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第九十話:ドゥレマの過去①※

※十一月二日、台詞周辺を修正しました。

 那れは確か……其うだな、お前が産まれて間も無い頃……十八年前位だな。

 俺はジュデバ帝国……通称、獣人国。其処で育ち、そして育った。


 きっと、普通に社会に出て普通に結婚したんだ。勿論、同じ種族の獣人とね。


 ──他種族の獣人とは結婚しようとし無かったんですか?


 其れは……まぁ色々と有るんだよ、他種族との子供は出来難いし、余り、社会的にも良くは思われて無いから。

 初恋の子は確か……鹿の子だったっけか。結局、引っ越しちゃって疎遠に成っちゃったし。


 で……まぁ、俺は其の人と結婚したんだ。元、妻。

 名前はナムダ・ルーロと言う。


 ──ルーロさん何ですね。


 いやいや、エカルパル国とは名前の順序は逆だから、ナムダ、が名前。

 俺は今エカルパル国に住んで居るから姓と名が逆に成ってんだよ。

 其れに合わせて名乗って居る……って感じ。


 えぇと、何処迄話したっけ……。


 俺と彼女は籍を入れて、そして結婚した。

 確か其の時彼女は十四歳で、俺は十八歳だった。


 ──は、早過ぎじゃないですか……??


 今依り医学も発達して無かったからね、まぁ、当時じゃ当然かな。

 何にせよ、早めに結婚するのは間違いじゃ無いと思うがね。


 お前も、良いお嫁さんを見付けるんだぞ?


 ──はい……頑張ります……。


 其処から子供が出来る迄長かった。

 俺が二十四、妻が十八歳に成る頃だ。


 獣人は双子は当たり前、時には四人五人産む事は知って居るだろう?

 だから、産まれた時はびっくりしたな。


 一人しか産まれて来無かったのだもの。


 他の子は流産でも無かったし。

 けれど、問題が有った。


 ──やっぱり、紅目何ですか?


 ……だな、其れ……だな。

 あ、いやいや!! 待ってくれ!!

 だからと言ってお前を捨てた訳じゃあ無いんだ!!


 ──……だったら、何故?


 其れは……もうちょっと深く話す必要が有る。

 聞けるか? 中々に途んでも無い話だから。


 ──……はい……聞きます……成り行きを此の儘聞かずに死にたくは無いので……。


 ……分かった、じゃあ……話すよ?


* * *


「なぁ。」

「えぇ。」

 俺等は半年前程前に産まれた其の子を見て居る。

 クリングルス、と名付けたのだが、此の子は俺等と同じカラカル種の獣人の筈なのに体毛が黒く。そして眼が紫っぽく変色して居るのだ。

 特に黒い事は問題じゃ無い。問題は眼の方だ。


 此れは紅目、と謂われる現象だ……。

 詳しい事は分かって居無いものの、何もし無いで放って置くと体内から魔力爆発を起こし、大災害を起こす、と言われて居る。

 端的に言って了えば悪魔の子だ。忌み子だ。


 けれど、其んな子でも俺等の子だ。

 世間的には忌み子だの悪魔の子だのと言われて居るものの俺等にとっては其うでは無い。


 ……けれど。此の儘放置して了ったら、親子共々殺されるかも知れない。

 何故なら、此の村には酷い紅目差別が有るからだ。


 獣人国なのにヅィー族に対し特に差別的感情を持って居る訳でも無い。

 他の種族に対しても持って無い。なのに、何故か紅目だけは。だ。


 祝福もされ、出産を祝う儀式もされ、なのに、紅目と分かったら……。 

 途んでも無い。考えるだけで震えて了いそうだ。


 俺等は殺されても良い。けれど、此の子だけは守らないと行けない。


 其んな此んなで作戦を練る事数日、と或る情報を手に入れた。


 偶に此の村には商人が来る。

 情報を手に入れたのは銀狼の男性だった。


 何故、彼が知って居るのかは知ら無かったが、今頼れる部外者は彼位しか居無い物で、其れと無く言ってみた所、


「あー、其れなら、国境を越えて、今何処の国にも属して無いと或る森に何か捨て子を保護して居る、と云う者が居るらしいっす。」

 と言われた。其んな噂、初めて聞いた。

 けれど、


「でも……此れ……本当なのかしらね?」

「……さぁな。」

 俺たちは信じる事が出来無かった。

 其んな時、と或る事件が起こった。


 ……近所で仲良くして貰って居たチョー一家が磔にされて居た。

 如何やら、紅目の子供を産んで了ったみたいだ。狼の一家だったっけ。


 子供も、大人も、そして幼児さえも、まるで使い古された絨毯みたいにズタボロにされて居た。

 其々白と灰色と黒に血がべったりと付いて居た彼等が俺の脳裏に焼き付いた。

 鉄みたいな嫌な匂いが俺の鼻を突き抜ける。


 もう、此れは……流石に──逃げ無いと、駄目だ。

 狼の一家ですら、此れだ。力の弱い俺等は一瞬で殺されるに違い無いだろう。


 俺とナムダの意見は其の日の内に固まった。

 直ぐ様、夕方の内に荷物の準備を始めた。


 案外あっさりと準備は終わった。元々持って居た荷物も少ないからだろう。

 洋服と、道具と、ありったけの食材を袋に詰め、そして其の日の内に村を出発した。


 村には村壁が在る。そして、門番も居る。

 けれど、俺等なら其んなのも関係無い。


 俺が壁を攀じ登って其の上に立ち、背伸びしてぷるぷるして居る彼女から毛布に包まれたリングを受け取ってそして脱出する。

 彼女も続いて来たみたいだ。


 其処からも、案外あっさりとして居た。

 計画が上手く行き過ぎて恐ろしい位には。


 魔物に襲われたり何なりとしたものの、其れ以外は、特に何も無かった。

 そして、例の洞窟へと着いた。洞窟……と言うにはおかしく、崖みたいな所に家が埋まって居るみたいだった。

 岩壁に煙突が刺さって居るのも不思議に見えた。


 大分、不可思議な所だった。

 俺等は其の扉をゆっくりと、眠って居る魔物を起こすみたいにトントン、と叩いた。

 今は、妻がリングを抱っこして居る。


 ガチャ、と音を立てて扉が開かれた。

 何んな人かと少しドキドキとして居た。ヅィー族か、獣人なのか、其れ共──


「んん……ンナァ? ドャレ̈ㇰ? ラ̈ーラ̈イ ガ̏ㇰ ケ̏ーミュㇲカ゚ㇰ゛。」

 骸骨が出て来た。驚いた。魔物かと思った。

 彼の眼孔には青い炎が浮かんで居た。


「が、骸骨!?」

 妻の顔を見ると驚愕して居る。


「……あぁ、ンナアァ、フ̇ィヤイ ケーㇳ゛……。」

 其奴は子供の顔を見るなり目の辺りに手をやって上を向いた。

 彼が何の言語を話して居るか分から無いが、納得して居る事は分かった。


「取り敢えず、あー、入れ、一回。」

 と言って流暢なジュデバ語で手招きをして来た。

 取り敢えずは、悪い人……? では無さそうなので、家へと入って行った。




「……はぁ、成る程なぁ。」

 俺等は彼に事の経緯を話した。

 其の恐ろしい見た目とは裏腹に彼は表情をころころと変えて、良い意味で人間臭い人だった。

 何故か、此の事をすらすらと話せる位には不思議な魅力を持って居る骸骨だ。


「じゃあ、其の子は俺が引き取るよ。

 ……渡して貰って大丈夫か?」

 妻はリングの顔を見るとゆっくり、渋々と行った感じで彼に引き渡した。

 俺も最後に彼の姿を眺めようと、其の頬っぺたをそっと、触った。

 とても柔らかかった。もう此れが最後の別れに成るかと思うと悔しかった。


「紅目って……やっぱり色々と面倒だな。」

 リングを抱き目線を彼に合わせて居る。

 あやすのが得意なのか全くリングは泣いて居無かった。


「はい……。」


「まぁ、色んな所で差別されてるからなー……紅目、って。」

 彼は無い髪をぼりぼりと掻いて溜め息を吐く。


「何で、其んなに……。」

 妻が悲しそうに其う言った。


「分から無い、けれど、紅目は魔力が多い体質だ。

 特に、子供の頃は適応出来て無いのか否か、体内で文字通り爆発して災害を起こす。

 謂わば、言い方は悪いが体内に爆弾の持った子供だ。そりゃあ、差別されるのも無理は無い……だからと言って、差別するのは又別の話なんだが。」

 彼はやれやれとする様に呆れた様な表情をした。


「え、魔力が多いんですか!?」

 驚いた。まさか、魔力が多い何て知ら無かった。只の外見的な特徴でしか無いのかと。

 ……だから、なのか。


「まぁ其うだな、普通の人の二倍は有るんじゃないか、と謂われて居るな。」


「だからこそ、危ないんだけどな……。」

 彼は下を向いて少し声色を暗くして言った。


「けれど、其れを制御出来れば……此の子は立派な子に為る。

 魔導師として、其れも一流の、な。」

 彼は前を向いて言った。声を明るく成って、俺等に希望を打ち付けるみたいに言った。


「ほ、本当ですか!?」

 俺は立ち上がって了った。

 本当に? 此の子が、立派な魔導師に成れるかも知れないなんて。

 もし其う成ってくれたら、親としては嬉しい。


「あぁ、しっかりと育ててやる。ちゃんとした子に、育ててやる。

 だから、大丈夫だ。安心してくれ。」

 俺は拳を握って言った。俺は其の姿に心を打たれて了った。

 見ず知らずの人だったけれども信用出来そうだ。


「……其れ依りも、先ずはアンタ達の境遇を考え無いとな。」


「あ、いやいや……其処迄……。」

 俺は断ろうとした。すると、彼の眼がキリッとして真剣そうな顔で言って来た。


「いいや駄目だ! お前等はしっかり生きて無いで、如何此の子と折り合い付けんだ。」

 やや声を荒らげて俺等を窘める様に言って来る。

 其の眼窩の中でメラメラと燃える炎で見られると迫力が有る。


「ほんと、獣人ってのは……。」

 彼はぼそっ、と言ったつもりなのだろうけれども、俺にはしっかりと聴こえて居た。


「……まぁ良いか、此処等辺迄来れば、後はエコーポー(エカルパル)国に近い、其処迄行きな。

 此処から結構近い。二週間も有ればきっと行けるだろうな。」

 エコーポー、か聞いた事の無い国だ。

 俺等が村か一切出た事が無いからかも知れない。

 まともな教育何て、貴族とか上流階級の奴等しか受けれない。


「多分、話しても分かってくれ無いだろうから……此れ。」

 彼はリングを抱えた儘ペンを走らせて居る。

 そして、其れを渡して来た。


「何です? 此れ……。」

 見ると、何やら見掛け無い文字で何かが書かれて居た。


「まぁ、秘密のチケットとでも思ってくれりゃあ良いよ。」

 彼は手をひらひらとさせてふざける様に其う言った。

 其う言われるとちょっと不安に成って来る。


「取り敢えずは、如何する? 一回、此処にでも泊まるか?」


「……いえ、此の儘其のエカルパル国を目指します。」

 彼女は立ち上がって其う言った。

 瞳の上には。覚悟を決めた様に皺が寄せて居る。


「よし、分かった。んじゃあ、気を付けてな。

 此所等辺結構強い魔物出るから。」

 彼女の其の姿を見てか、彼はうんうんと頷いて其う言った。


「はい……!!」

 俺等は此処を後にする事にした。

今回、実は書いて居て原稿用紙十八枚分とか云う途んでも無く長いお話に為って了ったので、分割しました。

残り半分は明日投稿します。



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