153、Good luck in my world
軽々と私を脇に抱えたままリゼルは研究所をあとにすると港方面へと駆けていく。
「まさか、船で行く気じゃないよね?」
「えっ、船で行くつもりだぞ?」
何言ってるんだ?と、さも当たり前の様に返してきたが相手は海竜で戦う場所は海の上、船で言行ったら間違いなく暴れている海竜に転覆させられるだろう。
「じつは、近々ハルネーゼが結婚するらしいんだ。」
「えっ!成人してからじゃなかったっけ?」
「アルネストでは18歳が成人だけど、獣王国ゼノンでは16歳が成人らしい。それで皇太子が早く一緒になりたいと直談判とハルネーゼに改めてプロポーズをしたらしい。ハルネーゼも喜んで受けて、アルネストは今大急ぎで準備をしているそうだ。」
懐から一枚の金に縁取られた真っ白い封筒を取り出しこちらに渡した。抱えられたまま読まなければいけないらしい。
「拝啓、お兄様。直ぐお嫁に行くことになりました。海竜が暴れているので結婚式につける筈の魔国産のフェアリーベールが届きません。上のお兄様達が海へ乗り出そうとしましたがお父様とお母様に監禁されました。こうなったら私が行くしかありません。どうやったらお城を抜け出せますか?....お兄様が結婚式に出席してくださるのを楽しみにしています。 ハルネーゼ。」
まあ、色々と気になる所があるが自分で行くのはかなり無理があるだろう。王様と王妃様の苦労が目に浮かぶようだ。
「手紙を受け取ったのはかなり前で、あれから色々あったから諦めてたんだが、海竜がいるってことはまだ間に合うだろ?港の荷物にフェアリーベールが保管されているはずだからそれを届けて結婚式に出席しよう!」
なんか新しいミッションみたいに言っているが、結婚式の出席もベールを届ける事も別にかまわない。ハルネーゼが脱走するのを企むようなお転婆さんだったのは驚きだが....。
問題は船で行くことだ。私とリゼルは一応ヒューマン種族で羽なし。船が転覆しようものなら間違いなく死ぬ。まあ、死んでも肉体だけで神界に帰るだけだけど。
「船はどうするのさ!?海竜に襲われるんじゃ誰も出してくれないでしょう?それにもし出られても沈んだらどうするのさ!」
«マスター、僕がいるから大丈夫だよ。»
いつの間にかリゼルの頭にしがみついている白が僕の上に乗れば大丈夫だね。とかリゼルと話をどんどん進めている。
「海竜を見かけたら白に乗って退治すればいけるんじゃないか?」
«問題は出てこない可能性もあるけどね。»
二人の中が縮まっているのは喜ばしいことだが....なんだろう、この疎外感は脇に抱えられてるからだろうか。
「じゃあ、問題ないな!」
«問題なーし!»
「リゼ....強くなってハイになってるのかも、よし今夜こっそり制限付きのアクセサリーをつけよう。」
うんうん、そうしよう。白には今一度教育的指導をするしかない。ふふふ......。
「なんかー、悪寒がするぞー。」
«おかしいなー、この世界には僕らを脅かす敵はもういない筈だけど、悪寒が止まらない。»
青ざめながらも足を止めないリゼル達に今後の事を考え、ブツブツとひとり呟きながらニヤリと笑う私の顔を道行く人達が不吉な悪鬼の微笑みを見たと、神に縋り祈りを捧げたとか捧げなかったとか。
のちに、漁師や商人達を苦しめていた海竜を素手で掴んで3枚に卸したとか、獣王国ゼノンで勇者が英雄のモンスター討伐数を数刻で塗り替えたとか、滅んだはずの聖王国ファルネに女神が降臨し神の国を作ったとか色々なことが起こるのだがそれはまた未来の話。
「私は!この世界を!普通に!冒険したいんだってばーーーーーーーーーー!!!!」
最後まで読んでくださりありがとうございました。m(_ _)m