56、獣王国冒険者ギルドへ
「まだ時間はある。この通りの奥にギルドがあるから行ってくるといい。」
バルバドスに言われて魔石商の在る大通りから十字に左へ入る通りを案内される。
馬車で待っているからと見送られリゼル、ナハト、私の三人でアルネストのギルドより入り口が二倍の縦にも横にも広い立派な獣王都ゼノイン冒険者ギルドの扉を開く。
ギギギギィ――――――と重い扉が開き木の暖かな雰囲気が漂うホールが見える。ホールの中央には円形に受付が置かれ四人の獣人女性がにこやかに接客していた。
そのまま受付まで行き順番を待つ。
「帝都アルネスの冒険者ギルドはヒューマン種ばかりでしたけどゼノインのギルドは獣人がほとんどですね。僕の様なダークエルフは街を見ててもあんまり見かけませんでした。ギルドなら見かけるかもと思ったんですが....。」
確かに様々な獣人が色々な職種でギルドを歩いているのが見えるがエルフ族やヒューマン族は片手で足りる程しか見かけない。ダークエルフ等の魔族種は今の所まだ見ていない。少し大きくなったナハトの頭をポンポンして慰める。
「前はアルネスの街にも魔族種達がいたんだが永らく不在だった魔王様が新しく就任されるとかで魔国バルデナの冒険者ギルドから召集がかかったらしくてな、その後暫くしてから海竜が海域で暴れる様になったから俺たちの様に迂回してるんだと思う。魔国に近付けば見るようになると思うぞ。」
《マスター。そういえば、マスターが目覚められる少し前にマスターが倒された魔王が甦りました。とりあえず判断を仰ごうと封印していたのですがいつの間にか消失していまして....かなり探したのですが見つかりませんでしたので封印を破るのに力を使い消滅したのではないかと。》
黒が心話で報告してくる。リゼルの指す魔王は魔族の代表者であり、敵でもモンスターでもない。
黒の指す魔王はゲームイベントである[闇に染まった魔王は狂化する]で登場したボス。
魔力の淀みを身体に取り込んでしまった魔王が狂化して暴れているのを退治するイベントで限定魔石[闇王の輝石]が手に入る。
この限定魔石は私の愛剣を改造するのに必要なアイテムの一つだったので覚えているが復活なんて情報はなかったはずだ。
《その報告は聞いたっけ?》
《伝えようとしたのですがマスターが寝てしまわれたので寝息を聞いてる内に忘れてしまいました。》
《.....あの時か!?黒、後でお仕置きね。》
《ありがとうございます!!》
《...........》
黒にとってはお仕置きじゃないな、黒の前で白を可愛がろう。それが一番のお仕置きだね。
受付の順番が来た。受付の猫獣人女性が頬を染め私を睨みつけながら接客を始める。何かしただろうか?
「いらっしゃいませ冒険者ギルドへようこそ、本日のご用件は?」
睨みつけられたのは一瞬で後は私の頭より上に視線が向いている。どうやらリゼルを見ている様だ。まあ美形だしね。
薄金髪はさらさらでサイド長めの短髪。前髪は半分髪を掻き上げてピンで止めており薄紫色の瞳は優しい色合いだが目はシャープでキリリとしている。高い鼻梁に薄い唇は気品があり王子そのものです、はい。
ちなみにナハトも濃い銀髪の髪を肩で切り揃え、まだ幼さの残る顔立ちに知性溢れる落ち着いた紅い瞳は将来有望確定美形になるだろう。
「依頼の達成完了の手続きをお願いします。」
私が紙を差し出すと猫獣人女性がちらっと視線を寄越し紙を受けとる。
「荷物運搬の依頼ですね。達成確認いたしました。こちらの紙とこちらの紙を報酬受け取り窓口にお見せください。....」
棒読みで愛想も無く粗雑に紙を投げ出され置かれる。それを全く気にせず受け取る。
「ありがとうございます。」
渾身の微笑みで礼を返す、と回りがざわついた。それを確認しようとしたら視界が塞がれる。
「?」
私と同じ位の大きさの手に左手を握られ、目は大きな筋張った手に遮られ右耳からリゼルの声が吐息と共に聞こえる。
「俺達以外に微笑まないでくれ。」
ギャァーーーーーーーーーー!
思わず心の中で叫んでしまった。
私はゲームに人生を捧げてきた天涯孤独のロンリーガールなのだ。殿方は好きだが免疫はほぼ無い。いや、皆無。
黒、白の人型にも、いまだ慣れずにいる。
仲間としては問題ないのだが、恋愛要素が入ると緊張してしまうのだ。
「あの!私も冒険者なんです!彼女より私の方が役に立てます!こんな細っこい体じゃあ直ぐ死...!?」
猫獣人女性がリゼルに何か言っているが途中で黙ってしまう。未だに目を隠されているので状況は見えない。
「僕たちは急いでいるので失礼します。」
若干苛立っているように聞こえるナハトの声が聞こえる。握られた手に少し力がこもった。
「よく知りもしない相手にその態度はギルドの職員としてどうかと思うよ。」
どうやら猫獣人女性からの悪意から守ってくれているようだ。捨て台詞を残してリゼルが目隠しされている私をその場から離すために肩を抱き誘導する。
「リゼル、こっちが窓口だよ。」
私の左手を握って誘導しているのはナハトだった。少し受付から離れた所で目隠ししているリゼルの手をポンポンと軽く叩く。
「もう、いいと思いますよ。」
ナハトの声が確認するように言うと手がどかされる。
「すまない、エルノラ。ちょっと態度が許せなかった。」
目立ちたくないのに悪いなとリゼルが謝る。
「いえ、ありがとうございます....」
つい敬語になってしまった。
極一部から鋭い殺気を感じるが他は特に気にしていないようなので対して目立っていないだろう。
むしろ目が合うと不自然にギルドにいる冒険者達の目が慌ててそらされる。主に男性が。
「早く報酬を貰ってバルバドス様の所に行こうよエルノラ。」
繋いだままの手を引っ張り窓口へとナハトが急ぐ。窓口には灰色の髪をした狼獣人男性が肘を付いて暇そうに座り、その隣にはその男性に似た獣人女性が欠伸をした狼獣人男性の脇腹に肘を勢いよく突いて男性を悶絶させていた。




