29、ナハト
騎士団医療所に来てドアを開けたら私の腹に衝撃が走った。
ボスッ
目線を下にやると銀色の頭が見える。
「...目が覚めたみたいだね?」
私の言葉に銀色の頭は答えず腰にギュッと圧迫感がきた。
「先ほど目覚められましたよ。動かないので人形かと疑いそうでしたが、エルノラ様が見えた後の動きは速かったですね。」
そのままでお願いします。ギナマが色々と診察をはじめる。頭が腹に固定されているため顔は見えないが身体に問題はないようだ。
「大丈夫ですね。念のため1日こちらでまだお預かりしますね。」
ギナマの言葉にまた腹に衝撃が走る。
グリグリグリグリ
銀髪が右、左と高速移動する。
「ぐう...こらこら。」
「ギナマ先生、この子は騎士団の方に探し人の依頼のが無かったのですが...」
「奴隷の首輪を着けられているのと年齢からみて売られたか拐われたかですが.....どちらにしてもアルネストだけではなく他国にも問い合わせるべきですね。本人にも聞きたい所ですが首輪の効果で一時的に沈黙が治ってもまた沈黙状態になってしまうみたいで...。」
前に一度沈黙を治療した時、目覚めたら色々と聞きたかったのだが泣き出して魔力暴走を起こしてまた眠ってしまったので聞くことも出来ず状態を診たらまた沈黙状態に戻っていた。
ギナマが数枚の紙を見ながら書かれている文字を目で追っていく。
「とりあえず、奴隷の首輪を外さなければいけません。契約書は捕まえられた誘拐犯達は持っていない。アルネストでは珍しいこの子を闇市場で、見かけてそこから誘拐した。と報告書にあります。」
ギナマが紙をリゼルに渡す。
リゼルは紙に目を通しある一文で目を止める。
「首輪の刻印は[魔女の宴]のもので間違いないとある。なら本拠地があるとされる魔国バルテナに契約書がある可能性が...だがこちらで売るつもりなら契約書は持ってきているか?」
リゼルとギナマが考えている間にダークエルフの子に話しかける。
「ねえ、君。」
私の呼び掛けにお腹に埋めていた顔をこちらにむけるとパッチリと開かれた紅い瞳と目があう。
「君の首輪を取っていい?」
私の言葉に驚いているのか更に瞳を見開く。そしてコクンと頷いた。
それを見て人指し指に魔力を籠めて首輪の繋ぎめの無い金具の部分に指を当て[解放]と唱える。
その言葉に反応して魔力が金具に浸透していく、刻印に沿って魔力が走りそしてカチリと音がして金具に切れ目が入りポトリと外れて落ちた。
「ありがとう、お姉ちゃん。」
まだ幼い可愛らしい声が聞こえた。
「「えっ!!」」
リゼルとギナマが驚きの声をあげる。
私と子供と外れた首輪をみてまた驚いていた。
「エルノラ!解放魔法まで使えるのか?」
「やはり秘伝書には賢者に至るまでの素晴らしい魔法や知識が...早く熟読しなければ~!!」
ギナマ先生、渡した本は[医療の真髄]、賢者になるには神官と魔術師をマスターしないとなれません。
使う魔法はリゼルに一度聞いてからにした方がいいかもしれない、とリゼルに肩を捕まれ揺さぶられながらそう思った。
「ギナマ先生、この子さえ善ければ私が預かっても問題ないですか?」
未だに私から離れないこの子は更に回した手の力を込めた。
そろそろ背骨がミシミシいいそうですよ。私の防御パラは高いので全く問題ないがなんとなくそう思う。
「まあ、元気そうですしエルノラ様も治癒術が使えますから預けるのには問題ないですが連れ出すとなると...」
しばし考えた後頷いて、
「探し人の依頼が無いのは迎えが来ないって事だし、しかも闇市場から拐われて来たって事は見つかったら口封じに殺される可能性が高いか知らぬ存ぜぬで通されますね。奴等は表に出てきませんから。違法ですしね。」
リゼルが首輪が外れた以上奴等は関わらないだろうなとも話していた。
私はダークエルフの子供の肩に手を置き体からゆっくり離れさせると目線を合わせるためしゃがむ。
「君の名前を聞いてもいい?」
私の言葉に首を横に振り紅い瞳を潤ませる。
「わか...ない。」
「何か分かる事はある?」
「...気づいたら暗い所にいた。...変な匂いがいっぱいして、女の人に首輪つけられて...体がずっと重たくて声も出なかった。檻の箱にいれられて...出されたら眠くなって、起きたらここにいた。それより前は思い出せない...。」
闇市場にいたより前の記憶が無いようだ。震えている体を抱きしめ頭を撫でる。
「君の名前、私がつけてもいい?」
「はい。」
「ナハトはどうかな?」
ダークエルフで銀色の髪が大人になればさぞ夜に栄えるだろう。夜をイメージしてみたがダメかな?
「はい!ナハトでいいです。ありがとうございますお姉さん。」
「ナハト、私の事はエルノラでいいよ。こっちはリゼルディスでギナマ先生だよ。」
「俺もリゼルでいい。よろしくナハト。」
「ギナマです。ナハト君はこれからどうしたいですか?ここに残り時間がかかりますが各国からの連絡を待つか、エルノラ様に付いて自分で各国に行くかですが。」
「こっちも旅をしながらだから危険が全くないとは言えないし、ナハトの事を知っている人と上手く会える保証もないけどね。」
「ナハトが自分で決めるといい。」
ナハトはあまり悩まずこちらを見る。
「一緒に行きます。連れていってください。もし迎えが来ても知り合いかどうか分かりません。それに何となくですけど一緒にいけば僕が誰なのか分かる気がするんです...確信はないけど...。」
だんだん語尾に元気が失くなっていく。
「じゃあ、よろしくね。とりあえず今日は宿に戻ろう。明日、旅の支度をして行き先を決めようね。出発は明後日で。」
「騎士団の方には私が連絡しておきます。エルノラ様と、リゼル様が一緒なら大丈夫ですね。こちらでも、何か分かりましたら連絡致します。」
事後処理をギナマ先生に任せ私はナハトとリゼルと共に日が沈むなか[日だまりの宿]に向かった。




