66、負の感情と狂化
注意、暴力的な言動があります。
シェリーダとラピスに一時的な別れを告げ、白の転移で獣王国の宿に戻ると部屋に掛けていた魔法を全て解除しリゼル達が待つ冒険者ギルドへと向かった。
市場で賑わう人々を余所目に中央の大通りを左に抜け旅装備や戦闘装備の人が多い通りに入る。
この通りは薬屋、魔石屋、装備屋、鍛冶屋等が並び金属を加工している音が響き渡り、薬草の香り漂う職人通りだ。
前回はバルバドスを馬車で待たせていたのもあり、通りの様子を見る余裕もなかったが、こうして見ると帝国アルネストよりも道が広く建物も大きく作られている。
獣人の中には体格が二メートル以上越える者も沢山いる為だろう、二十人歩いても余裕の広さだ。ハルルも確か二メートルは軽く越えていたはずだ。竜人種は身長の平均が二メートルが普通だと聞いたことがある。
通りの奥に冒険者ギルドが見えてきた。重みのある木の扉は開いていたのでそのまま入ろうとしたが、扉の影から何かが飛び出しキラリと光る物を私に向かって振り下ろした。
「なっ!!?何でよ!!!」
驚きに満ちた女性のヒステリックな声が横から聞こえる。
「このぉ!!!ふんっ!!!」
シュッ!シャッ!と両手に持った鋭いダガーーを私に向かって一生懸命振り下ろしている。
「何であんたみたいな弱々しい女が!!ダークエルフはまだ子供みたいだから一緒でも仕方ないとしても、アルネストの王子だけでなく何で英雄のハルル様まで仲間になってるのよ!!!どんな卑怯な手を使ったの!!」
よく見たらギルドで塩対応で受け付けしてくれた猫獣人の女性だった。ギルドの制服ではなくショートパンツとレザーアーマー姿で分からなかった。
茶まだらの猫耳や尻尾が興奮している為、毛が逆立っている。
「あんたを王子が庇った時、王子に殺気を込めて睨まれたり、ギルドを首になったり!!全部あんたのせいよ!!!その澄ました顔!グチャグチャにしてやるわ!!」
(え~、何それ?八つ当たりじゃん。それにしてもやたら興奮してるな~。あれ?冒険者ギルドって私闘は禁止じゃなかったっけ?よくわからん喧嘩を吹っ掛けられてるけど...、ていうか私闘通り越して犯罪じゃないのかなこれ?)
猫獣人の女性を見ながら色々考えていると更に憤怒してダガーを振り下ろす。ギルドなので回りにはギャラリーが沢山居て遠巻きに囲まれ、見せ物の様になっているが興奮した彼女は気づかない。
「私にはこの子達が張った結界があるから攻撃するだけ無駄だよ。それより、いいのかな?結界のスキル無効で[隠匿]が解除されてるけど。」
[隠匿]は盗賊、暗殺者が覚えやすいスキルで気付かれずに攻撃したりモンスターから盗みやすくなったり攻撃を回避できたりする便利なスキルだがPK等にも使われた事もある為、自律性を求められるスキルだ。
「黙れ!私の[隠匿]は完璧よ!あんたが一人で何か騒いでる様にしか見えなし、誰も私を認識できないわ!!それよりこのぉ!!!結界ぃ!!邪魔よぉぉ!!!」
ボブカットの茶色い髪を激しく振り乱しながら血走った目でダガーを一心不乱に結界につきさしている。
(通常ならそうだけど、白と黒の結界は外部からの物理無効、魔法無効、スキル無効だからね~、[隠匿]の効果が攻撃して結界に触れた時点で切れてるんだよね~。皆、見えてドン引きしてるよ~。)
「マスター、この獣人怖い。」
白が猫獣人の血走った目と般若のような顔を見て震えている。
「我が始末しましょうか?」
黒は冷たい目で彼女を一瞥しながら提案してくるが首を振り却下する。
私は彼女の通常をあまり知らないが、ここまで我を忘れて狂った様に攻撃してくる様子を見てイベントの魔王の事を思い出した。
「....うーん、もしかしたら...。」
未だに攻撃してくる彼女の両腕を掴み押さえると素早く彼女と額を合わせる。白と黒が結界を解除して私の両肩から降りた。
「[サーチ]」
彼女の内包魔力を探ると腹の奥底に暗く淀んだ魔力がみえる。
(...やっぱり、魔力の淀みによる狂化だ。ほんの少しだけど彼女に中にある。)
額を当てたままギッチリと腕を掴んでいるため頭突きに切り替えようとする彼女を解放し、背後に回って腕を捻り体を倒して押さえつける。ウグッと彼女が呻いたが構わず背中から[浄化]をこっそりかける。
「ううっ...殺す!殺す!殺ス!コロス!」
うつ伏せに押さえつけられた状態でも構わず暴れだし殺意を向けてくる。
彼女にかけている[浄化]の魔力を上げて流し込むと彼女の中にあった魔力の淀みが消えた。
暴れていた体から段々力が抜けていき最後には力を失くしガクリと彼女は気絶した。
「ふうっ、これでよし!」
彼女が気絶したので押さえ付けるのを止める。回りを見るとギャラリーが壁に沿って離れて近寄る気配はない。
「誰か、ギルマス知らない?」
私の問いかけに魔女の帽子を被ったクリーム色の肩までの髪と瞳をした可愛らしい羊獣人の少女魔法使いが恐る恐る近寄ると気絶した彼女を心配そうに見つめながら答えてくれた。
「あの...今、わたしの仲間が呼びに行ってます。私は彼女の冒険者仲間でマニマニといいます。...あの、アレーナはいったいどうしたんですか?急に気配を消して目の前から消えてしまって、探していたらいつの間にか貴女に襲いかかっている所で....。」
「私はエルノラ。彼女、アレーナっていうの?気絶しただけだから大丈夫だよ。どこかで魔力の淀みを受け入れちゃったみたいだね。昨日ギルドで受け付けをしてくれたんだけど嫌われてるみたいでね。負の感情と淀みが上手く合わさって狂化したって感じかな。」
気絶したアレーナを抱き起こし一緒にギルドの中にある救護室へと運び医師に預ける。
気絶以外、特に異常もないので気づいたら連絡をいれるのでギルド内に留まるように言われた為、マニマニと救護室の椅子に向かい合って座る。
丁度いいのでアレーナの事をマニマニに詳しく聞くと色々教えてくれた。
「アレーナとは一年前、共和国ハイクタで出会いました。もう一人の仲間のネネタヤと意気投合してギルドパーティーを組んだんです。その後、獣王国への荷物運びと護衛のギルド依頼を受けて一昨日ここへ着きました。一週間程滞在するつもりだとギルドに報告したら宿を格安で提供するので滞在する間、受け付けのバイトをお願いされました。順番で受けると了承したんですがアレーナが昨日、急に首にされたんです。少し様子がおかしかったので、アレーナに理由を聞いたら黙ったままで喋らず、仕方ないのでギルドに理由を聞けば、アレーナの態度が悪すぎるのが理由だと...。」
「昨日はアレーナが受け付け中に私と仲間に対して、自分も冒険者だ、自分の方が役にたてる。細っこい私ではすぐ死ぬと言いかけて、私の仲間に睨まれたんだよね、その後アラベスタさんとジルダさんが謝罪した後、ギルド職員を教育し直すからと言ってたんだけど短期バイトだから手っ取り早く切ったんだね。」
マニマニは青ざめて慌てて私に謝罪した。
「そんなことがあったなんて、申し訳ありません!仲間が大変失礼をいたしました。ギルドマスターからは簡単に話があっただけで詳しくは聞けなかったので...そんな酷いことを。」
額に手を当て疲れたように脱力したマニマニは悲しい顔をして項垂れていた。
「まあ、そっちは別にいいんだけど、今やらかした方が問題かな。確実に害するつもりみたいだったし。」
「...確かにマレーナは悪い事をしました。でも普段は人に危害を加えるような娘じゃないんです。」
「狂化が原因で実力行使にでたんだろうね。かなりの人に見られてるから私が許してもギルドから何かか制裁があるかもね。」
マニマニが下げていた頭を勢いよく上げるとまた驚いた顔でこちらをみる。
「えっ、エルノラさんは許すんですか?」
「...無傷だし。狙ったのは私だけだからまだ許せるよ、狂化は抗いがたいからね~。」
「その狂化というのは魔力の淀みが心を蝕み凶暴化するモンスターの状態ですよね。人でも起こるのですか?」
「起こるよ。魔力を持つ者は例外無くね。」
驚くマニマニは懐からペンとノートを取り出し、今言った言葉を書いていく。
―――――――バタン
救護室の扉が勢いよく開かれ入ってきたのは背中に弓を背負い、赤みがかったオレンジ色の髪を三つ編みにして両サイドで団子に結った黄色い瞳のヒューマン種狩人少女だった。




