71、手打ち
大人しくなったアラベスタを連行...連れてギルド受付に戻ると、仁王立ちしたバルバドスと先程ジルダに言われていた仕事を放棄して逃げ...避難した熊親父さんがいた。
「げぇ!バ、バル何でここに...!」
「.....ジルダは今手が離せんから、我がこやつを引き取ろう。」
騎士団の仕事はいいのですかね?
バルバドスが怒りに満ちた目でギロリとにらみ、アラベスタの首根っこを掴むと引きずってギルドの二階へと消えていった。これからミッチリと叱られるのだろう。
「あ~、良く無事だったな嬢ちゃん。さすがは弟子を名乗るだけある。俺はギルドマスターの補佐の一人でAランクのベアードだ。さっきは名乗らずに悪かったな。ドラゴンじゃなく、竜人だとわかっていれば加勢したんだが、ハハハッ...。」
加勢は期待してませんがそれよりも熊親父さんの名前がベアード.....吹き出していいですか?
熊系のモンスターはグリズリーの名前だから問題ないと言えばないが私だけ腹筋に力を入れなければ崩壊するじゃないか。
この世界ではベアーはいない。ベアーが分かるのは私だけ。ゲーム時代なら友人とわかり会えたのだが...。ここで笑ったら私がおかしく失礼な奴になる。
「..ぐっ、.....」
だめだ、口を開くと笑う。落ち着け。
「ジルダから英雄殿のパーティー申請を受諾して新たなギルドカードを用意したと預かってきた。後は嬢ちゃんのギルドカードを一時預からせて貰えば書き換えれる。いいか?」
熊親父さんがハルルにギルドカードを渡し、
私のギルドカードを受けとる。
「じゃあ、少し待っててくれ。」
熊親父さんが受け付けの奥に消えていく。深い深呼吸を繰り返し、私の腹筋は落ち着いた。
「エルノラ、ラピスを迎えにいくか?」
「えっ?うん。」
ハルルはラピスと仲がいいので会えるのは嬉しいだろう。
「ラピスってこの間、言ってた仲間の一人か?」
「うん。先に聞いときたいんだけど、もしあと三人仲間が増えるって言ったら困る?」
リゼルの質問に答えたあと、こちらが質問する。
ナハトとリゼルは顔を見合せ首を横に振った。
「エルが必要なことなら、僕たちはなにも言わないよ。ね、リゼ?」
「俺達も連れていってくれるなら何も言わないさ。旅先も、仲間も、何か大事な事だからだろう?」
「ナト、リゼ...。ありがとね。」
リゼルもナハトもろくに説明をしていないのに私に任せてくれるのは嬉しいがちょっと盲目的で心配だ。
「おう、待たせたな。返しとくぜ。」
熊親父さん改め、ベアード(笑)からギルドカードを受け取ろうとした時にわずかに手が震えている。
(...?寒いのかな?)
何となく気になりベアードの顔を見るとゆっくりと目を逸らす。
(違うな...白や黒が威圧してる訳でもないし...。何かやらかしたかな?)
「ベアードさん、どうかしましたか?」
気になるので思いきって聞いてみた。
「ふぉ!...あっ、いや、な、何がだ?」
ベアードはあまりに分かりやすい動揺をみせた。
「何故、震えてるんです?」
見つめる私の目線から冷や汗をかきながら必死に目を逸らそうと泳がせる。
「そ、それは、気の「何で?」」
少し威圧が出たのかビクッとして涙目になる。アラベスタの補佐でAランクなら実力ある人物のはずなのに涙目で怯えている。
「エル、威圧が半端ないから、俺達もちょっときついからな。」
リゼルから指摘が入り慌てて威圧を止める。
「ふぅ、あの時の殺気程じゃないが、あんたの威圧も恐ろしいな...。納得したぜ...。」
睨んだ程度で威圧が漏れ出るなら怒った状態で威圧したらヤバイかもしれない。気を付けをよう。
「...怒らないか?」
「?」
「俺が話しても怒らないでくれるか?まだ死にたくないんだが。」
怒るような話しかは、聞いてみないとわからないが何故死ぬ?真剣に聞いてきたので頷いておく。
「わかった。...ゴクリ、昨日アラベスタが賢者様の弟子に会い、戦いを挑んだだろ?だがその仲間と戦うことになって、ぼろ負けした。あのアラベスタ以上に強かった。そして嬢ちゃんはそれ以上に強いんだろ?それを他の奴に話してほしくなかったんだろ?口止めをされたのに喋っちまった。」
アラベスタは訓練所での事を喋ってしまったらしい。元々ベアードとジルダにだけ話す筈が
興奮したアラベスタの声が思ったよりでかく回りのギルド職員に聞かれ、誰かはわからないが賢者の弟子は恐ろしく強いらしい、アラベスタを軽く超えている。と。
「聞いた後に青くなったジルダと俺もこれ以上広まらないようにギルド内だけに何とか留めた。ギルド内だけと言っても話していた場所がギルドの古株しか入れない所が幸いして口の固い数人だけだ。一応アラベスタだけでは対処できない場合があるといけないからこの部分は譲ってくれ。」
「いいですよ。」
「許せねぇのはわか......えっ、いいのか?」
「はい。変に誇張したり流されたりはしないようなら。あまり目立ちたくなかったのもあったんですけど...先程すでにやらかしましたから。」
「それはさっきジルダから聞いた。お嬢ちゃんが暴れたアレーナを軽く押さえ込んだって...。話を聞いた仲間がそれを見て興奮してたしな。獣人にヒューマンが素手で対処した、凄い腕だって。」
リゼル達を迎えに行った時にペコペコしていたギルド職員がいたな、あれか。
「俺はさっき嬢ちゃんが名乗った賢者の弟子が本当かジルダに聞きに行ったらよ、間違いないと聞いてジルダにこっぴどく叱られてよ。現場も離れちまったし、アラベスタが迷惑をかけた挙げ句、秘密にと言われた事も守れずにってな。これ以上嬢ちゃんを、煩わせたら離縁だと言われて怖くなっちまったんだ。ちゃんと嬢ちゃんにアラベスタの不始末を報告しなきゃいけないだろ?ジルダからの離縁は死んじまう。」
矢継ぎ早に色々と言われたが、訓練所での出来事は賢者の弟子なら有りだろうから別に良い。私がその賢者の弟子なのも隠してるどころか自分から広めているようなものなのでこれも問題ない。ただ......。
じっと見つめるとベアードがゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。
「アラベスタさんは、先程懲らしめたのでいいです。ジルダさんは大変だな~と応援の気持ちしかありません。」
「そっ、そうか。」
少しホッとしたのも束の間で私の視線がまだあるのにぎょっとする。
「ただ......」
「なっ、なんだ?」
「ベアードさんはジルダさんの夫?」
「...........ああ。」
聞かれた言葉に一瞬驚かれたが肯定された。それが一番の気になったところだ。
「親子程はなれているのでは?」
「俺はジルダと五つしか違わんぞ?」
見た目は熊親父さんにしか見えないベアードは21歳らしい。これは驚きだ。
良く見れば壮年だと思った顔は髭で隠れているので良く見えなかったが皺がない。髭を剃ればかなり若返るだろう。
「...失礼しました。」
「よく言われてるから構わん。こちらの不手際も許して貰えるんだろ?」
「ええ。」
軽く握手を交わし互いに良しとした。




