26、目覚めた眠り姫
王城客間で私はまた待たされているが、前回とは違い一人ではない。リゼルやタルナが居るのでもない。先程までメイドさんが給仕してくれたがお茶を出して直ぐ部屋を出ていった。
今、私のテーブルを挟んだ向かいの椅子には男性が二人座っている。紅茶の入ったティーカップを片手に一人は足を組みニコニコとこちらを見ながら飲んでいる。もう一人は眼鏡を掛けており足が当たらないように反対の足を組み目をつぶって紅茶を楽しんでいる。美形は絵になるな。
ニコニコした男性は濃い金の髪を後ろに流した短い髪で王様に似た三十代位、詰襟の群青に金の刺繍が入った軍服を着ている。
眼鏡を掛けている男性は二十代後半位でこちらは王妃様に似ていると思う。濃い金の腰まである髪をひとつに束ねて前に垂らしており、品のある白いシャツには襟と揺ったりとした袖口にもフリルがあり高級そうだ。黒いパンツスタイルで黒い短めのマントが肩からかかっている。
「初めまして、エルノラ嬢。私は王太子シルベスタ・バラノート・フォン・アルネスト。」
「初めまして、私は第二王子のフォルツ・バラノート・フォン・アルネスト。」
ニコニコしていたのが王太子で眼鏡の方が第二王子。
ティーカップをテーブルに置き挨拶を返す。
「賢者の弟子で旅をしておりますエルノラと申します。知らずてはいえ無作法で申し訳ありません。」
私の言葉にフォルツが少し口元を緩めた。
「エルノラ殿、こちらが先に無作法をしたのだ。申し訳ない。シル兄上がどうしても会ってみたいと...」
「フォル?お前も乗り気だったよね?何自分だけ関係ないみたいな言い方してんの?母上にあの事報告するよ?」
「あの事ってまさか...いやだな~、兄上私も会いたいと思っていたと続けるつもりでしたよ~ハハハハ。」
王太子は黒い笑顔ができる人物のようだ。
「さて、もうすぐ父と母が来るから我々は失礼するよ。」
「そうですね。まだ兄上の印が必要な書類が沢山ありますからね。私の部屋に山積みですからね。」
では失礼するよ。と二人は部屋を後にした。
何気にスルーされてますねフォルツ様。
直ぐにメイドさんが来て私以外のカップを片付けて誰も居なかったかのように綺麗にして出ていった。素晴らしい仕事ぶりですね。
「五人兄妹か...」
紅茶が飲み終わりカップを置くとコンコンと扉がノックされた。
「エルノラ様、失礼致します。」
ガチャと扉が開き前に給仕してくれた50代ぐらいのメイドさんが現れる。
扉を開け入ってくるとピタリと止まる。
「シル様とフォル様が居らしていたみたいですね。」
凄い!何故分かったんだ?
「フフッ、何故分かったかですか?」
顔に出ていたらしい。自分の顔が少し火照る。
「二人の香の匂いがしますから。まったく、次期国王と次期宰相様だというのに...」
やれやれといった感じで首をふっている。
「王妃様にご報告ですね。エルノラ様、姫様のお部屋で皆様お待ちしております。ご案内致しますね。お待たせして申し訳ありません。」
メイドさんが姫様の部屋へ案内してくれる。二回目だが私は確実に迷子になりそうだ。
「坊っちゃま達が申し訳ありせん。姫君のハルネーゼ様を溺愛しているので呪いをかけられた事にとてもお怒りでした。助けたくても手をこまねいているしかなく、とても歯痒い思いをされていたのです。」
案内されながら乳母であったメイドさんが王太子達の行動を謝罪してくれる。
「そんななかエルノラ様が姫様の呪いの解呪して頂けるとお聞きしてお二方とも職務を放り出し賢者様のお弟子様を一目みたいと言い出して王妃様がお怒りになって...邪魔だと...こほん...お邪魔してはご迷惑とお部屋に閉じ込め見張りを付けたのですがいつの間にか抜け出されたようなのです。」
職務放り出したら駄目だろ、王妃様も閉じ込めたらいけないね。でもそれを抜け出すあの二人は案外常習犯なんだろう。
見張りの方大変ですね。
「私ったら余計なことを...失礼致しました。こちらが姫様のお部屋でございます。」
曖昧に微笑んでおく。
メイドさんが扉をノックしたあとお連れ致しました。と扉を開けて進んでいくので後をついていく。
そこには相変わらずベッドで眠るハルネーゼ姫とそのベッドを囲むように王様、王妃様、ギナマ医師、クラウネス、リゼルがいた。
タルナは王太子と第二王子を王妃様の命令で確保しに行ったたらしい。
「エルノラ殿、お願いします。」
王様が緊張した面持ちで頭を下げる。
「...わかりました。クラウネス様アルネイラの花をここに。」
クラウネスが保存箱からアルネイラの花を取り出し私の手へのせる。
片手で鞄に手を突っ込み乳鉢と聖水を取り出す。
乳鉢にアルネイラの花びら以外を入れ潰し聖水を注ぐ。花びらを氷魔法でフリーズドライにして粉々にしたものを混ぜ瓶に移し火の魔法で少し温める。
すると汚い緑色に紅が散ったような色合いが綺麗に澄んだ液体になる。
「できました。これを飲ませてください。」
クラウネスが薬を受けとると王妃様に渡した。
王様がハルネーゼ姫を抱き起こし支える。
そこに王妃様が薬を口元に持っていこうとするが手が震えて定まらない。
王様が王妃様の手に自身の手を添えてハルネーゼ姫の口に薬をゆっくり流し込む。
ハルネーゼ姫の白い喉が動いた。
「う....ん.......」
美しい眉がしかめられ、瞼がゆっくりと持ち上がる。そして綺麗な青い瞳が現れた。
「....お父様?....お母様?」
パチパチと長いまつげが動く、泣きそうに自分を見ている二人の顔を不思議に思ったのだろう。そしてゆっくりと回りを見渡す。
「クラウ兄さま、リゼル兄さま、ギナマ先生までどうしたんですか?」
クラウネスとギナマも泣きそうな顔で見ている。リゼルと私だけがにっこり笑っていた。
「???」
コテンと首をかしげるハルネーゼ姫を王様、王妃様、クラウネスが抱きしめ、ギナマは涙を流し良かった良かったと頷いていた。
そしてリゼルを見ると丁度視線が合い、
「エルノラ、ありがとう。」
と美形の本気スマイルを頂いたのだった。




