第百話:集落では
記念すべき百話ですが特に此れと言って内容は変わりません。
「駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ!!!!」
其う言うと親父と言われた其の人物は六脚の姿へと変化為る。
彼の後ろに大きな炎が浮かび上がる。音はもうぱちぱち、何て物では無かった。
バツバツバツ、と、銃でも発破したかの様な大きな音を発して居た。
流石のヷルトも其の異様な雰囲気を感じ取ったのか、僕の左手を握って来て居る。
ヷルトからもパチパチ音が察こえる。
……不味い。
経験則からでしか無いが、此れは明らかに強大な魔力を持って居る魔物の証だ。
殺される、と本能が告げて居る。
転移魔法は……描いて有ったっけか。
今回は描いて無かった様な気が為る。と云うか、絶対其うだ。
何で此う云う時に限って……自分自身の馬鹿さが厭に成る。
彼はすっと僕の手を握って居た。彼からも大きな炎が見える。
……あれ? 彼の方が其の炎が大きいような。音が鳴って居無いのが不思議だ。
「ガウグルルルル…………ウアァァァァァァ!!」
彼は牙を見せ顔に皺を寄せ此方を睨み付ける。
……完全に威嚇為て居る顔だ。多分、此処から去ら無いと殺す、とでも主張為て居るのだろう。
「でも!! でも別にコイツ等俺等の巣を荒そうだ何て考えて無ぇからよ!
な!! 良いだろ!!」
「グルルルルルアァァァァァァァァ!!!!」
彼は必死に取り鎮めようと為るものの目の前のヹードは応じようと為無い。
「俺の事助けてくれたし! な!」
其の言葉を聞くと奴の耳がピクリと動く。
そして、体をぐにゃぐにゃと変形させて二足歩行を為る。
「……ホントか。」
僕の方をじろっ、と見て来た。
「あぁ、はい……。」
僕はゆっくりと頷いた。
多分那の事だろう。多分、ファルダが豚みたいに括り付けられて玄関へと居た事。
助けた、と言って良いのかいまいち分から無いが。
まるで僕を確かめるみたいに瞳を見て来る。
「あとあと! 那処に居たギュルベッガも倒してくれたし!
前々からアイツが那の湖占領為てたじゃないか!」
「本当か?」
次はヷルトの方を見た。何だか目の色が変わって居る様な気が為る。
疑いの目から本当に信じて来て居る様な気が為る。
「あぁ。」
彼ははぁ、と溜め息を吐いた。そして頭をぽりぽりと掻いた。
何だか其の仕草には人間臭さを感じた。
「分かった……許可する。」
悩んだ末にゆっくりと口を開いた。渋々了承為たのは見て居て分かる。
やった。彼等の生態はかなり気に成る所が多いから巣に潜り込める何て最高だ。
「けどな、もし少しでも何か変な行動を起こそうもんならぶっ殺すからな。
磔に為て平野にでも投げ捨ててやる。」
彼はギラギラと光る牙を見せ付けて言って来た。牽制の為だろう。
「……後なぁ……うーん……。」
「如何為た?」
* * *
僕等は草むらの後ろへと隠れて居る。
草の隙間から覗くと目の前には那の父親が見えた。
「……えー、皆ー! 集合!!」
彼は手を叩いた。木の幹の上に座って居るみたいだ。
其の隣にはファルダが背面が見えた。隣に座って居るのだろう。
「何だ、如何した親分。」
彼等は草の間からぞろぞろと出て来る。
全部でファルダと其の親を含め二十一匹みたいだ。皆二足歩行の形態で来て居る様だ。
あれ、けれど子供が居無いな?
「……何だか変な臭い為無い? 誰なの?」
誰かが其う言った瞬間、ヹード達にざわめきに似た波紋が広がる。
さっきの発言から、そして此の様子から、多分同種族の受け入れも為て無いのだろう。
まぁ……野性動物だし、そりゃそうだな。寧ろ此方の方が変か。
でも知識欲と探求欲には勝て無い。僕の性だ。
其れに為ても、此奴等かなり綺麗なエカルパル語を話すな。
ヹードと云うのは其う云うモノなのか、其れ共此処の種族が特異なのか如何なのか。
普通此の場面は緊張為る物なのだろうけれども、僕は緊張依り変に興味が沸いて来て居る。
「取り敢えずちょっと待て!」
彼は声を荒らげて彼等を牽制為た。
鶴の一声だったのか彼等はしゅんと成った。鳥の鳴く声が聞こえた。
「今回は此の息子を助けてくれた……と云う事で二人を連れて来た。
……まぁ、お礼みたいなもんだ。」
すると、さっき依り大きいざわめきが奔る。
何でだろうと耳を傾けてみると、理由が分かった。
「嘘だろ!? 此の巣には誰も入れ無かったんじゃないのかよ!」
「私達を危険に晒すつもりなの!?」
「今迄頑固だった大将が何で……??」
如何やら其れを主に遣って居たのは此奴本人みたいだ。
其れが急に受け入れる何て言い出したら驚愕ものだよな……。
「いや、巣を危険に晒すつもりは無い……今後も成るべく入れ無い様に為る……。
が、けどな、今回だけは違う。今回は……特別、情報交換や文化交流も兼ねて、だから……。
どうか、納得為てくれ。」
彼が其の事をゆっくりと訴え掛ける様に言った。
すると彼等のざわめきが収まって行く。
次第に嫌々ながらも了解為て居るみたいだ。
「取り敢えず、えー、紹介為る。
おい、出て来てくれ。」
僕等の方へと視線が向けられる。
僕はヷルトを小突いてゆっくりと立ち上がり広場にへと出て行った。
「どうも、こんにちは、今日一日だけ貴方がたの巣を見学為せて頂くカインドロフ・クリングルスです。お願いします。」
彼等の目線がキツい。僕等を監視為る様にじろじろと見て来る。紅い其の目も相まって機械みたいに恐ろしい。
「……ん、あー……ヷルドント・ドヷルト、だ。……えー、リングの付き添いで来た。こいつとはまぁ……そこそこの付き合いでな。」
ヷルトはやや言葉に躓いて居る様子だった。
案外彼って此う云う自己紹介何かは苦手なのだろうか。
彼等は何も言わずじっと睨む様に見て来るだけだ。けれど、其の中の一人が口を開いた。
「……オマエラも目ぇ紅いんだな。」
ぽつ、と囁く様に言ったのだろうけれども、其の一滴の粒は波打つ様に広がる。
「あぁ、確かに。」
「ほんとだー、真っ紅だー。」
「魔物みたいだね。」
何故だか分から無いが彼等は急に僕等を興味津々で見始める。
誰かが一人すっと立ち上がり僕の方へゆっくりと歩いて来る。宛らゾンビの様だ。
そして僕の目の前に立つと震える両手で僕の顔をがしっと掴んだ。
え、何? なんなの? 何が起こるの?
僕の心は不安で一杯だった。魔力の炎は視え無いけれども、此の儘首を噛み付かれて死ぬ可能性だって有るのだ。
其の真紅の眼で僕をぎろぎろと凝視為る。
すると僕の首を横に為たり前に為たりしながら見入ったのか確かめて居る様に見える。
僕の方は満足為たのか何なのか、続いてヷルトの方も同じ様な事を為て居る。
……一体彼は何を為たいのだろうか。
一通り見た彼だけれども、満足為たみたいに元の位置へと戻って行った。
何かひそひそ話を為て居るのが聞こえた。
幾ら欹てようと僅かにしか聞こえ無いが、大将が何とかとか猫野郎が如何とか言って居るのが聞こえた。
「……分かった、大将。」
其の中の一人が口を開いた。
「後、コイツラ連れてって良いか?」
「あぁ……あぁ。」
奴が、「ああ、何だ其んな事か」とでも思って居るのか二つ返事で其う返した。
瞬間、僕等の腕がぎゅっと掴まれた。爪が肉に引っ掛かって痛い。随分乱暴な握り方だ。
「あのー……。」
と、僕が話し掛けた其の時、彼等は其の儘引き摺る様に無理矢理連れられて行く。
……やっぱり駄目だったか!
彼等の巣へ行きたい何て言った事を少し許り後悔為た。けど、此処で死ぬのなら本望かなと思う自分も居る。
一体、僕等は如何成って了うのだろうか。




