57、肘鉄にご注意
肘鉄を喰らったのは獣王都冒険者ギルドのギルドマスターであるアラベスタ・パイン。
灰色の髪で両サイドの髪が白く一房づつ色が変わっておりそれを三編みにして魔石が組み込まれた飾り紐で結ばれている。
顔には複数の傷跡が目立つがそれが歴戦を物語っていた。獣人らしく無駄の無い闘う為の筋肉は美しく肘鉄に悶えてなければシワの在る顔立ちもワイルドで男らしい中年美形だ。
そして肘鉄を喰らわせたのは彼の娘であるジルダ・パイン。
アラベスタと同じく灰色の少し波がかった首元までの髪に片方を組み紐で飾って受付ギルド嬢達と同じ青い服(おそらく同じ形なので制服)を来ている。
華奢な見た目の美人だが獣人だけあって力は強い様だ。軽く自己紹介を交わして本題に入る。
「先程は当ギルドの職員が失礼いたしました。厳重に注意し二度とこのような事が無い様に教育いたしますので御許し下さい。」
先程のやり取りを見ていたのだろうジルダは丁寧に謝罪をのべ深く頭を下げてくれた。
その際伏せられた狼耳が目の前にきたら目が触りたいと訴えてしまっても仕方ない。
だが獣人の耳や尻尾は家族や伴侶等しか触らせる事は無く、子供の頭を撫でる際のちょっと触れてしまった程度なら許されるがガッツリ耳や尻尾を掴んだり直接触れるのは犯罪なので気を付けなければならない。本人が希望すれば別だが、それ以外はセクハラになるので気を付けましょう。
「すまねぇな、ネェちゃん。獣人の女はレベルの高い男に鼻が利くからな~しかも美形だからな。それを連れてるネェちゃんに身の程も知らずケンカを吹っ掛けやがったんだ、ちょっと見ればネェちゃんの方がヤバイってわかんのによ。」
アラベスタが私を見てニヤッと笑った。
「では書類をお預かりいたします。」
ジルダが書類を回収して、中身を確認している。
「ドルタスから聞いてるぜ~、マウントスネークをしかも特殊個体を一人で倒す程の実力らしいじゃねぇか、ちょっとお手合わせしてくれねぇか?なんならリゼルだっけか?アイツの甥っ子なんだろ?お前も順番に相手になるからよ~。」
「マスター、備品を壊したら給料から多めに天引きしますからね。」
「まじか!?....だが闘いたい!」
「はぁ、エルノラ様、リゼル様、ナハト様、申し訳ありませんがマスターの実力試しは終わるまで付きまとわれますので一度お付き合いください。怪我などの治療や制限はある程度保証されますので通らなければならない道だと思って諦めて下さい。」
「....バルバドスさんを魔石商店前の馬車で、待たせてるのですが。」
「ん、そうなのか?...............」
アラベスタが目を閉じ無言になる。と、目を開きこちらにニヤッと笑みを向けた。
「今、心話で話したから大丈夫だ。まさかバルバドスと知り合いとはな~。」
「「心話?」」
リゼルとナハトが揃ってアラベスタに反応する。
「知らねぇのか?パーティーを組むと離れていても心で会話できるんだぜ。パーティーランクがSSランクになると使える様になるんだが....ちがったか?」
「「SSランク!?」」
「マスターは昔、バルバドス様とドルタス様とパーティーを永らく組んでいた事があるんですけどその時に火竜を倒した功績を称えられSSランクを与えられたんです。」
「へぇ、ドルタスさんがSSランクなのは知っていたがアラベスタさんとバルバドスさんとパーティーを組んでいたのは初耳だったな。」
「今じゃあSSランクは俺達以外にいないし、成れるようなギルドパーティーも聞かないからな、精々A止まりだな。だからお前達には期待してるんだぜぇ....。」
「僕たちも心話できる様になる?」
アラベスタとリゼルのやり取りを聞いてナハトが私に聞いてくる。
「う~ん、心話は[以心伝心]のスキルだからな~。」
「[以心伝心]?」
「長く一緒にいると相手の伝えたい事がなんとなく分かる様になるんだけどそれの上位版かな。」
「長く一緒にいればいいってこと?」
「そうだね、SSはいかなくてもSまでいけば可能かも。相手を思い浮かべて話しかければ心話が繋がる可能性があるね。」
「........」
私の言葉にナハトは目を閉じ静かになる。
数秒だって目を開いた。
「エルノラ、聞こえた?」
「いいや、まだ無理かな。」
ガックリと肩を落とすナハトを慰める。
使える様にするのは簡単だが女神の力に頼るより自分で使える様になった方が調整がきくため後々でいいだろう。
下手に使えるようにすると戦闘中に気が散ったり考えていることが駄々漏れになったりすると大変だ。スキルを取得した後、使用を重ねレベルを上げて自然にできる様になるのがSSまでかかるかSには出来るかぐらいだろう。
「さあ!こっちに訓練場が在るから移動するぞ!」
ウキウキと向かおうとするアラベスタをジルダが素早く肘鉄を腹に喰らわせる。
「ガフッ!」
「もう少し待て!エルノラ様、こちらが今回の報酬でございます。」
目の前に提示された金額は報酬金の10倍だった。リゼルとナハトと顔を合わせギョッとした。
「0が一個多いですよ?」
報酬金額は確か1000グルーだったはずだが提示された金額は10000グルー。見間違いはない。
「先程、使いの方がいらっしゃり報酬の追加申請が通りましたのでこの金額になります。減額は認められませんが仕事の追加報酬は認められておりますので問題ありません。良い仕事をなさいましたね!....見習え。」
見えない所で沈んでいる実の父をつま先で蹴ったらさすがに可哀想だよ。
「おほほほ、ではギルドカードから皆さんに分配して記録いたしますね。マスター、もう良いですよ。」
ジルダの言葉にアラベスタが何事も無かったようにシュタっと立ち上がり嬉しそうにじゃあこっちだ!と案内を始める。
ジルダはギルドカードを返したあとにこやかに送り出してくれた。




