61、一人目の竜巻 ハルル(青)
まず見えたのは、シーツで乱れた相変わらず綺麗な襟足が腰まで長いウルフカットの濃紺の髪と、少し尖った耳の後ろ辺りから頭に沿って伸びる角飾りが付いた細長い白い角だった。顔は下を向いているので見えない。
肩で止まったシーツを外して床に敷かれた絨毯に落とす。するとあの日、離れた時の装備姿のままだった。
四竜の装備セット、竜人には竜の装備だよね!と竜四匹(4種)のレアドロップを落とすまでランダムで無限に現れる竜を[竜の棲みか]と呼ばれるダンジョンで刈りまくり[無情の竜殺し]と呼ばれていた頃が懐かしい。心なしか竜の目が涙ぐんでいたような気もするが昔の話だ。
サポートキャラ達を連れ回しそれぞれに合った装備の素材を自分達の手で採らせ、ゲーム仲間から様々な数知れない通り名を付けられた。
過去を思い出していると抱き締められた腕が緩み下を向いていたハルルの顔がこちらを向く。
竜人の特徴的な金の瞳と縦に黒い瞳孔が私を映す。目尻にはうっすらと涙が浮かんでいた。
白い肌に両頬の蒼い鱗が目立つが違和感はなく整った顔立ちを更に凛とみせる。
先程の言動をしていたとは思えない様な落ち着きのあるクールな印象を受ける二十代後半の美青年だ。
「....我は眠っていたんだ、なのにメノウが起こして....グスッ」
クールビューティーが涙を浮かべ表情を崩す。
「はいはい、泣かない泣かない。」
よしよしと頭を撫でる。
「なんだ....ハルル殿、やはり顔見知りではないか。」
何が何だかと、ハルルが危害を加えようとするのを止めようとしていたバルバドスの気が抜けた声が聞こえる。
「あの攻撃はエルじゃなかったら危なかったよ!」
「エルが大丈夫だといったから見ていたが、普通のご令嬢だったらと考えると恐ろしいな。」
ナハトがハルルに抗議し、リゼルが起こり得た可能性に青ざめる。
「....誰?」
少し落ち着いたのかハルルが他に人がいたことに気づき段々顔が赤くなって私の後ろに隠れる。
「こらこら、エルノラ殿からいい加減に離れんか。こちらはエルノラ殿のギルドメンバーのリゼル殿とナハト殿だ。」
バルバドスが頑張って肩を掴み私から引き離そうとするが一ミリも動かない。
「ギルド....メンバー....エルノラちょっといい?」
全くバルバドスを気にせず私に話しかける。
「いいけど....?リゼル、ナハト、バルバドスさんちょっとスミマセン。」
ハルルに引っ張られながら三人に待ってもらい多少離れたベットの反対側の端まで移動する。バルバドスが多少落ち込んでいるがリゼルがフォローしているので大丈夫だろう。
「エルノラ会いたかった....話ではエルノラが目覚める頃に我らも目覚めると聞いてたから、メノウに起こされてまだエルノラが目覚めたか分からないと聞いて不安で....。」
「ごめんね、まさか私が起こしに行くつもりがメノウが先に目覚めているなんて思わなくてさ。」
「メノウは神に....今はエルノラが神だから前の神?にエルノラより早く目覚めるように頼んだのかも....。それよりも彼奴らは何?我はいらなくなった?」
ハルルがメノウの話題からいきなりリゼル達との関係に迫り不安そうな顔で尋ねてくる。
「まあ、成り行きでね。貴方達は昔から私の大事な仲間だよ。当分一緒に行動するけどハルルはどうする?あ~、私が女神だって事は面倒な事にならないように秘密でね。ちなみに賢者の弟子って事になってるから話を合わせてね。」
「....ん、我は勿論エルノラと一緒に行くよ。内緒は分かったけど何で賢者の弟子?賢者って今はメノウだけって聞いたよ?」
「はは、まあ色々あったのだよ。」
真っ直ぐに見つめられる目から視線がそらされるのは仕方ないだろう。
「....色々やらかしたんだね。適当に言ってそのまま認知されたんだね。」
察してくれたらしい。ゲームのサポートキャラではあったが人格設定をそのままにこの世界で生きていた様に前神様が転生させてくれたので彼らにとってはゲームの世界=現実で、他のプレーヤーの事以外は全て覚えておりその為、規格外だと(ゲーム時代でも現在でも)認識している。
「目覚めたばかりだったからね、まさかフィールドだけが発展してその他が忘れられてる何て思わなかったからさ~。誤魔化すのに賢者の弟子が丁度よかったんだよね~。賢者って色々出来るみたいだし。メノウが出来ることは私も出来るって思ってくれるでしょ。その他も賢者だからでなんとかなる。はず。」
「まあ....ね、確かに我ら以外の者達のレベルは低すぎる。先人達の教えを伝え直さなければいけないと思うよ。メノウから聞いた話だと色んな国で目立ったみたいだから昔使っていた魔法やスキルを賢者の弟子が使っても通じるかも。」
プレーヤーは先人という扱いらしい。あまり長く話しているとリゼル達も不信に思うだろう、ハルルを逃げられないよう掴む。
「とりあえず、自己紹介してよ。」
ハルルにそう言うと頬が段々染まっていく。
「エルノラの後ろにいながらでもいい?」
「隠れきれないと思うよ。」
私の頭を軽くそれでも良いらしい。私の背中に隠れ?ながらリゼル達に近付く。
「もういいのか?落ち着いたのか?」
リゼルが私の後ろに向かって話しかけると後ろにいるハルルがビクッとなる。
「ほら、私が認めた仲間なんだから大丈夫だよ。リゼル、ナハト。賢者の友達で私のお兄さん的?な人。」
促されて辛うじて私よりも少し前に出る。
「....わ、我は、ハルル。よろしく....?」
「俺はリゼル、よろしく。リゼと呼んでくれ、ハルルと呼んでいいか?」
ハルルはコクンと頷いた。
「僕はナハトと言います。ナトでいいです、ハルルさん。」
リゼルもナハトもハルルの態度は気にせず自己紹介する。
「ハルルは恥ずかしがりやだから慣れるまでは大目にみてね。」
「ふむ、ハルル殿はエルノラ殿に付いて行くのか?」
バルバドスがハルルに尋ねるとハルルは頷き私と繋いだ手にギュッと力を込める。
「エルノラと行く。」
真っ直ぐに見つめてくる瞳にバルバドスが僅かに綻ぶ。
「わかった、王にはそう伝えておこう。」
バルバドスの言葉にまだ少し低くなっていた姿勢を真っ直ぐに正すと右手を握り胸に当て角を見せるようにお辞儀した。
「世話になった。もしメノウが来たらエルノラと一緒に行ったと伝えて。」
バルバドスも同じ様に礼を返す。
「承知した。国への助力感謝する。そして貴族の無礼を代わりに謝罪する。今後余計な真似はさせないと誓おう、英雄殿。」
英雄に苦い顔をしたハルルとバルバドスが握手を交わしあった。
「しかし、先程は弟子など知らんと言っていたが何故だ?」
ギクリとしてハルルがバルバドスを見る。
「エルノラはメノウの弟子。間違いない。
あの時は弟子を名乗って我に近付いて来たのかと思った。牛獣人?女がメノウに紹介されたとか嘘をついたから余計にそう思った。バルバドスが騙されたのかと....。ゴメン。」
クールビューティーが目を反らしながらも素直に反省して落ち込む姿は長身男だが可愛らしく見える。
「いや、我も目を離している隙に不快な思いをさせたな。また会える日を楽しみにいている。」
「バルバドスの約束に期待してる。」
そして二人は握手した手を解放し互いに拳を軽くぶつけた。




