152、魔女の処遇
目覚めたアルアネシスには記憶が無かった。
「レアルお姉様や私の事も覚えていないようです。自分の事は両親と出掛けた所までで、その後に起こったことはわからないと....」
ルイーンの魂と同化した影響がでたので間違いないだろう。アルアネシスは本当に何も覚えておらず、ボンヤリとこちらをみていた。そっと近寄り頬に手を当ててもキョトンとするだけで嫌がる素振りもない。
サジェスタがアルアネシスの肩を抱き隣に腰掛けるとアルアネシスは嬉しそうにお姉様と笑いかけ頭を擦り寄せた。
「..記憶を失くしたおね、..この子は私が面倒を見ますから罪人として連れて行くのはどうかお止め下さい!」
「僕からもお願いします!この研究所は僕の家でもあるのでサジェスタとアルアネシス二人をここで保護できます。」
ラナージも二人の前に立ち私に訴えかける。
「エル...よく状況がわからないけど、どうするんだ?」
困った顔でこちらをみるリゼルに私は首を振る。
コンコン
絶妙なタイミングで扉がノックされると、ラナージが確認に行き、その場に膝をつく。
扉が開かれると、入ってきたのは魔王になったばかりのチェルナス。共を連れずに一人で訪れたようだ。
「めが...ゴホン、エルノラ様。連絡を受け参上いたしました。」
チェルナスは左肩にのった妖精ファルファに目を向けた後、こちらに向って頭を下げた。
「?魔王様、エルノラ様とお知り合いなのですか〜?」
ファルファが只の冒険者に頭を下げたのを不思議に思っているようで、チェルナスがしまった!と顔に出た。
「あ〜、エルノラ様は勇者様で〜、悪い魔女を退治するのに協力をして頂いたのだ。」
可愛らしいクリクリのお目々がパチリ、パチリとして輝いた。
「あの!魂から嫌な気配のする魔女を退治してくれたのですか〜!!素晴らしい勇者様です〜!!」
パチパチと手を叩きフワリと浮かぶとチェルナスの周りを飛び回る。それを温かい眼差しで愛おしそうに見ているチェルナス。
が、奥にいるアルアネシスを見て、チェルナスとファルファが固まった。
「.....いる........?」
「あれは、器よ。もう嫌な気配は感じないでしょ?」
私の言葉にファルファが恐る恐る飛んで近付きアルアネシスの前へと向かった。
「.......本当です〜、感じないですね〜。」
チェルナスが慌てて駆け寄ると大事そうにファルファを手で包み込んで引き寄せた。
「この女は悪い魔女ですよ!軽々しく近づいたらファルファが穢れます!」
アルアネシスの行動をよく知る魔王の補佐官だったチェルナスはファルファに言い聞かせて胸元にしまった。あんなところにポケットが付いていたとは驚きだ。
「アルアネシスは幼い頃にハイエルフの亡霊に取り憑かれて操られていたの、その亡霊は私達が退治したわ。レアルが証明してくれるから後で聞いてみて。今は取り付かれる前の状態に戻っているから今までの事全部忘れてるわ。」
驚いたチェルナスがアルアネシスを見ると、アルアネシスは少し怖がる様にサジェスタの後ろに隠れた。
「...確かに、前の様な悪女というよりは幼い少女の様ですね...エルノラ様の言葉なら確かなのでしょう。闇ギルドは壊滅して後処理も終わっているので全ての原因が退治されたのであれば残るは魔女達の処遇だけですね。」
サジェスタとアルアネシスをどうするか少し悩んだチェルナスはチラリとラナージを見て頷いた。
「監督者としてラナージを据え、魔国発展の為にこの研究所に幽閉としましょう。魔国内であれば外出も許可します。但し、アルアネシスは顔を知られているので名前をアルシスへと変えてください。顔は....髪色を変えればいいでしょう。」
軽く手を振るとアルアネシス改め、アルシスの髪の色が黒く染まっていった。
「よろしいのですか?こちらとしては願ってもない事ですが?」
ラナージは色々と交渉をする予定だったが、呆気なく決定し思わず聞き直してしまった。
「元凶が退治されたなら、何もわからない器に罪を問うても仕方ないでしょう。それよりもラナージにはこれから沢山働いてもらわなければいけないのですから、それに人手も必要でしょう。」
魔王らしい怖い笑顔をしたチェルナスを見たラナージには可愛そうだが愛するサジェスタの為に頑張ってもらうしかないだろう。
「あら、魔王様じゃない。」
テディさんと連れ立ったレアルが部屋へと入ってきた。レアルの肩を支え、エスコートするテディさんはどうやら許してもらえたのだろう。
チェルナスを魔王と呼んだということは、魔王補正はちゃんと働いているようだ。レアルもラナージもチェルナスが魔王だと認識していた。
「レアル、丁度よかった。君達の処分を決めてラナージ預かりにしたよ。君だけはそれとは別で緑の国に無期限派遣の魔王補佐官として任じるよ。」
チェルナスの発言にレアルは驚き声を失った。が、直ぐに戻り反発した。
「国外追放にしてよ!」
「嫌だ、君は優秀だし。それに君だけなら魔国へと行き来ができ、補佐官として手当が出る。何より緑の国は商人の国だからなのか情報が集まりにくくてね。」
「本音が出たわね。...この子のためにダーリンと帰るけど当分は働かないからね!」
お腹を撫でるレアルにチェルナスはテディを見たあとレアルのお腹を見て顔を赤くした。
「あ~、それはおめでとうございます。別に構いませんよ。当分は国内だけで精一杯ですから。それに可愛らしい第一補佐官を確保しましたので。」
そっとファルファの入ったポケットを撫でるとファルファと見つめあい、笑みをかわした。
「その子は、僕の施設の受付け.....いや。なんでもないです。」
言いたいことを飲み込んでラナージは引っ込んだ。
「じゃあ、レアル達の方はこれで解決だね。魔王様も仕事がはかどりそうで良かったよ。妖精族との恋は前途多難だけど相談に乗るから。」
私がチェルナスに告げると顔が輝いたのでファルファは魔王にロックオンされたのは間違いない。ファルファも満更ではなさそうなのでその内相談に乗ることになりそうだ。
「はい。色々とありがとうございました。めが....勇者様のお陰で魔国バルデナの危機は去りました。魔王としてお礼申し上げます。これは魔国への入国のフリーパスです、宿屋も無料で宿泊出来る用にいたしました。」
差し出されたブラックカードを受け取るとありがたくアイテムボックスへとしまった。
「魔王様も決まったことだし、魔族達も他国で見かける様になるのか。冒険者ギルドが戦力の低下に悩まなくて済むな。」
リゼルがふと思いつき口にするとチェルナスが視線を下に落とした。
「そうなんですが...帝国への輸送船が海竜のせいで使用できないので人も物資も滞っているんですよね。」
そういえば、アルネストにいる時にそんなことを聞いた気がする。
「じゃあ、その問題を解決しにいこう!」
ガシリと腹にリゼルの逞しい腕が回される。
「えっ!?」
「助かります!私は国から動けないので勇者様達が動いてくださるなら安心して帝国との交流を再開できそうです。」
リゼルとチェルナスが固い握手を交わすとあれよあれよという間に移動を始めた。
扉が閉まる瞬間のレアルの可哀想な者を見る目が見えたのはなぜだろう。