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Logistics(兵站) 大事でないとは誰も言わないが…

 兵站(ロジスティックス)とは何と何を含み、何を含まないのか。「研究」をするうえでは、言葉の定義は重要です。曖昧な言葉で表現するというのは、自分が何を言っているのか、自分でもわかっていないということだからです。しかし実際の組織では、「兵站担当部門」が何をして、何をしないかが諸事情で決まっていますし、その諸事情には全然軍事的ではない事情も含まれるのです。


 例えば第2次大戦期のドイツ軍では、陸軍参謀本部の補給総監は物資を買い入れ(一部は生産し)、本国の倉庫に保管し、軍か軍集団に向けて物資を送り出すのが役目でしたが、同時に比較的後方で鉄道輸送を補完するトラック部隊を管理していました。輸送総監は鉄道輸送と内国水運(ライン川の河川交通など)を統制し、鉄道工兵総監を兼ねました。だから補給総監が中身を詰めて本国から送り出した貨車が、輸送総監が列車を割り当てられずに途中の駅にたまる……などということもあったのです。バルト海の水運統制権は、海軍が頑として陸軍に渡しませんでした。


 道路や橋を直すには、陸軍、労働奉仕団(RAD)、トート機関に属する組織が入り混じって作業し、パルチザンからの護衛をつけないと作業にならない東部戦線では、現地の軍司令部が全体を指導しました。


 補給システムを含む後方の安全は、うんと後方では「警察」としての親衛隊が中心となり、少し後方には軍司令部か軍集団司令部の下に後方司令部(Korueck)と呼ばれる小さな司令部部隊が配属され、これが保安師団などを指揮して後方の治安を守りました。


 ソヴィエトの場合、1941年の鉄道人民委員(鉄道大臣)はカガノヴィチという政治家で、この人が例の工場疎開を仕切ることになりました。トラックを(一部、馬やトナカイを使用)使った輸送部隊、道路を補修する部隊はフルレフ補給総監が指揮していて、参謀本部と緊密に協議はするものの独立を認められていました。じつは大戦の途中、鉄道大臣がフルレフの兼任になった時期がありました。皆さんもご存知のようにソヴィエトの工場疎開は非常に効果的であったわけで、実績に不足があったわけではなく、スターリンは鉄道部門がカガノヴィチの王国のようになっているのが気に入らなかったのです。しかしカガノヴィチほど鉄道の細部が分かっている指導者はそうそうおらず、1年ほどで鉄道大臣はカガノヴィチに戻されてしまいました。戦争の最中ですが、軍事とあまり関係のないところで仕事の分担が大きく変わっていたわけですね。


 そして物資の割り当ては、スターリンが握って放しませんでした。総司令部予備になっている部隊のリストと位置も含め、何がどれだけ配分可能か参謀本部が毎日スターリンにリストを出し、方面軍司令官や、その上に立つジューコフなどの総司令部代表からの陳情を聞きながら、それらを割り当てて行ったのです。まあ予備部隊の割り当てについては、ヒトラーも似たようなことをしていたのですが。


 アメリカ陸軍は1942年2月にArmy Service Forceを設置しました。このサービスは非常に訳しにくい言葉です。むかし「貿易外収支」と呼んでいた国際収支上の項目を「サービス収支」と呼ぶようになっているのですが、このサービスは「形はないが金銭的価値のある活動」のことなのです。Army Service Forceの活動も、物資を調達し、保管し、戦場へ送るほかに、様々なものを含みました。徴兵事務と兵科間の振り分け、新兵訓練などなど。管轄範囲が広いのは、最上位にいる参謀総長や陸軍司令官が多くの部下を相手にせずに済むように……という組織管理上の考慮からでした。しかしそれでも、陸軍航空隊の空輸司令部だけはASFの指揮下に置くことができませんでした。また、レンドリースに回す弾薬とアメリカ・イギリス軍が使う弾薬の割り当てを政治家中心で決めようという動きには米英の軍人たちが反対し、米英合同参謀本部の下に調整会議が設けられて決着しました。


 こうした国ごとの事情に従って、「補給総監」「輸送総監」といった役職や組織の職務範囲も違ってきます。言い換えれば、言葉の意味も違ってくるのです。だから概念の話から現実の話に降りてくるとき、落差に注意しなければなりません。

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