Feuer! 我らカスカベの守りなり
射撃シーンを正しく書くには、その武器を撃つのがトリガーなのかボタンなのかレバーなのか紐なのかを知っていなければなりません。ボタンだとしたら電源があるわけで、第二次大戦のころだと戦車に載ってない砲はレバーか紐が多いのです。
同じような問題は射撃命令の言葉にもあります。1932年に出版されたドイツ兵士向けの手引書が手元にあるのですが、小銃兵への射撃命令は(Abteilungsfeuer)SchützenfeuerかEinzelfeuerのどちらかだと書いてあります。Schützenfeuerというのは部隊が指示された目標へ一斉射撃をすることです。小銃の銃身にライフリング(らせん状の溝)が刻まれるまでは、狙ったところに弾が集まらないので、こういう方法で弾幕を張って当てていたわけです。Abteilungsfeuerという別名が書いてあるのは、それこそその昔、大隊単位で数百丁の一斉射撃をやっていたころの名残でしょう。Einzelfeuerはだいたいの方向や目標を示して各自で射撃させることで、「代わりにfeuer freiでもよい」と書いてあります。まさに「撃ち方はじめ」ですね。
機関銃になると、DauerfeuerとPunktfeuerというふたつの表現が出てきます。意味がはっきり書いてある部分が見つからないのですが、DauerfeuerのほうはYoutubeを検索すると、MP40短機関銃でDauerfeuerをやってみた動画かあって、ドラム缶が穴だらけになっています。引き金を引き続けることを言うのです。
じつはPunktfeuerは私も長いこと誤解していた表現で、英語で言えばpoint fireですから点射ということになりますが、これは文字通り1ヶ所をずっと狙って打ち続けることを言います。
実際には、このころの機関銃でDauerfeuer「ではない」撃ち方をするとしたら、引き金をちょっと引いて離し、ちょっと引いて離す繰り返しをするしかありません。こういうのは現代ではバースト射撃といいます。自動で「引き金をひいたら3発弾が出る」モードに設定できる銃もあって「3点バースト(機構)」と呼ばれます。これをやらないと、あっという間に弾もなくなるし、銃身が傷んでしまうのです。ドイツ語でもBurstfeuerです。
では「1ヶ所をずっと狙って打ち続け」ない撃ち方とはどんなものでしょう。まず Tiefenfeuerがあります。これはわざと銃身を上下させて、縦1列に並んでいる目標に後ろの方まで弾を届かせます。MG34/42の重機関銃用三脚架には、これを自動でやるスイッチがついています。英語ではSearching Fireといいます。左右に振って薙ぎ払うのはドイツ語ではBreitenfeuer、英語ではTraverse Fireといいます。
じつは砲兵でも(準備射撃などで同一照準で10発撃つような命令もあるわけですが)Feuer!と言っている場面は見つからず、Feuer Freiばかり目につきます。Feuerは短くて多義的だから、命令語として避けているのかなとも思いますが、今のところ確証はありません。