8、見えないものは見ないでね
今、門の前の横に立っています。
すごーく長い行列を尻目にリゼルに連れられ案内されたのは茶色い革の胸当てをした門番兵士の控える建物の前。
並んでいる人の視線が痛い。
「お帰りなさいませ、リゼル様!御無事の御帰還心より歓迎致します!!」
「ありがとう。悪いんだが騎士団詰所に行って俺の帰還を伝えて来てくれ。」
リゼルが兵士に頼むと「了解致しました!」
といって帝都の街中に消えていった。
「お帰りなさいませ!リゼル様。」
「副団長!お帰りなさいませ!」
兵士の人がリゼルに挨拶していくなか私を連れて建物の中にある一室に入る。
トントン...トントン
少しリズムをつけてドアをノックする。
ガチャ
すぐにドアが開き中から茶褐色の短い髪と顎髭が整ったガッチリ体型の40代後半に見えるおじさまが現れた。兵士達の茶色革の胸当ては違う黒革の甲冑を着ているのでただの兵士ではないだろう。
「リゼルディス様!御無事で...その者は?」
リゼルを見ると安心したような顔をしたがこちらに気づくと一瞬で警戒心を見せた。
「タルナ!お前も無事で何よりだ。この方に命を救われて、原因不明の病も呪いだったんだが治して頂いた恩人なんだ。」
リゼルの言葉を驚いた顔で聞いたおじさまは右手を差し出し左手を胸にあて少し屈んで挨拶をした。
「我が主を助けて頂き誠に感謝致します。
私はタルナ・マヌカードと申します。」
出された右手をそっと握り挨拶を返す。
「私はエルノラです。ご丁寧にどうも。」
「む..かなりの実力者のようですね。纏っている気が他とは違う。」
纏っている気って何!?そんなもんわかるものなの?表情には出さないが内心はまたやらかした!?の連発だ。
「賢者様の弟子なんだ。さすがタルナ!良く分かったな~。」
リゼルがタルナに感心している。
「賢者のお弟子様でしたか、ならば確かに納得です。」
どこかの賢者様、申し訳ない。利用させて頂いてます。そして恐らくこれからも...
うんうん、と頷きながらタルナはリゼルに話しかける。
「こちらへ来られたのは仮の身分証明と通行許可証の発行ですかな?」
「そうだ、俺の名前で発行したいんだが。」
「それが一番速いかと。」
二人のやり取りでどんどん進められまだ報告書の作成が残っているタルナに「後でまた」と見送られオススメの宿をお礼の一部だとリゼルに案内された。
「明日ギルドに案内するから迎えに来るまで宿にいてくれ。朝の鐘が二回なる頃にまた!」
朝6時からなる鐘は一時間に一回づつ増えていく。二回なる頃とは7時頃だろう。
リゼルを見送り宿に入っていくと美味しそうなシチューの匂いが鼻を擽る。
「いらっしゃい、とりあえず7日分の宿泊と夜の食事代のお代は頂いてるよ。湯浴みは部屋にあるから湯が足りなかったら言っとくれ。これが部屋の鍵だよ、出掛けるときは鍵を預けていってね。貴重品は部屋に金庫があるからね、金庫の鍵は失くさないようにするんだよ。ようこそ!日だまりの宿へ」
部屋の鍵を受け取り宿の女将さんに押されながら食堂に連れてかれる。空いた席に座らされテーブルに野菜がたっぷりの赤みがかったシチューとふっくらとした長細いパン、見た目は鶏肉のような肉汁溢れるステーキが目の前に並ぶ。
食べるしかないよね。