97、伝言が正確に伝わるのは稀だ
「....賢者の弟子ならば納得ですわ。それが本当ならですけど。」
アイテムボックスから比較的布面積の多い踊り子の服を取り出すとサジェスタの前に置いて手足の拘束をほどく。そして額にトンっと指で触れた。
サジェスタは驚いて目を見開くと服と私とほどかれた拘束をみて自嘲気味にニヤリと笑った。
「どう言うつもりですの?」
「そのままで賢者に会う?私はかまわないけど?」
私の言葉に驚いて慌てて服を着ていく。渡した踊り子の服はサリーの様な形状だ。
サジェスタが踊り子の衣装を着たのを確認するとリゼル達にこっちに来るように伝えた。
「話は聞いてたよね?まずは賢者様からね。」
というが早いかメノウを掴みこちらには引き寄せる。凄く嫌そうな顔をしながらもサジェスタの前にでると挨拶する。
「低能なサキュバスに名乗るのは面倒だが大事な弟子の為だからな。私がメノウ。賢者として認められた証を持つものだ。」
懐から金と銀の美しい細工が縁を飾る女神の横顔のメダルを取り出し見せつけると直ぐに大事そうにしまいこんだ。
「あ、あなたが?....確かに国から発行される正式な賢者の証....。」
驚いているサジェスタをよそにメノウが更に喋る。
「それよりも先程、お前は魔神の復活と言ったな?私には魔王の復活と言っていたが?」
私の弟子に嘘を付くと恐ろしい目に合うぞとサジェスタを問い詰め始めた。
「う、嘘ではありませんわ!200年前に魔神になられた魔王様を復活させるのですもの!」
《マスター、それって前に黒が言ってた何故か甦ったので封印したけど、封印をいつの間にか破られて消滅したかも、事件の魔王?》
白から突然心話が繋がる。どんな事件だよ。
《....ああ、そんなこと言ってたね。あの魔王は狂化で魔神になってたからそうかもね。》
ステータス表示には[狂化]と[狂化魔神]とされていたので[浄化]で一時的に[狂化]を解除してパラメータを下げ攻撃、また[狂化]するので[浄化]をしての繰り返しだった。
最高値までレベルを上げていても[浄化]しないまま攻撃すると全くダメージを受けず、カウンターが全体攻撃できたので焦った覚えがある。
誰もイベントまで辿り着かなかったので私達が初攻略だった。万全の態勢で挑んだので良かったが、全滅もあり得ないことでは無かった。
《黒の封印を破るなんてあり得ますかね?前の神様は何も仰られていなかったんですか?》
《う~ん、....ゲームと現実の境を曖昧にして統合したって言ってたから発展時にその影響が出る可能性があるとは聞いた。それを調べて世界の異常を正常化させるのも旅の目的はだし。》
《そうでしたね、忘れてました。》
普通に旅行を楽しんでました。と白が言っている。おいおい、やはり早くあの計画を進めよう。
《どちらにしろ魔神化した魔王は完全に浄化したはずだから、もし甦ったとしても前の状態ではないし、今の所は異常な気配は感じないから消滅した可能性が高いってのはあり得るのよね。》
《前神様に聞こうにも、もう転生の輪に入られてしまったので記憶もありませんね....》
《サジェスタがというより、この今の世界の住人がゲーム時代の魔王を知ってる事、事態がおかしいんだよね....。でも...となるとあの....しかいないし....どうゆうつもりなのか....。》
何かしら知っていそうな前神様は私の手で転生の輪に投げ入れたし、介入できる人物に心当たりは一人しかいない。
考えれば考える程可能性が高くなる。
《マスター、リゼルに何かあった時は僕が介入していいですか?》
嫌な考えを打ちきり白の言葉の意味を理解した私は《本当に白凰がそれでいいなら許可します。》と答えた。
《分かりました。ではリゼルに引き続き張り付きまーす。》
白との心話で外れていた意識をサジェスタに戻すとメノウが相変わらずの冷たい目線で追い詰めていた。
「なら出すがいい。私に証拠となる大切な賢者の証を出させたのだから、お前も確たる物を出せ。」
メノウがそんなに賢者の証を大切にしていたとは驚きだ。再び懐から出した賢者の証を眺めて口角を僅かに上げるとウットリとしてまた懐にしまった。その時何故か背筋がゾクッとしたが気のせいだろう。
「....くっ、私だって見せつけてやりたいですわ!ですが持ち出せない大切な物で、貴重な文献なのです!200年前に御姉様の曾祖父様が神様に頂いたものなのですから。」
メノウが軽く目を見張ると考え込むように黙った。
「ねぇ、サジェスタ。その文献の内容はちゃんと覚えてる?」
私は確かめたいことが出来たので素直に話せる様に仕込んだ魔法で誘導しながらサジェスタに問いかけた。
「勿論、ちゃんと覚えていますわ。」
サジェスタは思い出す様に目を閉じると文献の内容を間違えないように言葉にした。
「神の遣いとして種族を率いるものを種族王とする。その中の魔種族、魔王は永きに渡り聖樹から溢れでた負の魔力により新たな力を授かる。魔王は魔神となり世界の一部となる。それに嫉妬した他の遣い達が協力し魔神を倒し封印する。神は嘆き眠りに付くと他の遣い達も共に次世の種族に王を託し眠りにつく。魔族の王だけは託されず魔族種は混迷し、安定無き世界が破滅へと向かう。魔神を甦らせ、世界に安定をもたらす者は200年後、神の目覚めし時代で現れる。願いを叶え幸福の道が開かれるだろう。」
やりきった感で満足顔のサジェスタがどや顔で私を見てくるがこれは魔神を甦らせた人が魔神に願いを叶えてもらい幸せになるという内容ではない。
(....やっぱり。伝え忘れたのを思い出して、慌てて手紙に残して適当な人物に渡したんだな。あの人。しかも微妙に違う。)
「そう、良く覚えてるね。で、世界に安定をもたらす者は自分だと御姉様が言ってたのかな?」
「そうですわ。曾祖父様がハイエルフの血を受け継ぐものから現れるだろうと言い残していたそうですから。御姉様の祖父様が行方不明だった御姉様を訪ねて渡されたそうです。」
渡した相手がハイエルフだとすると文献が真実と違う事が書かれているのも改竄されたとおもったほうがいい。
「...............。」
(都合の言いように書き換えたな。)
ボソリとラピスが呟いた。どうしようもなく傲慢だな。とも続いたがサジェスタには聞こえようもない。
「不思議ですわ、身内の事をベラベラと話してしまいます。」
流石に魔力の高い魔族には簡単にかけた誘導魔法では解け易いようだ。
サジェスタが頭を軽く振りさらりと前にかかる髪を後ろに払うと立ち上がった。
「この先には聖樹の根があるよ。私達はそれを埋めにきたの。サジェスタはこの先に行く?」
動き出す前に私から最終警告の意味で問いかけるとブンブンと横に首を振った。
「丸腰ですし、やめておきますわ。危険な橋は渡らなくていいと言われていますし、今回は手を引きますわ。ではご機嫌よう。」
指をパチリとならすと髪で見えなかった耳に付いていた飾りが光を放った。
眩しくて目を閉じてしまい再び開くと目の前にいたサジェスタの姿が消えていた。
「ちっ、転移したか。魔石の転移魔法を付与出来る奴が他にもいたのか。」
メノウが悪態をついたがサジェスタが転移する可能性も考慮していたので対策済みだ。
「200年前の魔王か....ハイエルフといい、物語の中の話みたいに感じるよ。」
他人事の様に感じるかもしれないがリゼルも絶賛巻き込まれ中ですよ。
静かなダンジョンの奥に乾いた笑いがでたのはしかたないだろう。




