89、ズィーロの苦悩
落ち着いた感じに纏められたシンプルな執務部屋は広いのだが高級そうな机の上に乱雑に置かれた紙の束とその横に積み重ねられた本と書類のタワーが数ヶ所に足の踏み場置かれているため狭く圧迫感を感じる。
机に置かれた紙の束の隙間から鍛えられた逞しいと思われる体を隠しきれていないが隠し、覗き見るようにこちらを伺うハイクタのリーダー?の筈の残念な男がいた。
「ズィーロ、彼女しかいないからちゃんと出てこい。」
魔術師の言葉に恐る恐る立ち上がる残念さん。
「....何だか、すごく貶められている気がするぞ....。」
「そんな格好を見せていれば当然だ。」
軽く目が私の後ろを確認して今度こそしっかり立ち上り本と書類のタワーの合間を縫ってこちらに近づいた。
先ほどちらりと見えた精悍な顔つきが少し下げられた整った眉によって少し柔らかい印象に見える。だが切れ長の深緑の瞳には激戦を乗り越えてきた強者の強い光が宿っていた。
身体はまだ及び腰だが....。
「ごほん....紹介状は読んだ。俺は共和国ハイクタ統治者であり冒険者ギルドグランドマスターのズィーロという。こいつは俺の仲間で本部ギルドマスターの一人でジェネラルだ。」
「私はエルノラです。」
「よろしく、エルノラ殿。先ほど居た片目の男アーバンも私と同じ立場だ。」
ズィーロと握手を交わした後、ジェネラルさんと握手を交わす。と軽く目を見張ったあと何事もなかったかのようにもとに戻った。
「今は大変な時なので戦力になる貴殿達が力を貸してくれるとありがたい。これによると貴殿達が立ち寄りたい場所は正にモンスター達が湧き出でるダンジョンだ。」
「許可証ではなく紹介状なんですね、それ。」
シェリーダには許可証としか聞いていなかったのだが彼の手には手紙が二枚ある。一枚目が許可証で二枚目が紹介状。
「ああ。これには、女神様からの神託がありダンジョンの調査が聖樹に関わる為、信頼できる勇者パーティーに調査依頼した。とある。この手紙は暗号で書かれているから極秘扱いだがな。」
シェリーダには目立ちたくないと伝えていたはず、ラピスの魅了で一度意識がぶっ飛んだので忘れているのか?今後の事を考えれば賢者の弟子より勇者の方が色んな意味で安全かもしれない....。それに極秘扱いなら問題ないか?
「今は猫の手も借りたいほど人手が足りんのだ。勇者でも悪党でもエルノラ殿達が調査ついでにモンスターを減らして貰えるならこちらとしてもありがたい。まあ、シェリーダ殿の公認の勇者様なら強さも為人も問題ないだろう。今は一時的に落ち着いているが三日毎に二度の頻度で1000体以上のA級モンスターが一気に溢れ出てくる。Sランクパーティーを組んで交代で対応している。」
「そろそろ一年経つが皆、疲労の色が濃い。最下層まで未だたどり着く事が出来ずにいるしな。」
ズィーロもジェネラルもよく見れば目の下にうっすらと隈がでていた。
「しかもよくわからんが、何故か最近男共が俺に群がって来るし....。男に告白されるのも嫌だがモンスターと一緒に襲ってくるし、はぁ引きこもりたい。」
ズィーロを目にした男達が顔を赤く染め潤んだ瞳でグイグイと迫り、好きだ、愛している、嫁にしたい等襲ってくるそうだ。
女性達は特に反応はなかったそうだ。男なら老人から幼児まで、ある程度近づくと発揮される。だが唯一、ジェネラルとアーバンは特に何も感じないらしい。
「外に出る度に男共に囲まれてる。ギルドの連中達なら痛め付けても問題ないが爺さんやチビ達を痛めつける訳にもいかないからな。だがまたモンスターが溢れて来たら行かなきゃならん....はぁ憂鬱だ。」
「仕方ないだろう....調べてはいるが原因がわからないのだから。」
「へぇ、門兵さんが、ズィーロさんって女性に縁がなくて男性にはモテモテだって言ってたけど....。」
「そ、それは違う。縁は何度もあった!忙しすぎて婚期を逃しただけだ。男にモテ出したのも最近だし、近づかなければその現象事態起きない。男共も日が浅ければすぐ忘れるしな。」
「そうですか....。」
ズィーロは一年前までは女性達が群がっていたのだが男性にモテるようになり男が好きだと勘違いされ去っていったのだそうだ。
(《サーチ》)
[名前] ズィーロ・マナテル
[種族] ヒューマン [性別] 男
[年齢] 32 [職業種]双剣士
レベル 150
HP 480000/480000 Mp 10000/10000
[状態] サキュバスの呪い
《サキュバスの呪い》
どんな人でもイチコロで惚れさせる。サキュバスの場合は男性限定。インキュバスの場合は女性限定。 精神力の高い相手には無効。
ちらりとついでにジェネラルも見ておく。
[名前] ジェネラル・スゥーラ
[種族] ハーフエルフ [性別] 男
[年齢] 28 [職業種]魔術師
レベル 150
HP 480000/480000 Mp 450000/450000
[加護] 精霊王
《精霊王》
女神から精霊種を守護する役目もつ精霊界の主。たまに地上に遊びにきて気に入ったエルフ種に力を授けたり加護を与える。
精神、魔力、幸運が飛躍的に伸びやすくなる。
ズィーロの原因はわかった。ジェネラルの加護の方が気になるが精霊王とリゼルに加護を与えていた剣神は黒と白の使い魔だ。たまに気に入った者に加護を与えるのは世界を守るために必要なことだ。
「ズィーロさん、私が解決してあげましょうか?」
今後を考えてズィーロに恩を売れる時に売っておこうと決めた。私の提案にズィーロとジェネラルは暫し固まる。
「はっ?」
「えっ?」
「原因はわかりました。私なら今この場で何とかできますよ。」
「「本当か!?」」
「二人同時に近寄って来ないでください。反射でヤったらどうするんですか?」
(びっくりするじゃないですか、気を付けてください。)
「心の声と口から出る言葉が反対になってるぞ!」
「えっ?逆でした?」
「反射でヤれるのか君は。やはり只者ではない。」
私の言葉にただ注意するズィーロに対しジェネラルは言葉をちゃんと理解して一歩下がった。
「....もし何とか出来るなら頼む。通常なら自分で解決するが今はそんな時間もない。」
今日で二日目、明日にはまたモンスターが溢れる。
「わかりました。報酬はすぐには思い付かないので後程でいいですか?」
「ああ、俺に出来る範囲で相談後だぞ。」
「ふふ、では成立で。」
私はズィーロを跪かせると見上げなくて良くなった精悍な顔に近付き人差し指を眉間の辺りに持っていった。
「《状態異常解除》」
魔力を纏った人差し指からズィーロの顔面を覆うように魔力が流れる。魔力の流れが止まるとズィーロは立ち上がりジェネラルをみた。
「ジェネラル、誰か呼んでこい。」
「呼ぶならアーバンさんや私の仲間以外でお願いします。」
ジェネラルは頷いて部屋を出た。それを見たズィーロは不思議な顔をして私に聞いてくる。
「エルノラ殿の仲間で試すのが一番早いだろう?三人共、男だったと思ったが?」
「私の仲間たちは精神力が高いので影響がないんです。強いですからね。」
ズィーロはだからジェネラルとアーバンは大丈夫だったのかと少し納得しているようだった。彼らの高レベルならサキュバスの魅了に抵抗できる。




