150、それぞれの望むもの
それぞれ願ったのは些細なものだった。
リゼルは家族の安寧を、ナハトは負の魔力への完全耐性を、ハルルは番の放棄を、ラピスは神眼と魅了の常時発動を自分の意志で発現できるようにすること、カインズとメノウは何も頼まなかった。望むものは自分の手で掴むとか言っている。
「瑛瑠は?どうする?心配しなくても願い事に使う力はアイテムの効果だから問題ないよ。」
「....なら龍樹の力を元に戻して。」
私がボソリと呟きチラリと龍樹をみると軽く驚いた顔をしていた。
「まいったな....。」
何がまいったなのだろうか?龍樹が目の前までくると上目遣いでほんのり頬を染めて私と視線を合わせた。
「君には振り回されてばかりだよ。まあ、時間はタップリあるし後継でも育ててから君の世界に来るよ。」
そう言うと鼻先にチュッと唇が触れた。
「!!!?!!!」
飛び退き鼻を押さえた瞬間、リゼルとナハトが私の前に現れ背に庇った。
「例え神でも俺はヤルぞ。」
「不意打ちはダメです。」
龍樹を牽制する二人に驚いたがお陰で少し落ち着いた。ゲームでパーティを組んでいた時には頼りになる仲間ではあったし、暴走する私のゲーム魂にツッコミを入れてくれた人だ。だが恋愛の様なやり取りはなかったので急に見せた異性の顔に驚いてしまった。
(....ふぅ、まだ顔が赤い気がする。今までそんな雰囲気を出したことが無かったのに。)
龍樹は苦笑いしながら両手を頭上へと掲げると私達の上から光が降り注いだ。
「さあ、これで君達の願いは叶った。」
光に気を取られていた私達は龍樹に目を向けるとその姿は薄く消えかかっている。
「龍樹!」
「心配しなくても大丈夫だよ、元の世界に戻るだけさ。...また会える日を楽しみにしてる。それまで瑛瑠を頼んだよ、守護者たち。」
完全に消え去るまでの間その視線はずっと目に焼き付けるように外される事はなかった。
龍樹が消えるのと同時に周りの景色も元の特殊空間へと戻った所で周りから息を吐く音が聞こえる。
「やっとまともに息ができるな!」
カインズが脱力しながら言葉をだすとハルルも同意する。メノウは相変わらず興奮していたが疲労の色が見えた。ラピスは恐る恐る目を開き、澄んだ金色の瞳をこちらに向けた。
「....普通に見える。」
耳に心地よい美低音が辺りに聞こえ、全員がギョッとした。
「お!おい!ラピス!!声を出すんじゃねぇよ!!魅了されちまうじゃねぇか!!」
カインズが慌てて耳を塞ぐが遅い、聞こえた時点で魅了されている。
「ちゃんと願いは叶ってるわ。声を聞いても大丈夫よ。ラピスが魅了を意識して声を出さない限り発動しない様になってる。神眼も同じね。」
ラピスの元に行き盲目だった瞳を覗くと濁っていた瞳が綺麗な金色の光を宿しているのを確認する。ステータスには盲目ではなくても神眼が入っているので瞳を閉じて意識してみれば発動する仕様になったようだ。
「問題ない。」
「慣れるまでは心臓に悪いな。」
肩を置かれたラピスはハルルに顔を向けた。
「お前は良かったのか?番がいないと言うことは子ができんぞ?」
「かまわない。我等はエルノラと共に行くと決めているのだからむしろ邪魔だ。」
ハルルの言葉に私が驚いた。彼等が望めばそのまま冒険者として活躍することもでき、一生を普通に生きて死ぬことができる。彼らの強さならハルルの様に英雄としても成功するだろう。
「私の眷属になってこの世界を一緒に守ってくれるの?」
「何を当たり前のことをいっているんだ?元々厄介者だった俺達が普通になれる訳がないんだから、止めてくれるエルノラがいなきゃ誰が俺達を適度に止めてくれるんだ。」
いい加減世話をかけさせるなと言いたい所だが確かに暴走したら面倒なことになりそうだ。
「その為に願い事を断ったしな。俺達が眷属になるなら寿命は完全になくなるんだろ?なら沢山冒険して色々素材を集められるし強くなれる。研究も引き篭もってし放題だな。」
«マスター、腹が決まってるならこのまま神界へ連れて眷属にしてきます。リゼルがいればそちらは問題ないと思うので。»
黒が提案すると私は頷いて皆をみた。
「ありがとう。これからもよろしくね。」
「エル、なるべく早く戻ってきますから、僕を忘れないでくださいね。リゼ、エルをお願いします。」
「ああ、任せとけ。」
「黒、ラピスとハルルは後で白を戻すから白の眷属にして。」
«はい。たまにはこちらにお帰りください。»
「落ち着いたら一度帰るわ。」
ナハトの肩にピョンと飛び乗るとハルル達も共に黒が神界へと転移した。
私とリゼルしかいなくなった空間で彼らと彼の消えた場所に少し眺めた後、私達も白とレアル達の待つ元の場所へと転移した。