regiment(連隊) 神よ、連隊長を守り給え
イギリス国歌の一節に「Long to reign over us」と国王の長寿を祈る部分があります。Govern(統治する)とgovernment(政府)が関連語であるように、regimentはreign(統治する)やregion([統治された]地域)と関連する言葉で、もともとは「兵士を統制する組織」というニュアンスで使われたのでしょう。
フランスのブルボン王朝期に、「ブルボン連隊」という連隊がありました。その連隊のcolonelは、多くが伯爵か子爵でした。何人かは履歴がフランス語版のWikipediaに載っていますが、軍人として戦場に出て中隊長まで出世したところで、「自分の連隊を持った」と書いてある人がいます。大貴族の長男が自分の指揮すべき連隊を買い、lieutenant-colonel(中佐の起源)を雇って大隊を派出したり、自分が大隊を指揮して戦場で働いたりしたのです。後者の場合は旅団長や元帥に出世したところで、連隊を別の貴族に売り払っているケースが多いようです。
https://fr.wikipedia.org/wiki/R%C3%A9giment_de_Bourbon
https://fr.wikipedia.org/wiki/Guy-Claude-Roland_de_Laval-Montmorency
国によって細部は異なりますが、regiment(連隊)というのはもともと兵営であり、それに付属する訓練・管理組織であって、国王との契約に基づいて貴族や有力者のcolonel(大佐)が所有・経営し、そこからbattalion/bataillon(大隊)が国王に差し出されるのが17世紀以降のよくある姿でした。それが近代国家になり、徴兵制を敷くにせよイギリスのようにそれを避けるにせよ、募兵と訓練のシステムに国家が関与を強めていく中で、colonelは貴族の地位から職業軍人の階級へと変わっていきました。
それに先立つ時期に傭兵団がcompanyと呼ばれたり、その長がcaptainと呼ばれたりすることがありました。これは中隊及び大尉の語源と考えられますが、特に戦争が終わって解雇された傭兵の集団などに決まった規模があるわけがなく、中隊-大隊-連隊または旅団という近代的な歩兵組織があとからできて、そこに昔使われていた名称があてはめられたと考えたほうが現実的なように思います。海軍大佐がcaptainなのは「主力艦艦長資格保持者」だからですが、陸軍大尉と同じになってしまったのは、中隊長クラスの士官名に本当はもっと勢威のある(こともある)captainという昔の言葉を使ったので、バランスが崩れてしまったということかと思います。
連隊長が自ら連隊を率いて参戦するのが当たり前であった頃、フランス軍では並み居るcolonelのなかで筆頭者と認められた人をcolonel-generalと呼びました。近代になると英仏の陸軍でこの言葉は使われなくなったのですが、帝政ロシア軍はГенерал(=general)-полковник(=colonel)という階級を作り、中将と大将の間としました。ところが英語圏では、プロイセン陸軍などのgeneraloberst(上級大将)もcolonel-generalと訳すようになってしまったものですから、解説抜きに正確に訳せない言葉ができてしまいました。逆に言うと帝政ロシア軍やソヴィエト軍の大将は、英米風に言うとfour-star general、つまり下から4番目の将軍ということで、ドイツの上級大将並みとも考えられます。