居た。僕は扉をゆっくりと閉めて家に戻った。
「おぉ、飯が冷めちゃうぜ。」
彼は椅子に座って居た。食事をしつつ其んな陽気な事を言って居る。
「あ、うん……。」
僕は浅く頷くとフォークを持ち直し食べ始める。
けれど何となく気不味い雰囲気に成る。重たい口を開いて彼に質問してみる。
「やっぱり飼われて無かったの?」
「……うん、まぁな……良く分かんねえんだけど、なーんか捕まって、悪魔の生贄とか何とか言われて……それで那あ為ってさ。でホントに悪魔かと思ったけどそーじゃ無かったし……。」
スープを掬って口に運びつつ、彼は草臥れた表情でぽつぽつと話して居る。
ああ、自分の所為だ。きっと自分の所為だ。やはり此方に引っ越して来た自分が悪かろう。
其う思うと、彼に謝罪せずには居られない。
「ごめん。」
「……え?」
「なんか僕がこっちに引っ越してきたらさ──」
僕は大雑把に話の粗筋を話す。彼は首を傾げながら僕の話を聞いて居た。
……多分、僕の私情も多分に含んで居たとは思う。
「……でもそれおめえ殆ど悪くなくね?」
「そうだとしても結果的に此う為ってしまってるから……。」
眉を八の字にしながらスプーンで僕を指すけれど、僕は心は揺るがない。
「そんな気に病む事もねえのに。」
彼は「ふーん」と声を上げながら肉を頬張った。
其うなのかなあ。産まれ持った物だからしょうがない?
産まれ持った物だったとしても周りに迷惑を掛けて居る。だから良くないと思うのだ。
「まぁ……そうかね……。」
と口には出したものの納得はして居ない。
……此んな事を考えて居てもしょうがないかな。話を変えよう。
「話は変わるけどさ……。」
* * *
「んえ? 俺の其の能力が見てえってか?」
「そうそう。」
僕等は食べ終わり、そして食器洗いをした後、リビングで彼と話し合って居た。
魔物と友好的でおまけに話し合える機会なんて然う然う無い。
隕石が自分に落ちる確率依り低いのではないか。だったら、其のチャンスを逃す訳には行かない。
「先ずは、其うねえ……何に変身出来るの?」
「まあ……其うだな。」
彼はヅィー族の様な恰好に成った。勿論裸だ。
髪は茶色くて眼は紅く腕は四本だ。
「おぉ……。」
感嘆した声が僕の喉から突き出る。僕は早速ノートに纏めていく。万年筆を使って居て癖の強い筆記体、其れに加え乱雑な字では有るが。
「後は?」
「うーん、ま、此れかな?」
彼はヸ̇オディㇲㇲ゛の様な姿に成った。足は四つ、背中からは黒い触手の様な物も生えて居り、完璧に模倣出来て居る様だ。
其の後何個か変身する様子を見せて貰ったけれども、生物なら大体何れにでも変身できる様だ。
然し、眼の色は変えられないみたいだ。成る程、其れだけが障碍なのか。
「うんうん、ありがと。じゃあ、後一つだけ。如何やって変身してるの?」
僕は万年筆をくるくると回しながら彼に尋ねる。彼は如何してとでも言う様に首を傾げる。
「……何でだ?」
首を戻すと、獣人状態の彼が赤い眼を見開く。……此う見るとかなり怖いと思った。悪魔と云われるのも納得だ。
「僕も出来るかなーと思ってやったのだけれど、出来なくてね。此れじゃあ短縮詠唱も作れないしさ……。」
くるくると回すのを止め、頬杖を突いてぼやく。
きっと変身魔法は無属性だろうと意気込んでやったは良いものの、結局する事は出来なかった。
他の無属性の魔法は作れた。だから、彼の話を聞けば其の理屈が分かるのかも知れないと思ったのだ。
「……短縮詠唱ってなんだ?」
胡座を掻いて居る彼は首を又傾げた。
「んーとね。」
僕は如何説明しようかと脳内で話を繋ぎ合わせる。
其うか。詠唱と云う物は人間が生み出した物か。ならば知らないのも無理は無い。
「まぁ、簡単に言うと呪文で発動する形式だよ。短縮詠唱は完全詠唱の長ったるい呪文を短くしたもの。元々は長くてね。其の代わりやや威力は弱いのだけどね。」
「人間が何か叫んでいるのって其れか?」
彼は頬杖を突いて居る。「多分ソレ」と言うと彼は納得した様でああと言う。
魔物から見ると人間が訳の分からないモノを叫んで居る様に見えるのか。成る程。
万年筆を持ち直しノートに追記する。
「んで、変身魔法を使う時、って何んな感じなの?」
僕は体を前のめりにして尋ねる。彼は「んへえ〜?」と炭酸が抜けた様な声を上げるとぼそぼそと言葉を露呈させる。困惑して居る様だ。
「ええ……? 何か此う……成りたいモノを良い感じに……。」
彼は踠き足掻く様に言葉を捻り出す。時折うんうんと唸って居る。
「もうちょっと詳しく!」
僕は両手を合わせて彼に頼み込む。此れでは参考に成らない。出来ればもうちょっと情報を引き出したい。
「うーん、しっかりと想像して、こう、手足から魔力を流すんだ。それで……。」
顔がひん曲がって居る。呻吟して居る様に見える。其処迄言った瞬間、机に両手を突き当てて彼が立ち上がった。
「あぁもう面倒臭い! 其処迄やりたいならほら感覚で教えてやるから‼︎」
僕の腕をがっしりと掴む。腕に爪が当たって居る。痛いが、其れは今は如何でも良い。
「えちょ……。」
けれど、其の言葉は彼には届かず、彼は僕を外に無理矢理引き摺り出して行った。
一体何が始まるのだろうか。
ヷヸヹヺは今や一般的な表記では有りませんが、ヴァヴィヴ……って書くよりか楽なのでそうしてます。
一文字に纏められるし、
そもそも捨て仮名が多いですからね此の小説……。
そんなんで捨て仮名ばっかり見せられたら堪ったもんじゃ無いです。
実は濁点、半濁点以外のダイアクリティカルマークの使用を決めたのも其れで、
昔はGha[ɣa]をガㇵとか書いてました。
Ghya[ɣʲa]に成るとガㇵャに成るんですよ。
エカルパル語の形態上絶対にこう云う表記が増えるので、
するとまぁ見辛いは見辛い。
そもそも、英語ですらGhyaなんて表記、
見た事無いですしね……。




