149、龍樹
スッと、前に出たリゼルが手に持った武器を消して少年の前に立った。
「先刻ぶりです。タツキ様。」
苦手意識を持っていたっぽいリゼルが、やはり神相手だからか恭しく膝を付き頭を下げた。それを見た美少年はリゼルの頭を手でポンポンと軽く置いた。
「まさか、呼び出されるとは思わなかったよ。このまま知らない内に消えるつもりだったからね。」
苦笑いをしながら困ったように笑うタツキにリゼルは首を傾げた。その様子を見ていた仲間たちが警戒を解き困ったようにこちらに視線をなげかけてくる。
「この人は、異世界の上級神で[龍樹]。ナト達はまだ名前を呼ばないでね、女神の加護があっても爆散しちゃうから。」
ギョッとした顔を皆に向けられたが、上級神の正しい名を口にすれば影響があるのだ。神力を取り込みやすくなり耐えられず体内で破裂する。リゼルは神の眷属なので影響がないのだが、ナハト達はまだなので危険だ。
「やれやれ、私のことはタツキでいいよ。音だけなら正しい名にはならないだろうし。この世界にはあちらの世界の漢字はないからね。...ところで呼ばれた理由は?」
タツキがこちらに視線を向けたので渾身の笑顔で応対した。何故か全員一瞬で一歩下がったのが不思議だ。
「1、何故伝言を書物で残したの?書物が聖書になったあげく更に都合のいいように書き換えられて悪用されたでしょうが!」
「いや〜、最後のボスをエルが倒したのはいいけどさ、その後メグルが..前の女神ね。倒れちゃったから急いで神の交代をする準備でバタバタしちゃってさ〜、でも魔王の交代も忘れるわけにいかなかったから丁度封印だし、エルが女神を継いだ後でいいかなーって、前任の白にメモを頼んでいたんだ。エルが眠りについてから思い出して、魔王の事をよろしくって対処方法を前任の白にまた頼んでおいたんだ。まさかハイエルフの宝になって更に中身が書き換えられるとは思わなかったさ。」
ハハハっと軽い笑いで済ませてくる龍樹の頭を叩きたい衝動に駆られるがまだあるので抑えておく。
「2、なんでまだここにいるの?異世界の神がここにいるのはリスクがあるでしょ?そんなに縮んじゃてるじゃない!」
「おかけで助かっただろう?最初にパーティを組んだ時に言った言葉をおぼえているか?「ゲームを心から楽しむ姿に惹かれた。パーティを組んでくれないか?これからずっと楽しませてくれ、その代わりあらゆるサポートを惜しまない。」エルは攻略に苦戦してたから直ぐに喰いついて来たよな?」
「それはゲームの話であって現実の話じゃない!私が女神になる時にあの子と一緒に力を渡してくれたでしょ?馴染むまでの期間を無理やり短縮させたお陰で200年で済んだけど、その分力が減った龍樹はパーティを組んでた時より若返ってた。その後私は直ぐに眠ってしまって...起きたら絶対に問いただす為に[神の箱庭]の作成を思いついたのよ。」
自分の身を削ってまであの子の世界を守りたいのは私も同じだ。だからこそ、この女神業を引き受けたのだから。龍樹はメグルに頼まれ自分の世界を一時的にこの世界と繋げ延命措置をした後ゲームを通じでメグルの後継を見つけて育て、更には自らその後継とパーティーを組みつつ世界にとって後々問題を起こしそうな者を組み込み矯正させた。
思い通りに進め、メグルの願いを叶え世界を救い新たな女神に託すことに成功した龍樹は自分の世界に帰ったと思っていた。
私が目覚め、メグルの消滅を防いだ時にはいなかった。地上に降り立ったときも、黒と白もいたなら気付いたはずだ。だがまだ帰っておらずここにいて、リゼルの覚醒にまで係わっていた。
力の使いすぎでとうとう見た目に現れてしまっている。本来なら精悍な顔立ちの美丈夫だがあどけない少年になってしまっている。
複雑な感情で龍樹をみていたら目線が合い優しく微笑まれた。
「心配してくれてありがとう、だけどこれでいいんだ。...この世界の基盤は整った、後は瑛瑠が守ってくれるだろう?」
「ま、守るわよ!...龍樹は早く自分の世界に戻って力を元に戻しなさいよね!」
心がドキリとしたが気づかないふりをして早く帰れと手を振る。
「やれやれ、ちゃんと戻るよ。っと、その前にアイテムの効果で君の願いを一つ叶えないといけない。[神の箱庭]は神を呼び出すだけじゃなくて願い事を一つ叶える誓約があるんだ。この場にいる全員のね。」
「全員の!?」×7
「.....!?」
「ただし、自分自身に関することだけだよ。よく考えて願いを決めてくれ。」