第八十七話:絵空事は考えずに
其れから七日経った。民族舞踊を見て居たのだが、急に彼女に呼び出された。
「如何やら解析した結果ね?」
彼女が例の印籠みたいなのを右手に持って見せて来る。
「はい。」
「……此れ、偽物らしいの。」
溜息を吐き、自分の角を弄りながら残念そうな顔をして言った。
「へ!?」
嘘だろ。
「理由はよく理解出来無かったけど……けど其うらしいわ。」
「簡易検査の時点で、もう明らかに違う、って。」
「だから、あんたに返すわ。
貰った物何でしょ? 那奴に返す訳にも行かないし。」
彼女が其れをぽいと投げて渡して来た。
僕はあわあわとしながら其れを両手でキャッチする。
「はい……。」
……何だ、只のレプリカだったのか。
其の事実に落胆したけれども、何処か安堵して居る自分が居た。
其れなら、まぁ、持って居ても良いのかな?
実際、キラキラと光る反射と掘り込まれた造詣は見て居て綺麗だと思うし。
僕は其れをポケットへ了った。
* * *
「おーい兄貴ー! 何してたんだー!?」
僕はさっきの場所へと戻って行ったのだが、ガルジェが周りにも聞こえる様な大声で僕に話し掛けて来る。
色々と恥ずかしいから止めて欲しい。
「……これ。」
右手に持った其れを彼等に見える様に見せ付ける。
「其れ何だ?」
「王の紋章……。」
「「え。」」
彼等が顔を見合わせて驚く。
特にガルジェ何かは面白い位に慌てて居る。
少し周りから視線がする気がするが、僕は少し笑いながら言った。
「の模造品」
「なんだ……。」
彼が大きく溜め息を吐いて肩をがっくりと落とした。
耳の辺りを触って居る。
「何処で貰ったんだ? 其れ。」
ヴァルトが何時もみたく冷静に訊いて来る。
「うーん、五日前程、知り合いから。
本物かと思ってあの……受付の人に頼んだんだけど、検査したら違うって。」
「本当に?」
疑り深く眉を下げて訊いて来る。
「らしい。」
「触って良い?」
ガルが右手を差し出して僕の眼を見て来る。
触りたくてうずうずして居るみたいだ。
「うん? うん。」
何と無く、彼に触らせるのは気が引けると云うか余り嫌なのだが、直ぐ壊すから。けれどまぁ、模造品だから良いかと思って彼に手渡した。
「はえ〜〜……此う見ると、模造品っぽく見え無いな。」
彼は其れを見上げる様にして見て居る。
「だね。」
「確か此の紋章ってヸ̇ネㇻ̇チオェ朝のかな?」
彼が其う呟いて居るが僕には分から無い、分から無いと云うか忘れて了った。
頭の片隅には残って居るのだが何だっけ。
「俺には本物にしか見え無いけどな。
ほいよ。」
と言って投げ渡して来た。
僕は又あわあわとして其れを両手で受け取る。
「ちょ……。」
「あ! あっちから良い匂いがするぜー!」
僕の不満の言葉を遮って彼は何処かへ走り出して了った。
あぁ、もう、このっ。
「待って! ねぇ!!」
僕も追い掛ける様に走り出した。
かなり、呆れて居た。もう其れはやれやれとか言いたく成る位には。
けれど何処か面白く感じて居たのも事実だった。
其んな此んなで遊び尽くして帰って来た。
疲れからか、其れとも明日の論文発表のプレッシャーの所為か上手く寝付く事が出来無かった。
隣を見ると、ヷルトは寝息を立ててぐっすりと眠って居た。
右胸を触ると変に鼓動がドキドキとして居る。
あぁ、そうか、僕の心臓って右に有るんだ。
何故か其の事を強く思った。
体も変わったし心も……那の時に比べれば変わりつつ有るのに、心臓の位置だけは変わら無い。
其の事実に深く安堵した。鼓動がどんどんと収まって行く。
けれど、だからと言って眠れ無い。
落ち着いては来たものの目を瞑ったとて白い光がぼんやりと視えるだけだ。
僕は音を立て無い様にゆっくりと立ち上がると掛けて居たコートを取って扉を開けた。
周りの目を盗んで外へ出て来た。外の空気はとても冷たい。
心臓の底迄冷え切って了いそうだ。髭にひんやりとした空気が伝わる。
少し歩くと路地裏みたいな所へ入って行った。
壁の凹凸とか壁を利用して上へ上へと上がって行く。
するすると、其れはもう本当に獣みたいに。
僕は何処かの屋根の上へとやって来た。
上を見上げて空を眺める。繁星がキラキラと、ピカピカと、自分自身を見せ付ける様に光って居る。
中には、月みたいな星が有った。名前はボルㇻ̇バ。
今は半月依り欠けて居る様で何処か煮え切ら無い。
もう一つ、やたら光って居る星が有った。
確か……ホルベルアって言ったっけ。
ホルベの名前は此処から取って居る。
最近、一人の時間が無かったから少し独りに成りたい。
幾ら家族同然とは言っても……失礼だとは思うが、少々疲れる。
色々有ったし。ぼうっと空でも眺めて居たい。
「はぁ。」
溜め息を吐いた。息が白く凍る。手を擦り合わせて温めようとする。
もう一回空を見上げた。
やっぱり、星はきらきらと光って居た。
ぼうっと眺めて居ると流れ星が流れて来た。
僕は指を合わせて目を閉じる。
明日……どうか上手く行きます様に。何もハプニングが起きません様に。
謎の不安が消えます様に。そして、自分がプレッシャーなぞに負けません様に。
目を開けると流れ星は何処かに行って了った。
地平線の彼方へと消えたのだろう。
……戻ろうか。そろそろ。
僕は靴を脱いだ。収納魔法に入れて息を呑んだ。
そして其処から飛び降りた。耳孔に冷たい空気が入って来る。
手と足を地面に付けてしっかりと着地をすると手を払った。
そして靴を履いて小走りで宿屋へと戻って行った。
部屋に戻るとやっぱりヷルトはぐーぐーと寝て居るみたいだった。
良かった、寝て居たのか。起きてたら如何しようかと。
「リング。」
名前を呼ばれた。びっくりした。
くるっと彼の方を見ると、目を瞑って居るみたいだった。
けれど余り話し掛けたく無いな。寝言に話し掛ける、って良い噂は聞か無いから。
「逃げたい時は……逃げろよ。」
僕は其れを聞いて口角を上げた。
本当は笑いたかったのだが、起こして了うのが嫌で止めた。
コートを脱いでクローゼットに了ってそそくさと布団へと潜り込んだ。
目を閉じると光が見えて僕は何時の間にか眠って居た。
此れは後悔に過ぎないのですが、もう論文発表の御話にズカズカと行っちゃった方が良いかなと思いました。
けど前回が那れで今回は其れだったら疲れるちゃうんじゃ無いかと思ったのですが……とは言え、此れだったらなぁ……うーん。考え所です。
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モチベに成りますので、宜しければ。




