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division 師団、小隊、分隊、隊


 諸兵科協同が大切だなどと言いますが、諸兵科が協同するのは当然だと思いませんか。それ「が」わからないほどの将軍がいたとしたら、それは「軍事的に」無能とかいう限定はいらないほどではありませんか。


 野戦について行くには、大砲が迅速に動かせなければなりません。大坂冬の陣でも砲術家たちは特定の大名の下につけられ、その指示で発砲しましたが、迅速に動かせない少数の大砲であれば、その運用法を考えるのは総大将か、特に委任された少数の指揮官で済みます。


 ナポレオンの時代になって野戦で砲が活用され始めたと言われますが、これは砲と車輪のセットが進歩して、比較的迅速に動けるようになり、いい場所を占めれば一方的に砲撃を浴びせられるようになったのです。そうなると砲そのものを敵騎兵や歩兵から守るために、自分の騎兵や歩兵と砲兵の動きを合わせる必要があります。だから歩兵、騎兵、またはその両方と砲兵を併せて指揮する中間的な指揮官が必要になりました。ちょうど近代徴兵制が生まれ、陸軍の規模が拡大する時期でもありました。「ナポレオンのいない戦場でのフランス軍は弱かった」とよく言われるように、歩兵・騎兵・砲兵の諸兵科協同をめぐる戦場の応用問題をすらすら解ける将帥はそれほどいないのに、巨大なフランス軍を諸兵科連合の集団に分けないと広い戦線を戦えない……というのがナポレオンの帝国でした。


 そうやってフランス軍にも、フランス軍と戦うイギリス軍やプロイセン軍にも生まれたのがcorps(軍団)とdivision(師団)です。騎兵師団は騎兵と砲兵、歩兵師団は歩兵と砲兵が組んでいましたが、重騎兵を中心とする軍直轄騎兵部隊が軍司令部の下で集中運用されていました(例えばワーテルローの戦いでは、第1~第4予備騎兵軍団に重騎兵がまとめられています)。数をまとめ、タイミングを選んで突撃し、敵を潰走(かいそう)させる決め手として扱われたのです。


 こうして生まれた師団・軍団という概念は、運用パターンを確立することとそれを指揮官たちに浸透させることがどちらも試行錯誤され、第2次大戦に向けて発展していきました。この間数百年が経過しましたが、相対的にわずかな兵士で大きな火力を叩き込めるようになってきたので、戦後は師団よりも小さな単位の諸兵科連合部隊が独立して作戦する傾向にあります。


 divisionとは「分割(されたもの)」という意味ですから、「陸軍以外では」この表現をまったく別の意味に使いますし、その場合もちろん、海上自衛隊や旧日本海軍の対応する用語は「師団」ではないのです。


 まず、海軍では艦隊の下に戦隊(squadron)を編成しますが、何かの事情で戦隊が分割され別々に行動するとき、そのそれぞれをdivisionと呼びます。日本海軍ではこれを「小隊」と呼びました。真珠湾攻撃の時は第3戦隊第1小隊の戦艦比叡と霧島が南雲機動部隊に加わりました。


 日本海軍で「分隊」と呼んだものを、アメリカ海軍や沿岸警備隊ではやはりdivisionと呼びます。例えば空母の戦闘機隊、攻撃機隊、爆撃機隊はそれぞれ分隊であることが普通です。分隊の責任者を分隊長、その補佐を分隊士と呼びます。真珠湾攻撃のような「ここ一番」で、整備員たちが懸命に全パイロットが飛べるよう整備する場合を除いて、全員が飛べる機体があるとは限りません。だから艦長は例えば攻撃機分隊長に「攻撃機隊の編成」を命じて任せ、分隊長は練度や体調、機体の調子を考えて「今日の出撃メンバー」を決めるのです。このように人事管理・仕事の割り当てが分隊の基本的な役目ですから、あまり大きな集団になると分隊長の目が届きにくくなります。だから戦艦大和の高角砲要員は右舷と左舷で2つの分隊に分けるとか、臨機応変に分隊の仕切りを立てるのが日本海軍のやり方でした。


 海上自衛隊では役目で分隊区分を固定し、1分隊は何人いようと砲雷・水雷科全員、2分隊は船務・航海科全員というふうにしています。


 駆逐艦、駆潜艇、潜水艦などの小艦艇が「隊」を作ったとき、これも米英海軍ではdivisionです。海上自衛隊でも、例えば護衛隊はescort divisionと訳すよう海上幕僚長通達「海上自衛隊の部隊、機関等における英語の呼称について」が出ています。


「言葉と言葉が一対一で対応しない」のは外国語ではよくあることで、「日本語で理解しようとすると訳が分からなくなる」こともあります。細かいところを詰めていくほど、その国の言葉を離れないほうがウザい混同を避けられるわけで、そういう話題には日本語の書籍がなかなか出ないのですね。

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