16、眠り姫
始まりは一年ほど前。
ハルネーゼは興奮していた。
「お母様!こちらですか!?」
「まあ。ハルネーゼ大きな声を出してはしたない。」
窘める王妃の言葉に少し落ち着きを見せると
改めて聞き直す。
「失礼致しました。ごきげんようお母様、私の婚約が決まったとお聞きしましたがどなたかご存知でしょうか?」
なるべく顔がひきつらない様にニッコリとお聞きする。
「あら、まだ聞いていないの?」
「お父様にお聞きする前にお客様がいらしてそちらに向かわれました、ですから聞いておりません。」
タイミング悪く聞けなかった自分の婚約者が、誰なのかすごくすご~く気になる。
「獣王国のフレデール様よ。」
獣王国は厳つい体のつきの多い多種多様な獣人の王国で代々獅子王が勇ましく国を治めている。動物とは別物で人間種からの進化等、人に友好むしろ大好きな種族で大帝国アルネストとは建国以来の付き合いだ。
獣王国のフレデールは獅子王の第一子、王太子でハルネーゼとは幼なじみの仲だ。黄金色の髪と少し浅黒い肌をもつ獣耳が頭に着いた美丈夫に育ったとお兄様に聞いていた。
だからこそ他国から沢山の求婚者が殺到していると聞いていたが幼なじみは昔の約束をおぼえていてくれた。
[大きくなったら必ずお嫁さんにするよ!]
[本当に?早く大人になりたいわ!]
まだ小さい頃そんな約束をした二人の口約束を覚えていてくれた。
「フレデール様のお嫁さんになれるのですね、お母様!!」
「ふふふ、よかったわね~。式は二年後の貴方の誕生日を迎えた三日後よ。」
成人は18歳を迎えた三日後。
ハルネーゼはその時が来るのを心待ちにしていた。
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その日は婚約のお祝いを国中でしているところだった。沢山のお祝いの品が届きハルネーゼに届けられる。
その中に気になる箱があった。
小さめな箱に可愛らしいリボンで飾られたその箱はキラキラと光っているように見えた。
ハルネーゼはその箱を持って自室に下がると検分されている箱なので疑うことなく開けていく。箱の中にはカードと金で出来た台座に赤い小さな宝石を回りに飾り中央に大きめな金剛石が嵌め込まれた指輪が入っていた。
「綺麗..、[貴方の幸せを願って]」
カードには名前がなかった。でもそんな事が気にならないほど指輪に惹かれていた。ハルネーゼは指輪を箱から取り出し指に填めて光にかざす。
「あれ...?」
なぜか瞼が異様に重く感じる。
立っていられなくなり、崩れるように自室のベッドに倒れこんだ。
(フレデール....さ...ま)
ハルネーゼが完全に瞳を閉じた頃、魔術師であるクラウネスは微々たる魔力を感じていた。
(王宮内で何かの魔法が発動した?)
すぐに父王に報告し、その場を辞すると先に部屋に戻ったハルネーゼの様子を確かめさせる。
確かめに行った使用人が青い顔をして戻ってきたのを見て急いでクラウネスもハルネーゼのもとへ急ぐ。
「なんて事だ!!王と王妃に報告を!決して客人に悟られるな。あと医者をよこせ!」
すぐに警戒体制を整え兄達にも報告する。
ただ眠っているだけに見えたが、呼び声にも起きないし着替えてもいない状況は明らかにおかしい。
すぐに呼ばれた医者が来て診察したが
「眠っているだけです。他に以上は見当たりません。」
何も異常はないといった。ならばやはり魔法の発動が関係あるかもしれないがあまりに微々たる魔力だったので今は感じない。
「ハルネーゼ、何があったんだ...?」
その時一人の男がひょっこりと顔を出した。
「眠りの呪いにかかってるな~、姫さん。」
クラウネスは男を知っていた。確か煌国の客人で賢者をしている男だと父王に聞いた。
旅の途中で明日旅立つと父王が残念そうに話していた。
「何かご存知なのですか賢者様!?」
「いや、見ることができるだけだ。呪いにかかってるのは分かるが対処は出来ん。」
「そんな、何とかできないのですか?」
すがるように聞くが旅の賢者は首を振るだけだった。眠っているので体の時間は停めておいた方がよいとその為のアイテムを授けて次の日には旅立ってしまった。
ハルネーゼはそれから体の時間を停めずっと眠っている。王と王妃はハルネーゼが眠っていることを各国にマリッジブルーで部屋で引きこもったと隠し、兄達は其々呪いを解く方法を探しクラウネスは自分で解呪できないか研究し始めた。
リゼルディスは聖騎士たちと書庫を漁り呪いを解く方法を探していた。