72、獣王国からの旅立ち
ギルドでの用事も終わったのでベアードさんに別れをつげ、ジルダさんによろしく伝えてもらうと私達は旅の買い出しがてら昼食をとる事にした。
獣王都ゼノインの街並みを見ながら歩いていたが通る人々の視線が凄い。
店の店員、横を歩き通り過ぎていく同じ冒険者、走る馬車から身を乗りだし、ハシタナイと頭を押さえられ引っ込められる御令嬢?等。
やたら目立つ背の高い英雄ハルルに注目が集まっている。
「怖い、こわい、コワイ......。」
ボソボソと呟きながら私のマントの裾をにぎっている。身長差があるのでまるでリードの様になっている。この場合繋がれているのは私か?
「はぁ、仕方ない。取りあえず街を出てからお昼にしよう。」
「それがいいですね、かなり目立ってます。」
「煌国に行くなら火の国と緑の国を通らないと行けないな。緑の国の...確か森を抜けた先だ。」
「じゃあ取り敢えず火の国のマーテルさんの食堂でご飯にしよう。」
「はい!僕が転移魔法使います!」
ナハトがヤル気満々だ。
「地道に行くと歩いて五日程かかるからな~。陸都ガジェットにも行ってみたかったが、火の国からの方が距離は近いから魔国に行く時に通るか?」
「そうだね、なるべく全ての場所に行って転移魔法で行ける様にしたいかな。」
「リゼ、エルノラ、早く行こう...。」
ビクビクしているハルルがナハトを引っ張りリゼルと私に引き寄せる。
「分かりましたから、引っ張らないで下さい。リゼ、エル、ハルルさん手を。」
四人で囲い中心に手を置くと確認したナハトが転移魔法を発動させた。
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火の国ランバ 火の街ララザ
「いらっしゃい!って、あんた達かい、獣王国に行ったんじゃなかったのかい?」
料理を両手に持ちながら一切溢すこと無く振り向きながら素晴らしい笑顔で迎えてくれたのはセクシー女将のマーテルさんだった。
「わあ、皆さんいらっしゃい!こちらにどうぞ!」
リリアが厨房から出てきて料理を運んでいるマーテルさんに代わり席に案内してくれる。
席に着くとキラキラした瞳で私を見てくるが、マーテルさんの手がリリアの頭を掴んだ所で正気にもどった。
「痛いよ、母さん。」
「早く注文を取りな、ここは腹を空かせたのが来る食事処だよ!」
「はーい、エルノラお姉さま達はご注文は何になさいますか?お薦めは今日仕留めたばかりのボアの煮込み肉団子です。」
「私はそれでお願い。」
「我も」、「俺も」、「僕も」
皆同じものを頼む。ついでに前に飲んだレモネードとパリッと揚げた香ばしい挽き肉の入った包み揚げを頼んだ。
「かしこまりました。では少々お待ちくださいね。」
厨房に戻ったリリアを目で追うと厨房で料理を作っているガルーダルと息子のテルサディオがこちらに気づき手を挙げて挨拶してくれた。
ここではハルルの顔は割れていないようだ。英雄の話は知っていても引きこもりだったハルルは獣王国のみ気を付ければ問題ない。
「はいよ、お待たせ!」
テーブルに料理がドンドンと乗せられ熱々の石鍋に盛られた大きな肉団子が二つに野菜が付け合わされ、赤いスパイシーなソースがタップリと注がれた湯気から食欲をそそる良い香りが漂った。
「いただきます。」
私の挨拶にリゼル達も真似して挨拶してから食べ始める。
「赤いスパイシーなソースが美味しい、辛いかと思いましたがそんなには辛くないですね。」
見た目は確かに辛そうだが、トマトベースのハヤシソースに近い肉の旨味が強いソースで肉と野菜に良く合っている。
前に辛い料理を食べて覚悟していたナハトは嬉しそうにハフハフしながら食べている。
「それで?結局、行かなかったのかい?」
少し店内が落ち着いたのか隣の空いていた席に腰掛けたマーテルさんが話しかけてきた。
「獣王国には行きましたよ。今は煌国に向かう途中です。はふっ、あむ。」
「確か、騎士と一緒だったけど馬で走っても三日はかかるだろう?......ああ、転移石を使ったんだね?なら、納得だ。」
「あれから何かありましたか?」
「いや、街の強化もしてるし商人達も警戒してるが特に無いね。ただあんたがもし来たらトルネ爺さんからこれを渡してくれと頼まれてる。」
マーテルさんが渡してくれたのは手紙だった。
「ありがとうございます。」
受け取り中身を取り出して読むと魔国の情報だった。
「魔国が少しきな臭い。闇ギルドが大人しすぎる。注意されたし。魔王が就任、赤い髪の戦闘狂で国が荒れている、行くなら注意。」
簡単に要約するとこんなかんじだ。赤い髪の戦闘狂...嫌な予感しかしない。
「魔国には今ほとんどの魔族が集まっているらしいよ。魔王様が就任したからなんだねぇ。前に来た鬼人族の兄ちゃんがなかなか魔王が決まらないって愚痴を溢しながら飲んだくれていたことがあったからねえ。」
頬に手を宛ながらあの時は酔っぱらって大変だったよ。とマーテルさんが教えてくれた。
「行くまでに色々準備が必要だね。」
「...赤い髪の戦闘きょ「さあ、そろそろ出発しよう。」」
ハルルの言葉を遮りながら出発するために席をたつ。視線を向けると軽く目を見張り、一つ頷くと立ち上がった。
「まいどあり、また来ておくれよ。」
「待ってくれよ!この間聞けなかったあの話を教えてくれ!」
ガルーダルさんが厨房から慌てて出てくる。
「なんだい?あの話ってのは?」
「あっ、そりゃ、料理マス..「新しい料理のレシピですね。」.」
ガルーダルが料理マスターの名前を出す前に遮る。
アイテムボックスがばれないよう、革鞄から出すように紙の束を取り出す。
紙には料理のレシピが30種類書かれている。
材料から作り方まで書いてある料理は様々で貴重なレシピばかりだ。
「ガルーダルさんが高みを目指すならこのレシピを完全に作れるようになり、100人から[凄く美味しい]を心から言わせて下さい。完遂すれば貴方は称号を得るでしょう。」
ゴクリ...
ガルーダルが私からレシピを恭しく受けとる。
「いいのか?」
「ええ、貴方の料理の腕と秘伝のスパイスを手にいれることができる実力が有ると判断しました。ただこれは、貴方一人で挑まなければなりません。他に渡したりすればレシピは消滅します。息子さんであってもです。貴方が称号を得た後にレシピを新たに作りそれを次代に受けさせる事はできます。称号を持った状態で難易度の高いレシピを作り、それを貴方が認めた人に渡せば試験になります。ただ世界に名を持てるのは5人までです。」
「...今は何人なんだ?いや、なんですか?」
「一人ですね。」
ガルーダルが私を見つめると深く頷く。
「有り難く挑戦させていただく。」
真摯な目で頭を下げられ、私も頷いた。
「後で聞かせておくれよ...。」
じとっとした目でマーテルさんに見つめられガルーダルさんは冷や汗をかきながら厨房に戻っていった。
「只者じゃないねあんた?まあ、恩人には変わり無いさ。また来ておくれよ。」
マーテルさんに見送られ火の国を後にする。
その後、火の国には伝説の料理人が誕生するのだがそれはまだ先のお話。




