82、声が小さいのには理由がある
シェリーダは共和国ハイクタへ行く為の準備をしてくれていた。
ラピスと共に情報を集め、共和国ハイクタに連絡を取ろうとしたが何の返事もなかった為、使者を出したが行方不明となった。ハイクタから許可を得て出入国している商人に話を聞くことが出来たので何とか入る方法は聞くことが出来たらしい。
食料や武器、薬等を運ぶ商人や戦力になる冒険者等は受け入れているが冒険者は弱いものを補佐する余裕がないので自分の身を守れる者でSランク以上の条件らしい。それだけモンスターが強いのだとか。
「でも私達はAランクですよ?」
「君たちのレベルを見てSランクでも問題ないとラピスと判断した。煌国が保証人となる約束で冒険者ギルドから許可を得て書き換えを行う為の道具を借りてきた。ギルドカードをここに出してくれ。」
私、リゼルがギルドカードを差し出す。ラピスはすでに登録しているらしい。ハルルは元々SSSランクだ。
シェリーダはギルドカードを受けとるとアイテムボックスから書き換えの為の道具を取り出す。
「え、Sランクなんて各国のギルドに数人ずつしかいないようなずごい冒険者なのに....。」
リゼルは緊張している。重圧があるようだ。
「まあ、リゼのレベルで考えると妥当だと思うけどね。」
「そうですね、リゼル殿のレベルならSSランクに入れるかどうかですが、まだ実績がないのでこのSランクにしています。レベルが低くても経験と実績があればSSSランクになることもあるのですよ。」
シェリーダがニッコリと微笑みギルドカードを返してきた。
「....色々スムーズですね。煌国に入ってすぐ皇王様に御会いできたり、共和国の許可書がすぐ用意されたり、ランクまで....」
リゼルがポリポリと頬を掻き、シェリーダをみた。
シェリーダは笑顔で固まっている。にこやかに冷や汗が背中を伝っているようだ。
「女神が降臨されたのだ。」
低く甘い腰に響く声が答えた。声は何故か抗いがたく引き寄せられる。
リゼルとシェリーダがポワンと頬を赤く染めぼんやりと声の主の方に顔を向ける。
「降臨された女神が賢者メノウを探すように、そして世界を支える聖樹が傷ついているので原因を探り出来るなら癒すようにと。賢者の弟子とその仲間達に伝えてほしいと教皇へ神託が下された。リゼルもパーティーの一員として伝えられた。」
声の主はラピスだ。
リゼルとシェリーダはうっとりするようにラピスから目を離さない。
ラピスが普通に喋る事で発動する能力[魅了(声)]、これがラピスの声が小さい理由だ。
声を聞くあらゆる生き物を魅了するので精神抵抗力が高い者でも魅了無効か全状態異常無効の装備を着けないと魅了されてしまう。
魅了された者は声の主に逆らうことができず何でも言いなりになってしまう。魅了を解くには状態異常の解呪魔法かアイテムを使うしかない。
「「貴方様と女神の御心のままに。」」
立ち上がりラピスの前に跪くリゼルとシェリーダの目がハートになっているような気がする。優先順位が女神からラピスになっているので魅了の力は恐ろしい。
「では、頭を下げよ。」
ラピスの言葉に素直に従った二人は膝を着いたまま頭を下げる。
二人が頭を下げたのを確認してラピスがアイテムボックスからハリセンを取り出した。
そう、ラピス専用にメノウが作成し私が改造した高性能解呪アイテム[解呪君二号改]だ。
スパーン!!スパーン!!
とても良い音が響き、リゼルとシェリーダが脱力して倒れた。
「相変わらずの魅了能力と良いハリセンの音。」
ハルルがちらりとハリセンを見たがラピスは直ぐにそれをアイテムボックスに片付けた。
「........、...........。」
(ハルルに貸すと、壊れるからメノウに貰え。)
「そうする。壊れない様に作ってもらおう。」
誰で試すつもりかは聞かない方が良さそうだ。
「さて、ひとまずシェリーダを先に起こそうか。」
私はシェリーダの口に気付け薬を小瓶から注ぎこんだ。
「ぶへっ!!!まずい!!!」
エルフ美中年がぶへっ!!!なんて聞きたくなかった。
アイテムボックスに大量にある薬は全て効き目が良いがくそ不味い。ゲームでは感じなかった味が今は感じられるので全て試してみた事がある。
良薬口に苦し。誰だよそれを実践したのは! 良薬になるほど苦味、エグ味が酷くなる。知りたくない事実だった。
私にはアイテムを使わなくても自分で魔法が使えるので問題ないが、もし飲むとしても死に目で味が分からないほどやばくない限りは飲みたくない。
前に渡した[医療の真髄]を持つギナマが味を改良してこの世界に広めてくれることを切に祈っている。飲みやすく改良するように念を押しとこ。
「大丈夫か?お茶を飲め。」
ハルルがお茶をシェリーダに渡すとお礼を言ってお茶を煽った。
「ふぅ、偉い目に会いました。」
完全に気づいたシェリーダはリゼルを見てぎょっとした。慌てて助け起こし仰向けに横たえる。
「リゼル殿はどうされたんですか?先ほどまで元気でしたが......。」
「シェリーダ様、どこまで覚えてます?」
「......ギルドカードを渡した所までですね。」
魅了と解呪の影響で魅了される少し前の記憶が曖昧になる。だが魅了されていた時の言葉は印象強く残るので声による魅了は解けても油断できない。今の所はラピスしか[魅了(声)]の持ち主はいないので問題はない。
「そのあと、リゼルが展開がスムーズ過ぎるって怪しんでシェリーダさんが冷や汗をかいて固まったのでラピスが助け船をだしたの。」
簡単な説明だがシェリーダは納得したようだった。
「そうでしたか、不甲斐なくて申し訳ない....。ハッキリと女神様の御神託があったと話せば良かったですね、同じ女神を崇拝しているのですから何よりの信用になりますのに。全く忘れておりました。」
ラピスの魅了の効果がやはり出ていた。
忘れたのではなくシェリーダの記憶に女神の神託が足されているのだ。
「じゃあリゼルも薬をのませましょ。」
リゼルの頭を抱え気付け薬を口に入れようとしたら紅茶を用意するまで待っててとハルルに止められた。
「グアッ!!!苦、エグッ!!」
一瞬で起きた。ゲホゲホと咳き込むリゼルにハルルが程よく飲み頃の紅茶を渡すとゴクゴクと勢いよく飲み込む。
「毒!?毒か!?あれ?でも死んでない?」
「毒じゃないよ、味は毒物並みだけど。ただの気付け薬だよ。」
リゼルの記憶が曖昧なのを利用して疲れで眠ってしまったリゼルを気絶したと思い、気付け薬を用意したと説明した。
「そうか、最近凄い勢いでレベルが上がってたからな~。驚かせてすまないな。」
リゼルは素直だ。先程まで疑問に思っていたシェリーダの準備の良さも神託があったからだとちゃんと刷り込みが完了していた。
「では今日は城へお泊まりください。部屋を用意させましょう。女神様の御神託を受けた方々を我々は歓迎いたします。」
一つ誤算だったのはこの国は女神信仰の国で、私達は女神の神託を受けたパーティー。神殿から出て城に滞在するために準備を命令をされた国の重鎮達が騒ぎ、兵士達に伝わり、国民から国中に光の早さで伝わった事で大騒ぎになった事だろうか。
そして、目立ちたくなかった私を出発前に個人的に呼びだしたシェリーダに土下座をされ腹を切ろうとしたのを全力で止めるという事があったのも付け加えておく。




