151、我慢できなかった熊
転移した先で待っていたのは仁王立ちしたレアルと泣いて土下座していたテディの後ろ姿だった。
「.....なにしてるの?」
なぜここにテディがいるのか?土下座しているこの状況は何なのか、転移直後に殺気を撒き散らさないでほしい。
「..思ったより早かったのね。なにって、私の躾の行き届かない熊さんに反省の文字を叩き込んでいるところよ。」
いい笑顔でこちらを見たレアルの目が怖い。
「...ううっ..だってよ、やっぱり心配だしよ...トルネの爺さんが人を派遣してやるから店からキノコが生えてくる前に連れ戻して来いって...グズッ...いわれてよ。」
目を真っ赤にした熊さんは、任せろと言っていたあの割り切った声は強がりだったようだ。
「.....。」
テディは顔を伏せて土下座しているので見えていないが私達はレアルの様子がはっきりとみえる。頬を赤く染め、怒り顔を維持できないほど口がにやけてきている。ふと私達と目が合い今度は羞恥で顔が赤くなった。
「嬉しいなら嬉しいと言えばいいのに....ツンデレか?」
思わずつぶやいた一言を拾っていたレアルに睨まれた。
「テディさん、レアルさんの姿を見ても特に気にしてないみたいね。」
下げていた頭を起き上げ、こちらを振り返ると涙と鼻水を垂らした顔がお目見えした。
「ああ、あんたか。ズビッ...」
テディの後ろからレアルがハンカチで顔を拭い見られる顔にすると離れようとしたレアルをテディが抱きしめた。
「俺の奥さんはどんな姿でも綺麗だ。あんたもそう思うだろ?」
抱きしめたレアルを見つめながら愛おしそうに語るテディに頷いておいた。首まで真っ赤なったレアルが震え出したが恥ずかしさでテディが殴られる前に話題をかえた。
「ところで、アルアネシスとサジェスタとラナージさんは?」
異空間に転移する前の部屋に帰って来たが、ここにはいないようだ。
「隣の部屋よ。ダー..テディがいきなり部屋に入ってきて泣き出したから、隣にいるから話し合えって言われたのよ。」
「隣の部屋ね、わかった。レアルはテディさんと新しい命の事もちゃんと話し合ってね。」
「えっ...!?新しい命って....ハニー、まさか...!?」
「ちょっ!!/////////」
顔を真赤にしたレアルに引き止められる前に部屋を出ようとしたが、その前にガッチリとテディに捕まったので無事に部屋から出ることができた。
「あの魔族はテディさんの奥さんだったんだな。」
そういえば、リゼルは途中退場していて、レアルがハニーさんだと知らなかったか。
「レアルは魔女三姉妹の長女で、闇ギルド壊滅の為に裏で動いてたの。で、接触して協力してアルアネシスを操っていたハイエルフの女王を引きずり出して滅ぼした。私達のやれることはここまでね。」
軽く驚いた顔をしたリゼルは「見事に引き寄せたんだな。」と納得していた。やはり勇者の称号のせいか....。
私とリゼル以外は一時的にだが離れたので勇者の称号の効果は薄まっている筈だ。....そうだと思いたい。
扉に手をかけようとした時、部屋の中から叫び声が聞こえ扉に重い衝撃が伝わった。
慌てて扉を開けようとするが扉が重く開きにくいので力で押し開くとギャッと音がして扉が開いた。
「イヤーッ!!ラナージさん!!!」
サジェスタの悲鳴が聞こえ扉の下をみるとラナージが踏み潰されたカエルの様に床に沈んでいた。慌ててサジェスタが駆け寄りラナージを抱きしめると必死に呼びかけている。
「えっ!?何?何があったの?」
状況を掴めないので説明してほしい。奥に目をやると簡易ベッドから身を起こしたアルアネシスとその近くに腰を落ち着けている白が見えた。
«ラナージがサジェスタに抱きつこうとして、照れたサジェスタに扉までぶっ飛ばされた所にマスターに止めを刺されただけです。»
サジェスタを見ればラナージを介抱しながらもバツの悪い顔で目線を逸らせていたので、間違いではないのだろう。
回復魔法を使いラナージを治療するとアルアネシスの元へと足を運んだ。
「はじめまして。サジェスタお姉さんのお知り合いですか?」
明るく純粋な笑顔を向けながら、アルアネシスはサジェスタを姉と呼んだ。