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第九十二話:告白※

※文が抜けて居たので直しました。

「……ってな、感じだ。今は、彼女の家に居候する形で暮らしてるよ。」

 彼は其う言って紅茶をゆっくりと飲んだ。


 僕は俯いて居た。壮絶な話だった。

 もう、心臓がバクバクして止まら無かった。

 そして、罪悪感がどっしりと襲って来る。変な寒気がする。


「其の人の名前は、何て言うんですか?」

 ヷルトが紅茶のカップをそっと置いた。


「カインドロフ・エル・リュミネ。だ。

 此処いらで魔道具店を営んで居るんだ。」


「……右手……其の、右手……。」

 僕は其の儘の体勢で今にも消えそうなか細い声で言った。

 まるでそう、燃料の少なく成った蝋燭みたいに。


「ん? あぁ……見るか?」

 ……見せてくれるのか? 僕はゆっくりと顔を上げた。

 一体何んな顔をして居るのか自分でも分から無い。


「ほれ。」

 彼が手袋を脱いだ。

 中からは、金属の、ピカピカとした右手が出て来た。

 妙にメタリックな其れに僕は不気味さと興味が沸いて来た。

 ……何だ、此れ。


「……結局俺の右手は治癒魔法じゃ如何にも成らない位に酷い状態に為ってたってさ。

 此れは魔導義手。一応感覚は通って居るんだよ?」

 はははと言ってまるで何も気にして居無いかの様に其う言う。

 いや、其んな、笑い話で済まして良い話なのか……?

 けれど、本人が気にして無いのなら僕から兎や角突っ込む事は出来無い。

 野暮とか云う奴だ。


「……触って……良いですか……?」

「……あぁ。」

 僕は恐々と、其の差し伸べられた右手に触れた、

 暖かくは……無い、勿論だけれども。


 掌へと僕の掌を乗せると、やさしくぎゅっ、と握って来た。

 何だか、不思議な感覚だった。


 機械の歯車とか、電子音とか、其う云った機械音もせずに動いて居るのだ。

 生物みたいに。腕其の物が生きてるかの様に。

 有るのは精々、彼は何かに物をぶつけた時に発生する衝撃音位だろうか。


 生憎、僕は其方の分野には学が無い。例え前世の自分で有ったとしてもだ。

 一体何んな原理で動いて居るのだろうと気に成った。

 今の僕には此の義手を作った人が凄いと云う事位しか。


 僕は手を離した。もっと罪悪感が沸いて来た。

 思わず下を向いて了った。


「……お前は、一族の誇りだよ。」

 唐突に、感慨深く、其んな事を言って来た。

 ……一族の……誇り……?


 僕は酷く落胆した。

 本当の地獄とは此れ何だろうと、深く実感した。

 八万奈落でも最も業の深い、無間地獄にでも堕ちて行った様な気がした。


 あぁ、もう此うなら、いっそ自殺したまんまにしておくれよ。

 此方に来て初めて其んな事を思った。


 ……いや、駄目だな。僕は首を横に振った。


 向き合わないと。彼と、向き合わないと。

 言わないと、いや、言わなければ成らないんだ──!


「……ん? リング……? クリングルス……?」

 僕を心配して居るのか、彼が其う言って来た。

 自分の惨めさと狡猾さに腹が立った。

 拳をぎゅっと握った。


「違う!!!!

 僕はクリングルスなんて云う人物じゃ有りません!!!!」

 僕は立ち上がって机に手を突き立てた。

 きっと、他の人にも聞こえて居るとは思うけれども、其んな事気にもして無かった。

 がちゃんと、コップや皿の擦れる音がする。零れては無い様だった。

 ドゥレマは驚いて居たが、ヷルトは何も言わず僕の方をじっと見て居るだけだった。


「外見上は其う見えるかも知れませんが

 中身は違う!!! 僕は流川皓です!!!」


「異世界から転生してしまったんです!!!」


「しかも、事故死でも他殺でも無いんです!!! 

 自殺です!!! 身勝手な自殺です!!!

 世界で一番、やっては行けない事ですよ!!!!」


「其んな奴が、一族の誇りに成っては行けません!!!

 魂だって獣人でも無いんです!!」


「結局は、獣人にも人間にも成り切れない半端な野郎です!!!」


「僕は倫理的に狂った事をして、

 そして、そして自分に嘘を吐いて体を乗っ取ったんです!!!!」


「どうせ幻覚だ、とか、きっと自分は選ばれたんだ、何て、心の底で思いながら!!!!」


「ずっと逃げて逃げて逃げて逃げてばっかりで!!!!!

 魔法を極めたのだって、きっと其んな理由です!!!!!!」

 此処迄言って、僕は少し落ち着いて来た。

 何だか、もう悔しくて、そして自身が憎たらしくて堪ら無かった。

 忌み子? 大正解だろう。


「しかも……貴方達の人生を滅茶苦茶にしてしまった……!!!」


「もし、もし僕が那の時自殺しなかったら!!!

 貴方達はきっと今でも平穏に暮らして居て!!!!

 お母さんが処刑される事も無かった!!!!」


「其んな奴が……一族の誇り、だなんて……

 僕には背負う資格が無いんです……。」

 僕はしゅんと成って椅子に深く座り込んだ。

 ああ、別に、嫌われても良い。此れは絶対に言わなければ成ら無い。

 血の繋がって居る父に何て嘘を吐いては駄目だ。


 ……あぁ、其うだ。もし次に会う時。ヷールにも言わないと駄目だな。

 此の儘じゃ完全に騙し続けて居る事に成って了う。


 彼は一体何んな反応をするだろうか?

 実の所、父親と云う者を知ら無い。

 前世は母子家庭だったし、今世は養子だし当然と言えば其うなのだが。

 だから予想が全く立てられ無い。


「……いや、何う……した? 嘘に、決まってるよな?」

 彼は絶句、と言った表情で此方を見て来る。

 ああやっぱり、と思った。其うだよな。子供が自殺した奴の産まれ変わり何て信じたくは無いよな。


「いえ、本当です……。」

 僕は彼の顔を見て言った。すると、彼は顔を下げた。しょぼりと、背中を丸めて下を向いて居る。

 暫し沈黙が流れる。……一体、如何成るのだろう。

 彼は溜め息を吐くと、何かを決意したみたいに顔を上げた。


「……其の話、詳しく話してくれないか?」

「え?」

 びっくりした。何と、彼は僕を蔑むどころか歩み寄って来たのだ。

 一気に、考えて居る事が分から無く成った。


 何故? 如何した? 父親と云う者は此う云う者なのか?

 頭の中が大混乱を引き起こして居ると、彼は催促をした。


「ほら、話して話して。大丈夫、怒ら無いから。」

 彼は余りにも冷静に、そして

 本当だろうか? 心の準備が出来て居無い。


「……え、えぇっと……。」

 僕は言葉に詰まりながらも口を開いた。


「あの、えっと、こっちに転生する前──」

 最初は言葉を選んで話して居たが、次第に、まるで湧き出す原水の様に、言葉が溢れ出て来た。

 何故だろう、十字架が取り払われて行く様な気がする。


 もうありありと其の時の事を話した。

 言葉を紡ぐ必要も無かった。




「はぁ……其うか……。」

 僕の話を聞いて嘆息を漏らす。

 何と、彼は話をツッコミを一切いれずにうんうんと頷いて聞いてくれたのだ。

 有り得無い。


「中々、だったな。其れは。」

 と言って紅茶を飲む。


「はい……。」


「お父さんも、余り……其の、自殺に付いては良くは思って無い。」

 あれ、其うなのか。此んな話を聞いてくれるからてっきり其うだと許り。


「けれど……でも其れだったらなぁ、する気持ちも分からんでも無い。」


「自殺したからとてお前を責める様な奴は又お門違いだろう。」

 彼は真面目な顔をして其んな事を言って来た。如何やら本当に其う思って居るみたいだった。

 ……其うなのかなぁ。結局は、自死したのだし、自ら命を絶ったのだし。

 怒られても、屑だと言われてもしょうがないと思う。

 だから、迷惑だけは掛け無い様に首を吊って死んだのだ。


 すると、ヷルトが耳打ちをして来た。


「……お前のおやっさん、大事にしろよ。」


「うん。」

 言われ無くとも其うするつもりだ。


「……そろそろ、敬語止めたら如何だい?」

 唐突に、彼が其う言って来た。


「うーん、けれど、僕と貴方は……正確には子供じゃ無いし……。」

 魂が違うから赤の他人で或るのだ。僕の心境としては。

 一つ屋根の下で暮らして居た訳でも無いし、敬語を使うのはかなり抵抗が有る。

 特に、此の国で敬語をやたらめったらに使うのは慇懃無礼(いんぎんぶれい)に当たるだろうから余り良く無いとは分かって居るのだが。


「何を戸惑って居るのか、俺には理解出来無いが……。」

 其の言葉に少し胸がちくっとした。


「自殺したにせよ何にせよ、そもそも、俺はお前の産まれた時から半年位しか知らないんだ。

 だから……俺にとってのお前は……今日、此の日に出会ったお前だ。」

 彼は優しい笑顔で、けれど何処か安心する様な口調で其う言って来た。

 父親の愛と云う物を初めて知った。

 此う云う物だったのか。父親と云う者は……。


 僕はヷルトの方を見た。

 此れも……言った方が良いだろうな。


「あの……ヷルト、言っちゃって大丈夫?」

 彼はうんと頷いた。如何やら平気そうだ。

 僕は彼の紹介がてら経緯に付いて話す事にした。


「実は……此の狐のヷルトも、転生してるんです。

 此の世界で産まれて、そして……自殺しちゃった。」


「……何処か自分と似て居て……何か、

 凄い不憫に感じて……殆ど社会から押し付けられた事なのに何で、何で何も救済されないんだ、って……。」


「此の儘成仏させるのも、そりゃあ無いし……だって、余りにも非道すぎるじゃあないですか!」


「幸い、此の世界には魔法が有ります。

 ……正直、法律すれすれだったし、

 助かる見込みも、無かったですけど。」


「今は僕と一つ屋根の下で暮らしてます。」

 僕は少し辿々しく彼の紹介がてら秘密を明かした。


「ふふふ。」


「……何ですか??」

 何故か彼がにっこりと笑顔を作って居る。


「よーしよしよしよしよし!!!」

 急に彼が立ち上がって僕の顔を此れでもかと撫でくり回して来た。

 顎の下を触られた時、少し気持ち良いと思って了ったのが憎い。


「よくやった! やった事は誇って良いからな!」

 何故、彼が其う言って居るのかが分から無い。

 彼はかなり嬉しそうだ。……其処迄凄い事なのだろうか?


 其う言って彼は壁に掛かってる時計を見詰めた。

 紅茶を一気に飲み干すと慌てた様にコートを着た。


「おっと! ちょっと話し過ぎた!

 此れじゃあ、アイツに怒られる! じゃあまたね!」

 立ち上がってそそくさと支度を始める彼に、僕は途轍も無く不安に成った。

 ……此の儘、お別れなのか?


「じゃあ、此れ、払っといてな。」

 其う言って小銭を置いた彼は歩き始めて了う。


「あ、あの!!」

 僕は彼を引き止める様に立ち上がり、ポケットからメモ帳を取り出した。

 そして其れを一枚引き千切り、やや乱暴な字で筆を走らせて行った。


「こ、此れ! 住所です! 次、あの、暇が有る時に、来て下さ……。」

 僕は住所の書かれた紙を彼に差し出した。

 彼は此方に近付いて来ると、笑顔で此う言った。


「来て下さい、じゃ無くて……ね?」


「あ、えっと、来て! お願い!!」

 半ば無理矢理にタメ口で言わされて了った。

 彼は其れをゆっくり取るとコートのポケットにへと丁寧に折り畳んで入れ、此方に手を振って居る。

 そして振り向いた。


「じゃあね。」

 ヷルトが手を振って居る。

 

「さ、さようなら!」


 座り込み、窓から外を見ると星々が煌々と煌めいて居た。

やっと此処迄来ました。リングさんが父親に自身の事を打ち明けるシーンです。

リングさんがやっと報われると言いますか、浮かばれるシーンだと思います。


泣きながら書いたのは秘密にして下さい。


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モチベに成りますので、宜しければ。

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