第九十六話:再び村を周る
タイトルのまんまです。何やかんや言ってリングさんは村の事を良く知りませんからね。
ファルダは昨日の内に帰って了った。ラ̇ークㇻ̈を遣ったら、汚ならしい程にバクバクと食べ満足為たのか森に帰って行った。
僕は机で筆を走らせて居た。トントントン、と扉が叩かれる音が為るとヷルトに目線を移し、其の音の正体を確かめるみたいにゆっくり扉を開けた。
「……お早う、準備は出来たか?」
其処には、先週窶れながら納税の作業を為て居た彼等が居た。
彼等とは言ったものの、先週居た人全員は居無い。三人だけだ。其んな沢山居ても回り辛いだろうし。
「はい、大丈夫です。」
「ヷルトー!! 行こー!!!」
僕は彼の方を振り向いて其う言った。
さて、今日は改めて村の内部を紹介為て貰う予定だ。
先週彼等が僕に何か為たい、と言って来たのでお言葉に甘えさせて貰った形だ。
彼等は「此んなんで良いのか?」とかふざけた事を言って居たが、僕にとってはかなり価値の有る行為だ。
ヷルトの村の脳内地図は更新為れて無いだろうし、僕自身も知ら無い。
増してや、此の村の全体地図なぞ何処にも見付から無かったのだ。
だから、改めて村を回る必要が有った。何処に何が有るのか、何れが何の施設なのか……。
此の村はかなりだだっ広いだろうから一度此処で確認為ておく必要が有ったのだ。
さて、其んな感じで彼等と村を回って居るのだが……もう、畑、畑、畑、畑!!
畑しか無い。僕の家の反対方向の道にも畑、隣にも畑、小広場を抜けても畑!!
娯楽施設何かは全く無いと言って差し支え無い。
今は休耕中だから全く麦穂が無かった。
おまけに話す事すら無い。
「……んで…………此処が森へ抜ける道だ。さっきとは違う。」
彼……彼と呼ぶのもそろそろしつこいので名前で呼ぼう。
カルテマラ・アルメルト、村の仲間からはアルさん、と呼ばれて居るらしい。
アルさんは入り口みたいにぼろぼろでも無い、蔦も絡み付いて無い門を指して居る。
其れを見て、ヷルトが耳打ちを為て来た。
「此んな門、俺が生きてた頃には無かったな。」
「其うなの?」
彼は首の後ろを触って訝しげに其れを見て居る。
実はもう二つ森へと抜ける道が有るのだが、其等とは違い比較的新しい様に見える。
ヷルトが亡く成った後に新設為れたのだろうか。
「……行く?」
後ろからハガルさんが話し掛けて来る。
びくっと心臓が跳ね上がった。此の話を聞かれたら困る。
僕は何事も無かったかの様に其の細身の男を見る為に振り返った。
黄色い眼を此方に向け、脚を屈めて居た。
僕と目線を合わせる為だろう。
「いえ……此処結構魔物じゃうじゃうじゃしてるので……碌に装備も整えて無い今だと何が起こるか分から無いので今回は大丈夫です。」
僕がきっぱりと断ると、彼は自分の金髪の髪の後ろ等辺を触った。
「……んまぁ、其うだね。」
其れからリング御一行は又テクテクと歩いて行き、井戸の前へと着いた。
「あれ、此んな所にも井戸って在ったんですね。」
家の近くに在る井戸に比べて、かなりボロ付いて居る。
流石に余りにも遠いし、此方の井戸を使う事は無いだろう。
そして又歩いて行く。
今度は教会に着いた。あのお祭り騒ぎを為た所だ。
如何やら教会は此処にしかない様だ。かなり閉鎖的な村だ、と思った。
昨日此処で馬鹿騒ぎして居た事を伝えると顔を合わせて「はぁ」と溜め息を吐いた。
……其れを遣る事も伝えられて無かったんだな、ご愁傷様。
よし、大体は分かった。出入り口は一つしか無く、森へと続く道は三つも有る。
かなり畑が連なって居り、井戸は二つ。教会は一つだけ。
ヷルトの証言から鑑みるに、多分此の村はランヷーズ稼業と畑で成り立って居た村なのだろう。
彼の没後、何故かランヷーズ稼業は衰退為て行き、農作業を行う村に成った。
……と云う所だろうか。
其れが分かったから満足だ。彼等とは噴水広場で分かれた。
ヷルトと他愛の無い会話を為ながら帰って行くと玄関先に少女が一人座って居た。
……あれ? 那の子……もしかして。
僕は其の水色髪の子へ小走りに近寄って行った。
「マリルちゃん!?」
彼女は其処の階段に座って顔を埋めて居た。
僕は彼女の肩を擦ると、彼女は顔を上げてぼけっと為た様な顔を為る。
如何やら寝て了って居たみたいだ。すぴー、すぴー、と文字通りの寝息が聞こえる。
「……あ。猫ちゃん。」
彼女は其う言うと僕に抱き付いた。僕は彼女の腰を持って抱き上げた。
きゃっきゃと言って喜んで居る。
……取り敢えず此んな所に居られても寒くてしょうがないだろう。家に入れてやらねば。
僕は彼女をゆっくりと地面に降ろすと、扉を開けて中に入れてやった。
あぁ、其れと暖炉も焚かないとな。後ろを見ると、ヷルトが面倒臭そうな顔を為て居た。
ごめんな、我慢為てくれ。
久々に会ったもんだから彼女は本当に喜んで居た。口角を目一杯上げて顔を綻ばせて居る。
そして、色々と質問を為て来る。
「学会って如何だったの??」
「人がわんさか居たよ、賑やかだったし……店も一杯立ち並んで居たよ。」
「なにしたの?? なにしたの??」
「論文発表。……なーんて言えば良いかなぁ、研究を持ち寄って発表為るんだよ。」
「研究!? 研究!?」
「ははは……魔法のね。変身魔法の研究を為て、其れでやっと学会員に成ったんだよ。」
「ふーん……。」
「如何為たの?」
「難しくてよくわかんないや。」
……そりゃそうか。
「ね!! ねぇ!! 来年も有るの!?」
「うーん、有るね。」
「私もつれてって〜〜!!」
「親御さんの許可が取れたらね?」
「むぅ……。」
彼女は顔を膨らませて居る。
「……ほい、珈琲、淹れたぞ。」
ヷルトが机にカタン、とお盆を置いた。
其処にはコップが三つ有った。一つは紅茶の様だった。
「ありがと。」
僕は其処から一つコップを取って匂いを嗅いでみた。
今回淹れてくれたのはややフルーティーな香りがした。
一口飲んでみると口内には苦味と酸味が広がる。美味しい。
「……これ違う、コーヒーじゃ無い。」
彼女は自分のコップを眺めて其う言って居た。
「お子ちゃまは飲んじゃ駄目だ。苦いぞ?」
ヷルトはコップを片手で持って、何だか格好良く飲んで居る。
「やだ!」
「……其処迄言うなら飲んでみるか?」
ヷルトは自分のコップを差し出した。彼女は頷くと意気揚々と其れを持って口を付けた。
「うげっ。」
顔を梅干しみたいに顰めて拒絶為て居る。……そりゃ其うだろう。
其の光景を見て少し笑って了った。微笑ましい。
「……だろ?」
「うん。」
彼女はコップを返すと苦味を消したいのか紅茶をぐびぐびと飲んで居た。
……おいおい、其んなに飲むと尿意が襲って来るぞ。
此の世界、トイレが家の中に併設為れて無いのだから。
僕は珈琲をもう一回飲んだ。……何だか、心が落ち着いて来る。
僕達は日常へと戻って行った。
ちょっとキリが悪い気も為ますが、二章は此処で終わります。
次からは獣人国へと行きます
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