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地名:ルルルンルンルン ルルルンルンルン

 ひとつの土地が全然別の名前を持っているのは、たいてい係争の跡です。ルーマニア領トランシルバニアは「森の向こうの国」でローマ帝国から見た呼び名ですが、当のルーマニアではアルデアルといいます。ハンガリーとトルコもアルデアルと同系の名前で、ハンガリー語で「森のそばの国」が元なのでしょう。トランシルバニアの一部には、ハンガリー王の募集に応じたドイツ人(ザクセン人)が住み着き、国王から自治権を与えられていました。「ザクセン人」自治地域全体の首都はシビウという街に置かれ、点在する7つの小地区(Sieben Stühle)を統括していました。ドイツ語ではトランシルバニアはジーベンビュルゲン(7つの城の地、あるいは7つの街の地)というのですが、川の名前からとったシビウと言う町の名も何となくジーベンに似ていますから、「シビウの古称から来た」と日本語版Wikipediaが書いているのも、誰かそういう論者がいるのかもしれません。ルーマニア語版Wikipediaのシビウの項にもドイツ語版Wikipediaにもそんな話はありませんが。


 大戦中に、日本軍が現地の地名に適当につけたカタカナが現在の呼称と照応しないで、どうしても場所がわからない……ということがたまにあります。ポーランド語はŁódźをウッチと読むような、他のヨーロッパ言語から見て例外的な文字の読み方が多いのですが、ドイツ語や英語の本で出てくる町の名前が微妙に現地の綴りと違うことは、他の国でもよくあります。大きな町とも限りませんし、現在はさびれてしまっていることもあります。


 近年になって表面化してきたのは、ウクライナの地名をウクライナ語に近いカタカナで書こうという動きです。ロシア語の地名を「ニコライエフ」と書いてあっても実際の発音はニコライェフに近いと思いますが、ソヴィエト時代には「ニコライエフ」で済んでいたウクライナ中部の都市は、今グーグル・マップではムィコラーイウと表記されています。同様に、ウクライナ西部の都市Khmelnytskyiはフメリヌィーツィクィイです。この街は戦前にソヴィエト領(ウクライナ)だったのですが、現在のウクライナ西端部分は戦前にはポーランド領であったわけで、どう書いたらいいか迷うこともあります。


 改名で困るのは何といっても旧ソヴィエト諸国で、指導者の名前を付けた町はたいてい再改名しています。第2次ハリコフ攻防戦(1943年春)に関係する地名にクラスノアルメースキーという村がありまして、いやこれ日本語にすると赤軍町じゃないですか。絶対元の地名なわけがないじゃないですか。こういうときどうするかというと、元の英語地名で検索してキリル文字に直して、旧名現在名併記のページを引き当てられるよう祈るのです。はい、現在はПокровськ(ポクロフシク)です。たぶんウクライナでなくロシアだったらПокровск(ポクロフスク)だと思うのですね。あの礼儀正しい武装紳士の皆さんの地域なので、ひょっとしたらこっちに戻っているのかもしれないのです。


 第1次大戦中の1915年にフランスでbattle of Loosという重要な戦闘があったのですが、これ日本語に直すと、ルなんです。ルですよル。「ルの戦い」なんて、オーラ(ちから)がもりもりわいてくる地名ですね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 何十年もルーだと思い込んでた…… 別にそれで恥をかいたりした事が有るわけではないのですが…… 大変面白く興味深く読ませていただいております。
[一言] 「battle of Loos」で検索するとGoogle先生は「ルーの戦い」って出してきますな。 これはこれでフレンチとヘイグがトゥギャザーにファイトしてる感じで変な力が湧いてくる気はしま…
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