86、勇者は困った人遭遇率No.1
兵士の言っていた魔族青年には会わなかった。
と言いたいが私たちの目の前に倒れているこの青年の事だろう。
「エルはハズレないな。」
リゼルが嬉しそうに感心している。
感心するところじゃない、やたら遭遇率が高すぎる。リゼル、ナハト、誘拐、トルネ、テディ。
「......................?」
(新しく増えた称号のせいではないか?)
「えっ?称号増えたの?」
慌てて自分のステータスを確認すると確かに一つ増えていた。
([名前]) (エルノラ) ([性別])(女)
([種族]) 神 (ヒューマン)
([年齢])不明(25)
([職業種])女神(魔剣士)
([レベル]) 不明 (90)
(HP) 不明(95000/95000)(MP)不明 (9000/9000)
[称号]アダメルシアの女神 異世界人の心
世界の管理者 守護者の調教師
超越者 スキルマスター
勇者
([加護]) (女神)
「...ホントだ...。」
「そうなのか?俺も見てくれ!」
そうだった。リゼルは自分で見れないんだった。
[名前] リゼルディス
[性別] 男 [年齢]21
[種族]ヒューマン [職種] 聖騎士
[レベル] 90
HP 90000/90000 MP 6500/6500
[加護] 剣神 女神(お手つき)
そういえば称号は気にして見てなかったな。
[称号] 方向音痴 微不運(改) 元王子
《new》守護者見習い 勇者
何か気になる称号が色々あるけど取り敢えず新しい称号を確認する。
《守護者見習い》誰かを守ると心に決め動き始めたもの。精神、防御UP。
《勇者》人民、国のトップから認められた有名人。困った人がいると引き寄せられる。
称号持ちが多いほどドンピシャだ。
「ねえ、リゼって国から勇者って認められたことある?」
勇者の称号に《new》ないので聞いてみた。リゼルは少し考えるとああっ!と言い手を打つ。
「父上が国を出てエルに付いていく時に妹を救ったエルと俺に旅がしやすいように勇者見習いとして国に登録して広めておくと言ってたな。」
それか!良く見ると私とリゼルには《new》がなく、ハルル、ラピスには付いている。
「聞いてないんだけど....。」
称号はあまり気にしていなかったので確認をしていなかった、というより加護ばかり気にしていたので忘れていた。とんだ盲点だ。
「私とリゼが勇者見習から勇者になって、ハルルとラピスがそのまま勇者がつけられてるのね。四つもあるじゃん!」
「どちらにしろ、エルノラが助けるんだから問題ない。むしろ好都合。」
ハルルは私が地上に降りた理由を知っている。再開した夜に話したからだ。
大好きなこの世界を安定させる為に旅を続ける。引き継いだこの世界はまだ少し不安定なのだ。
「....確かに、それもそうだね。」
「...........あの~。」
「ナトはまだ未成年で記憶喪失だから勇者見習いは見送るとも言ってたな。」
「....おかしいな僕は透明人間にでもなったのかな?」
「まあ、当たり前だよね。ナトは記憶を失くしただけじゃなく、奴隷からも人拐いからも解放されたばかりだったしね。」
「もしもーし、すみませ~ん。」
「...........?...........?」
(ナトとは誰だ?もう一人の仲間だったか?)
「やっぱり、どこにいっても存在感が薄い存在なんだ.....うう、グズッ。」
「そろそろ、いいのではないか?」
見かねたハルルが倒れた男に哀れみの視線を送った。
男は私達が喋っている間、倒れたままの状態で顔も上げれず、声をかけるのみだった。
見た目に外傷もなく状態異常にかかっているわけでもなかった。
ぐううぅぅ~~~
彼はただの空腹だった。
倒れていたのを見つけてすぐに状態を確認したので何度が見直しながら近付いたが命の危険はなく、本当にただの空腹だった。
今、彼は私達に回りを囲まれた状態なのだが完全に顔が下を向いたまま倒れているので、近くにいるのは分かっている。
なのに何故か声をかけたのに気づかれない。
「はっ!途中から完全に忘れてた!」
「俺もだ!すまない!大丈夫か?」
「.................、......?」
(危険人物ではないか、試していたのではないのか?)
「我もそう思った。エルノラはともかくリゼルは天然。」
「えっ?見えてるんですか?」
一抹の希望を抱き、首を私達に向けようとするが力が出ずに脱力する。
「ハルル。」
声をかけるとハルルが頷き彼の首元を掴んで猫の子の様に持ち上げると背中を支えて座らせる。
「あ、ありがとうございます。」
臙脂色の髪は短く、後ろは刈り込み黒い刺青が見える。前髪も短く額が出ているのに汚れていないのはそこに付けられているサークレットがその代わりを果たしたからだろう。
頭部には乳白色の短い角が生えている。鬼人族と呼ばれる魔族の一種で戦闘に長けており脳筋が多く筋肉に恵まれた体格のよい戦闘狂種族なのだが....。
「あ~、わかります。僕みたいな鬼人初めてですよね~?」
彼は鬼人族の特徴が角と黒い刺青しかない。
黒い刺青は戦闘を有利にする為、筋力強化の魔法を込めた特殊な黒墨を生まれたらすぐに施される鬼人族特有のものだ。
彼の刺青は通常なら顔以外全身に及ぶのだが首元上部に少ししかなく、服装も戦闘向きではない。
男性用半袖の裾の長い、首部分なしのチャイナ服の様な出で立ちに肩に斜め掛けのマントがあるだけで防御力もなさそうだ。
「これを食べて。飲み物もどうぞ。」
アイテムボックスから屋台で買っていた味付け肉のサンドイッチを渡し、回復効果のある少し酸味があるジュースも渡す。
「いいんですか?ありがとうございます!」
プルプルした手で何とか受けとると飲み物から少しづつ口に入れ、次にサンドイッチを食べ始め、段々と早く大きく口を開け食べていく。
最後に口に一杯に頬張りゴクンと飲み込むと立ち上がり深く頭を下げられる。
「助かりました!!ありがとうございました!!」
たれ目がちで優しい瞳をした青年はラナージと名乗った。立ち上がったラナージは筋肉質では無いがすらりとして程よく筋肉がついているのが腕を見てわかる。そしてハルルと同じ位、背が高い。近くに立たれると見上げなければならないので大変だ。
「君は魔族なんだろ?今、魔族達は魔国に集まっているって聞いたけど?」
リゼルの質問にラナージは凄く悲しそうな顔をしてうつ向いてしまった。
「そうです。....200年前に狂化により倒された魔王様以降、空席だった玉座に最近になって魔王様に選ばれた脳き....猛者が現れたんです。それを祝う為に全魔族が召集されました。」
「あれ?魔王って選抜制だっけ?」
つい口をついた私の言葉に気にするでもなくラナージが答える。
「いえ、僕は戦闘にはあまり向かない鬼人族の落ちこぼれだったので歴史学者になろうと魔国の歴史書を読み漁ったのですが、魔王様は現魔王様が亡くなられた時に新たな魔王様が生まれるそうです。....200年間、魔王様がいなかったのは狂化された魔王様が生きているからだと思ってました。」
(200年前の魔王はゲーム時代に倒した魔王の事だろうけど....、そういえば黒が前に何故か復活したけど消滅したって言ってたな....。あの時は気に止めなかったけど何か関係があるのかな....。)
考えている私を他所にラナージは話を続ける。
「新たな魔王に指名されたのは僕と同じ鬼人族の青年でした。あまり気乗りはしていない様でしたが強さを求める種族なので魔王になれば沢山戦えると聞いて渋々納得していたようです。ですが僕は魔王様が生きているなら魔王様が続けられるべきだと思いました。」
「でもその魔王様は狂化してるのだろう?」
リゼルがそれじゃあ危ないんじゃないか?とラナージに聞いている。
「記述には魔王様は先人様の活躍により一度倒されているんです。」
そうですね。かつての私達が一番乗りで倒しましたよ。
「恐らくですが倒された後、何らかの理由で蘇ったか、瀕死で生きていたのではないかと....。あくまで憶測ですが。その時に狂化は解かれている筈です。」
「まあ、最悪[浄化]が使えるから狂化は大丈夫だけど生きてる魔王様を探してるの?」
「えっ、[浄化]!?あ、はい。僕は魔王様を探し出すために今度は魔法書を読み漁りました。そして召還魔法をみつけたのです。入念に準備をして召還魔法を発動させましたが不発だったようで僕が魔国からこちらに飛ばされました。二日程、飲まず食わずで準備していたのでそのまま飛ばされ今に至ると言うわけです。」
浄化の部分に驚いていたが、ひとしきり現状説明を話し終わったラナージは息をついた。




